「──ノアの方にはまだ連絡していないんですか?」
「左様でござる。Ace殿やScout殿と話したのだが、オーナー殿に負担がかかる可能性が高いという結論に至った」
「そうなると……このままノアに行くのは大丈夫なんでしょうか? 流石に警備とかは居ますよね? 到着早々不審者として捕まったりは……」
「ご安心なされよ。拙僧が手引きします故、ノアの近くまで行くことに問題はありませぬ」
「それじゃあ後は、私が『オーナー』であることを示せれば話は早いと。……現状、何も策が無いのが怖いところですね」
「先日申し上げた通り、ノアはずっと沈黙しているでござる。オーナーが近付けば何かが起こる可能性もあるが……こればっかりは試してみないことには何も言えぬでしょう」
サガとの買い物──ノアとロドスの皆へのお土産らしい──の最中、俺はサガから現在の状況を聞いた。
この世界では源石の影響で、長距離通信を行うのは難しいと聞いたことが有る。
なので『トランスポーター』と呼ばれる職業の人々が、都市などへ手紙を届けるのが主な連絡手段になるらしい。
聞けば、届け先が僻地の村ともなれば届くのが数年後になることも多々あるとか。
……俺が行ってもノアが動かない可能性がある以上、サガ達の判断は正しいと思う。
何か出来るかどうかはぶっつけ本番、か。上手く事が進むのを祈っておこう。
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「私達はシエスタからの定期便でラテラーノに帰ることにしたんだ。『頑張ったけどロドスの方が先に、オーナーを見付けました』って報告しないといけないからね」
「……モスティマさん、ありがとうございます」
「それ、この前も聞いたよ。……もしオーナーが罪悪感みたいなものを感じているのなら、一つお願いをしてもいいかな?」
「もちろん良いですよ」
「……内容を聞く前から了承するの、これからは気を付けた方が良いよ。と言っても大したお願いじゃないんだけど……、いろいろと落ち着いたら『ペンギン急便』の方にも遊びに来て欲しいんだ」
「えーと、確かモスティマさんが所属している、炎国の龍門にある運送会社ですよね? 私は全然大丈夫です」
「じゃあ決まりだね。ふふ、皆で楽しみに待ってるよ」
もう何件目になるか分からないスイーツショップでは、モスティマと新たな約束をした。
既に『落ち着いたらラテラーノに伺う』という約束もしているので、訪ね先が増えた形になる。
モスティマの『皆』という部分が凄く気になるが、彼女は俺にとても親切にしてくれた良い人だし、その同僚ともなればそう問題があるような人達では無いだろう。
そういえば『生息演算』をプレイしていた頃、社名に『ペンギン』が付くなんてこの世界にも『ペンギン』が居るのか、なんて思ったことがあったな。
トップの名前は『エンペラー』だと、モスティマは言っていた。余程『ペンギン』が好きか、『皇帝』のように威厳のある人なのかもしれない。
どちらにせよ、楽しみだ。
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「えっ!? ミヅキさんも一緒に来てくれるんですかっ!?」
「うん。実はこの前、『偶然』ロドスの人達に会ってね。……いろいろ有って、スカウトされたんだ」
「ということは、ロドスのオペレーターに?」
「うーん、そこはまだ考え中かな? とりあえずはどんな事をしているのか、どんな人達が居るのか、自分の目で見てみないと」
「前にも言いましたけど私の目的地はノアです。そんなに遠くない場所にロドスがあると聞いてますので、また一緒に遊べますね!」
「そうだね、僕もすっごく楽しみだよ!」
ミヅキさん手作りの料理に舌鼓を打ちながら、彼とはそんなことを話した。
料理は、何というか新鮮の枠を超えて『まだ生きている』かのような少々不気味な見た目ではあったが、俺は割とすんなりと受け入れることが出来た。
新鮮な活け造りや踊り食いの経験もあるし、何ならこの世界に来て虫食も経験した身だ。ゲテモノは美味いとも言うし、然程気になるものでも無かった。
俺が食べる前に『無理して食べなくても良いからね?』と不安そうに言っていたミヅキさんは、俺の食べっぷりにとても喜んでいた。
追加で数品も料理が増えたのは大変だったが、どれも非常に美味しかった。
またいつか、作ってくれないかな?
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「これも違う。これも駄目。うーん……迷うわね」
「ミュルジスさん……? あの、何もそこまで……」
「もう少しだけ時間をちょうだい。今、これとこれとこれで迷ってるところだから」
「そう言いつつ、四つ目を手に取ってますよね?」
「……せっかくのプレゼントだもの。オーナー、あなたのことをちゃんと考えながら、選びたいの。……駄目?」
「……分かりました。ゆっくり選んで下さい。待ってますから」
ミュルジスとのショッピングは、俺の財布事情が寂しいこともあり、ほとんど付き添いの形だった。
途中で彼女から『全部私が奢るわよ?』と提案されたが、そこまでして貰うと申し訳無さしか残らないので丁重にお断りした。
彼女は一度、クルビアのライン生命へと戻るらしい。
かなりの無茶をしてシエスタにやって来たとのことで、戻ると始末書ものだとか。
……俺の存在って研究対象として価値が有りそうだし、その辺りを報告したら許されたりしないだろうか? と思ってその旨を話したところ、ミュルジスには涙目で説教された。
『自分の命を大切にしなさい!』とも言われてしまった。……尤もな言い分なのだが、ライン生命って命に関わるようなところなのか? ミュルジスはそんなところに居て大丈夫? ちょっと心配になる。
そして彼女を悲しませてしまったお詫びに、傘をプレゼントとして受け取って欲しい、というお願いをされた。
俺が贈る側じゃないのか、と思ったが、ミュルジス曰く『傘を見てあたしを思い出して欲しい』とのこと。
……都市を離れると二度と会わないことも少なくないと聞くし、ミュルジスの感覚もきっと普通のものなんだろうな。うん。
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「オーナー、そっちにある資料を持って来て貰えるかしら?」
「……多分これだろ。持ってけ」
「ありがとうございます、アスベストスさん。……テレジアさん、これですか?」
「ええ、合っているわ。オーナーもアスベストスも、手伝ってくれてありがとう」
シエスタで雨が降った日。
ちょうど予定も一通り済ませていた俺は、ホテルの部屋で二人との時間を過ごした。
ロドスから預かった資料や書類を読み込むテレジアと、椅子に腰かけて気怠そうに欠伸をするアスベストスさん。
ここ数日いろいろと、本当にいろいろと有って、肉体的にも精神的にも休まる暇が無かったから、こういったゆったりとした時間は久々だった。
雨の音をBGM代わりに、時折テレジアを手伝いながら、ゆっくりと時間は過ぎていく。
……イェラグに居た頃ととても似ている。あの頃も吹雪の日は、部屋で三人で過ごしたのだ。
関係とか事情とか、変わってしまった部分は確かにあるけれど、何となく好きだった時間が戻って来たみたいで嬉しい。
願わくばノアに戻ってもまた、こうやって穏やかな時間を、テレジアとアスベストスさんと過ごせたら良いな。
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楽しい時間も穏やかな時間も、いつか終わりは来る。
シエスタでの滞在は予定通りに終了し、モスティマ達とミュルジスにお別れを告げた俺は、ロドスの人達と合流した。
そこからノアへ、補給地点を通ったり、鉱石病に苦しむ村の人達を支援したり、感染者を迫害する人達に出会ったり、天災の影響でルートを変更したり、テレジアのお願いを聞いてとあるモノを二人で見たり……。
紆余曲折を経ること約二ヶ月の旅路。
俺はようやく、ノアが微かに見えるところまで来ることが出来た。