箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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バベル①/15日目

 

 

 こちらの『ノア』よりはるかに大きい移動艦が、距離を空けて後方に着く。

 さて、お話をしようにもどうすればいいのだろう? と考えていると、移動艦の下部のハッチが開き、そこから人影が現われた。

 

 先を歩くのが白い長髪に白い服を着た女性で、それを追いかけるようにエメラルドグリーンに近い色の服を着たセミロングの女性、フードで頭全体を覆った男か女かも分からない黒づくめの人物が続く。

 

 何やら言い争っているみたいだが、こちらはこちらで準備を進めておこう。

 

 住民達が採取などに赴く際に使用する階段を、いつものように『ノア』に立てかけるように設置する。

 話し合いの場は建物の中を考えてみたけれど、祠の近くにしか設定出来ないようなので、祠の正面にイスとテーブルを用意した。

 

 今日の天気が晴天で良かった。青空教室ならぬ青空会談である。

 

 そうこうしている間に3人組は階段の下に辿り着きそうになっていたので、慌てて住民を迎えに送ると、彼女達は臆することなく住民と共に階段を登ってきた。

 黒づくめの人物だけ、明らかに疲れているのが見て取れる。

 

 

「……何だか緊張してきた」

 

 

 相手側は武器を持っていないようだし、こちらもその誠意に応えるべきだろう。

 

 サガとフロストリーフ、シャイニングを祠の傍に残して、集まってきていた住民達には住居の方へ戻ってもらう。

 ケオベは祠の裏で寝ているので放置した。相手からは見えない位置だし、問題無いはずだ。

 

 

 静寂の中、彼女達がテーブルの前で歩みを止め、立ち止まる。

 

 互いに、無言。

 

 ……もしかしてこれ、俺から先に発言をしないといけないのか? 

 

 そんなことを考えながら何度か画面をクリックすると、ようやく選択肢が現われた。

 

 とりあえず「ロドスの皆様ようこそ。歓迎します」で良いだろう。ついでに着席も促しておく。

 

 

 

『3名の警戒度が上昇しました』

 

 

「いや何で?」

 

 

 

 画面に現れるポップアップ。

 どこか警戒される要素があっただろうか? 

 

 困惑する俺をよそに、彼女達はイスに腰を下ろす。

 

 

 ……あ、こっちのネームドの皆のイスを忘れていた。

 立たせておくのも申し訳無いし、設置しておこう。

 

 

 

『3名の警戒度が上昇しました』

 

 

「だから何で!?」

 

 

 

 どうやらこの会談は、前途多難らしい。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「殿下、何故君が先に出て行くんだ。これは私達にとって全く未知の邂逅だ。敵か味方かもはっきりとしていない相手を前に取るべき行動ではない。無論こちらのトップが赴くという行為が相手に与える印象も時と場合によっては無視出来ないが、その場面がここでは無いということは確かだ。私が言いたいことが分かるな? 私とドクターが向かう。君は待機していてくれ」

 

「……ドクター、あなたはどう思う? ケルシーの言う通り、駄目かしら?」

 

「狙撃班を待機させている。多少の荒事も想定済みだ。テレジア、君の好きにするといい」

 

 

 移動艦からいの一番に飛び出した女性──テレジアを、それを追いかけたケルシーという女性が引き留める。

 テレジアが困ったように目を向ければ、名前を呼ばれたドクターという人物は、こうなってはどうしようもないというかのように肩を竦めた。

 

 

「3人で行きましょう。ね、ケルシー?」

 

 

 彼女がこういった時に譲らないことを、長い付き合いの中でケルシーは知っていた。

 歩みを進めるテレジアの背を見て、ため息と共に一度頭を掻く。次いでドクターの方を睨みつけた。

 

 

「八つ当たりは止めてくれ。今回は私も被害者だろう?」と言い、テレジアの後に付いていくドクター。

 

 未だどうするべきかと慌てている他の仲間に、いくつか言葉と指示を残した後、ケルシーもまたその背を追いかけた。

 

 

 

 

 

「──目的を確認しよう」

 

 

 段々と『ノア』に近付いていくその途中で、ドクターが口を開いた。

 遡ること1ヶ月ほど前、彼等──『バベル』は、協力関係にある組織から『鉱石病予防薬』なるものを手に入れた。

 

「うちの従業員が持って来やがった。面倒事にしかならねえからくれてやる」と、投げ捨てるように渡されたそれは、当初一笑に付されたのだが、成分などを解析した結果、『バベル』の誰もがその存在を笑えなくなった。

 

『鉱石病を治す薬は存在しない』という通説を、覆すかもしれない可能性。

 しかしそれは同時に、このテラに対する劇物と成り得る可能性をも秘めていた。

 

 とんでもないものを寄越した当人を問い詰めても「知らねえ」の一点張りで、ならばその従業員を出せと迫っても「『ラテラーノ』に行った。しばらく帰ってこない」と、にべもない。

 

 鉱石病の研究・治療は『バベル』にとって最重要課題の一つだが、とある事情──彼等の住む国『カズデル』における内戦の緊張の高まりにより、そちらに力を傾けることが日に日に困難な状況へと陥っていたため、彼等は選択を迫られた。

 

 

『夢の可能性』を追うか、『現実の戦い』に向かうか。

 

 

 選択に残された時間は少なく、行動を起こすのであれば今しかない。

 その中でもたらされたのが、移動する拠点『ノア』の情報である。

 

 

「まず第一に、あの『ノア』が私達の味方となるかどうかを見極める必要がある。そしてもし敵になる可能性があるならば、排除も視野に入れなければならない」

 

 

 先頭を歩くテレジアが、排除の言葉に眉を顰める。

 それが分かっていてなお、ドクターは言葉を続けた。

 

 

「次点でこの『鉱石病予防薬』の詳細の解明だ。製法はもちろん、もし備蓄があるのであればその交渉も含まれる」

 

「………………」

 

「殿下、ドクターの言う通りだ。君の気持ちは分かるがこの順番は譲れない。私達には時間が無く、これ以上敵を増やすわけにはいかないからだ」

 

 

 口を噤むテレジアに、ケルシーはそう諭した。

 

 

 言っていることは分かる。

 今この時だって、2人だけではなく他の仲間達にも無理をさせている身では、返す言葉も無い。

 

 それでもテレジアは、この降って湧いた奇跡のような機会を、決して手放したくなかった。

 

 

 

「……一つだけ、お願いがあるの」

 

「もし私に危害が加えられそうになっても、すぐには行動を起こさないで」

 

「──私にあの『ノア』を、信じさせて」

 

 

 

 それは彼女の、テレジアの覚悟の表れ。

 

 2人は黙し、何も返すことは無かった。

 

 





≪Tips≫

『組織≪バベル≫との会談を開始します』

『以降、一部の会話において選択肢から選ぶことが不可能となります』

『貴方自身の言葉を入力して下さい。適切な言葉に変換し、対応します』

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