箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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シーボーン/72日目

 

 

「オーナー、それとテレジア。あなた達がシーボーンについてどこまで知っているのか分からないから、基本的な事も含めて説明するわね」

 

 

 そう前置きをしてミュルジスの口から語られていく内容に、正面に座るオーナーも無線機越しのテレジアも、声を発することなくただ聞き続けた。

 オーナーがフィアメッタ達から得た基本的な情報と同じ内容の間は、オーナーの表情は真剣なだけであったが、その後に続いた初耳となる部分になっていくに連れ、その青さを増していく。

 

 

 ・シーボーンは同族との間で特殊な行動を取ることが多く、個ではなく全として活動する群生生物と見られている。

 

 ・シーボーンの成長速度は凄まじく、適応あるいは進化を重ねることでその容姿や能力を発展させることが出来る。

 

 ・またシーボーンはその情報を同族に伝達及び共有することが出来、自身のみならず周りの同族にまで進化を促す。

 

 

 ・シーボーンは源石に耐性が有り、鉱石病に感染しない────と言われている。

 

 

 このテラの大地において、オーナーの身体や備わっている特性を、十全に説明出来るものはもう居ない。

 そのためどんな結果や事実があったとしてもそれは推測や予測に過ぎないのだが、ミュルジスから齎された情報はオーナー達に確かな衝撃を与えていた。

 

 『適応』、『進化』、『伝達』、『共有』、そして『源石への耐性』。

 

 オーナーにとっては、どこか身に覚えのある単語だった。

 それが真に正しいかを知る術が無い以上、オーナーは疑うことしか出来ない。

 

 

 人間じゃないどころか、自分は人類の敵かもしれない。

 

 

 その可能性にオーナーは恐怖し────握りしめた手を包み込む存在に気が付く。

 何時の間にかオーナーの隣へとやって来ていたミュルジスの両手が、震えるオーナーの手を優しく包み込んでいた。

 

 

「落ち着いて、オーナー。最初に言ったでしょう? これはあくまで仮説よ」

 

「動植物の生態を研究してきた身だから、この仮説に辿り着いたの」

 

「……テラの大地で源石に耐性を持っている生物は、限られてるから」

 

 

 その声に、オーナーは隣のミュルジスの顔を見た。

 そしてゆっくりと視線を落とし、彼女の両手のところで止まる。

 

 

「……ミュルジスさん、ごめんなさい」

 

「どうしてオーナーが謝るの? あたしがこの仮説を話したのは、あなた自身に危機感を持って自衛して貰うためよ」

 

「だって、その……私は……」

 

 

 オーナーは『共感』によってミュルジスの感情を知り、それ故に疑問を持った。

 

 ミュルジスはここ最近ずっと、オーナーのことばかり考えていた。

 だからこそ、オーナーが抱いた疑問を察することが出来た。

 

 ミュルジスが、柔らかく微笑む。

 

 

「あたしが出会ったのは『エルフの生き残り』でも『シーボーンの特性を持つ人』でも無い」

 

「あたしは──『オーナー』、あなたに出会ったのよ」

 

「喜びも嬉しさも安堵も、何一つ色褪せていないわ」

 

 

 強い感情と共に放たれたその言葉に、オーナーは何も言えず顔を伏せることしか出来ない。

 やがてオーナーからか細く漏れた「ありがとうございます」という感謝の言葉に、ミュルジスは「気にしないで」と返した。

 

 包み込む手はそのままに、ミュルジスはテーブルの上の無線機へと顔を向ける。

 

 

「安心しなさい、きっとテレジアもあたしと同じ気持ちよ」

 

 

 その呼び掛けに、沈黙を保っていた無線機が震える。

 流石のテレジアでも人類への脅威となると見過ごせないのではないか、という恐怖に、オーナーは身を強張らせた。

 

 

『…………オーナー、聞こえてるかしら?』

 

「……はい」

 

『私にも、オーナーに話してない事情がたくさんあるの。だから、今聞いたことであなたへの見方や接し方を変えたりしないわ』

 

「テレジアさん……」

 

『いつも通り待ってるから……ちゃんと帰って来てね?』

 

「……分かりました」

 

 

 そうして、無線機は再び沈黙する。

 やり取りを聞いていたミュルジスは、一瞬だけ複雑な表情を浮かべ──想いごと吞み込んだ。

 

 

「楽しい時間は大事だけど、オーナーが自覚を持って気を付ける事の方が今は大事。細かいところも含めて、あたしが持っている情報と考えた推測を、あなた達に教えるわ」

 

 

 もし最初にその情報を知っていれば、ミュルジスは違う感情を抱いていたに違いない。

 だが現実としてミュルジスは、オーナーの優しさに先に触れた。

 

 ほどけて消えた孤独感は、彼女の下へと戻ってくることは無い。

 

 それが、それだけが、彼女にとっては純然たる事実だった。

 

 

 そしてそれはきっと、この場に居ないテレジアにとっても。

 

 

 

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