『貴方自身の言葉を入力して下さい。適切な言葉に変換し、対応します』
画面に現れたそのメッセージを、俺は二度見した。
もしかして高性能なAIでも積んでいるのかと思ったが、こんなただの話し合いの場面で使用するものでもないだろう。
どうせあれだろ? あらかじめテキストが決まってて、その中から近いものが選ばれるとかそういうものだろ?
そう結論付けて画面をクリックすると、話し合いが始まった。
テーブルを挟んで祠の正面に座る白い服を着た女性が、挨拶と共に自分と両脇の2名の自己紹介をする。
どうやらこの人の名前は『テレジア』で、両脇の人達はそれぞれ『ケルシー』『ドクター』という名前らしい。
『ドクター』って、名前か? 役職に聞こえるけど……。
あと、この人達『バベル』って名乗ったけど、『ロドス』じゃないのか?
うーん、会話のログを見返せないのは困るな……。
『……あなたが、その「ノア」ということでよろしいでしょうか?』
その問いに、テキスト入力のためのボックスが現われる。
良かった。簡単な問いだ。
それにどうやら入力が終わるまで、ゲーム内の時間も止まっているらしい。入力する内容を吟味出来るのは非常に助かる仕様だ。
警戒度が上がっているとのことなので、丁寧に返すことにしよう。
『ノア』、確かにそうではある。
でも住民達には、『ノア様』と言われるのが何となく恥ずかしいので、『ノア』の権限を所有しているという意味で『オーナー』と呼んで欲しいと伝えているのだ。
一部の住民は未だに『ノア様』と言ってくるが、今ではそれなりに浸透してくれている。
つまり後々「名前が違う」という疑念を持たれる可能性があるわけだ。その疑いをあらかじめ払拭しておこう。
「『正確にはこの拠点の名前がノアで、私はただの所有者です。私のことはオーナーとでも呼んで下さい』……こんな感じか?」
エンターキーを押すと、再びゲーム内の時間が動き始めた。
祠から音が出るのは住民達の反応で知っているけど、テキストボックスが出てくれないからどう変換されたのか、あるいは変換されなかったのか、全く分からない。
まあポップアップが出ないし、問題無い回答だったということだろう。
テレジア達のセリフが続き、しばらくは選択肢もちゃんと出現してくれた。やっぱりこっちの方が楽で良い。
「おっ、モスティマに渡した予防薬! 今はバベルにあるのか。見覚えも何も、うちで作った薬なんだよな。……というか何で驚いてるんだ? モスティマから聞いてやって来た訳じゃないのか? うーん、分からん」
そうしてまた、入力の時間が訪れる。
『あなたの推測する通り、私達の目的はこの薬に関することです。要求があれば呑みます。教えて頂けますか?』
予防薬に関すること?
となると、何だろう? 作成方法と効果とか? いや、もしかして在庫と値段を知りたいのかもしれない。
この場面で区切られるのは困るなぁ……。一体この薬の何を知りたいんだ?
疑問は尽きないけど時間はある。一つ一つ考えてみよう。
まず作成方法なら『レシピから作りました。材料は木と水と鉱物です』になる。
効果がテキスト通りなら『身体への源石浸食を一定量予防し、血液中源石密度を低下させることが出来ます』になる。
在庫だと『約100名分ならすぐに用意出来ます。それ以上は資源が必要です』になる。
値段は価値が分からないし、どうしようか。『あなたたちで値段を付けて下さい』とか言ったら買い叩かれたりするんだろうか?
何というか、どれも返答としてしっくり来ない。
「──なるほど。そのための『適切な言葉に変換し、対応します』なのか」
そもそもゲームの設定とか仕様を話しても、相手が分かるはずが無い。翻訳はそのためにあるのだろう。
そう考えると少し気が楽になった。いきなりゲームオーバーにはならないと思うし、肩肘張らずにやってみようかな。
要求の方は叶えてもらえる範囲が分からないから一旦置いておいて……。
「『作成方法と効果は大丈夫です。在庫はありますがいくつ必要ですか? 値段については要相談になります』で、どうだ?」
エンターキーを押しても画面は変わらない。
ボックスに重なるように、『要求を入力して下さい』の文字が出た。
「おいおい、全部入力し直しなのか……。『作成方法と効果は大丈夫です。在庫はありますがいくつ必要ですか? 値段については要相談になります』っと。あとは続けて『こちらの要求として、見合うと思う分の物資か情報を求めます』。……よし、通ったな」
要求部分を相手の匙加減次第にしてしまっているが、問題無く画面は切り替わってくれたので安心だ。
長文で入力したし、どんな言葉に変換されたのか一回見てみたかったな……。
『ドクター・ケルシーの警戒度が上昇しました』
──本当に、何と翻訳されたんだろう?
教えてくれないと対策も出来ないんだが?
≪Tips≫
変換記録:
『≪ノア≫というのはこの拠点の名前で、私はただの所有者に過ぎません。私のことは≪オーナー≫と呼んで下さい』
『こちらには、そちらの全ての要求に応じる用意があります。そして私は、それに見合うだけの対価を求めます』