クルビア兵として戦い、生き残って今度は傭兵に。
戦いの日々に、増える傷跡と減っていく同業に、疑問を持ったことなど無かった。
生き残っては戦い、死に損なっては戦う。
そしていつかきっと、私にも終わりがやって来る。
冷たく、暗く、身が震えるほどの……死が。
──そう、思っていた。
オーナーに出会うまでは。
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「フロストリーフさん、しばらくの間休息を取って下さい」
「……それは、上からの命令か?」
「はい。少なくともその傷が癒えるまでは、新たな任務をお願いすることは出来ません」
「…………分かった」
ロドス艦内。
医療オペレーターの言葉を受け、フロストリーフは踵を返し、目的地を艦内の閲覧室へと変えた。
纏う衣服は綺麗であるものの、その端々には損傷が刻まれており、その隙間からは所々に朱が点在する包帯が見え隠れしている。
彼女が使用する得物──ハルバードに添えられた手は、年齢に似つかわしくないほどにボロボロとなっていた。
フロストリーフがロドスの臨時オペレーターとして雇われてから、彼女はずっとこの調子を崩さない。
主に戦闘に関係する任務を受け、傷付いたり、あるいは今回のように止められたりした時は、再び任務を受けられるようになるまで、閲覧室で本を読み知識を得る。
そんな生活を続け、それはオーナーがノアに帰って来て、意識を失ってからも変わることは無い。
オーナーが帰って来たということを聞いた時、彼女の心は歓喜に震えた。
意識を失いロドスに運び込まれたと聞いた時、彼女の心は悲哀に沈んだ。
(もし、私に医療の知識が有ったなら)
閲覧室に向かうその道中で、もう何度目になるか分からない問い掛けを、彼女は自身に行う。
ロドスの何処かに居るオーナーの詳しい所在は、一部の限られた人しか知らない。
フロストリーフはその一部の限られた人──シャイニングから、オーナーの様子を聞くことしか出来なかった。
何故シャイニングだけはオーナーに会えるのか、という羨望の気持ちと、医療従事者として優秀な人物なのだから当然だ、という納得の気持ち。
二つの気持ちはフロストリーフの中で渦巻いて、どれだけ日が経とうとも、治まる気配がしない。
たとえ眠り続ける姿しか目に出来ずとも、彼女は一目だけでもオーナーに会いたかった。
(……無駄だな)
会ったところで、何が出来る訳でも無い。ただ自分が満足したいだけだ。
いつものようにそう結論付けて、彼女は気持ちに蓋をする。
そうしてフロストリーフは、そんなことよりも堅実な道を選ぶのだ。
臨時オペレーターとして働くことで、ノアはロドスの協力を受けられる。
戦闘任務をこなし、多くの訓練を重ねることで戦闘能力を向上させる。
文字を学び、言葉を覚え、本を読むことで新たな知識を手に入れる。
ノアの住民が喜ぶことで、オーナーもきっと喜んでくれるに違いない。
今よりずっと強くなれば、オーナーに何かあっても守ることが出来る。
知識と教養を身に付けられれば、オーナーの傍にも胸を張って立てる。
もしかしたら水泡と帰するかもしれない。オーナーの役に立たないかもしれない。
そんな恐怖を抱えたまま、フロストリーフは自分に出来る努力をする。
これは今まで努力を怠っていた罰なのだ、と、非難の声を自身に浴びせながら。
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「────初めまして、フロストリーフさん」
「えーと、その……すみません。緊張して考えていたことが飛んでしまいました」
「この面会、フロストリーフさんが一人目なもので……」
覚悟を決めて入室した先で、ベッドに座るオーナーを見たフロストリーフは、様々な感情を抱えて言葉に詰まった。
オーナーの声は確かに聞こえるが、その内容が頭に中々入って来ない。
それでも、彼女の耳は確かに聞いた。
(私を、一人目に選んでくれたのか……?)
冷静に考えれば、合理的な理由があるのだろう。
だが都合が良過ぎる考えだとしても、彼女はそれに縋る。
オーナーも私と同じで、会いたがっていたのだと、思い込むことにした。
冷えた身体に、焦がすような熱が伝わっていく。
そして喜びを胸に、彼女は言葉に万感の『想い』を乗せた。
「おかえり、オーナー……!」