「シャイニングさん、こちらのお薬はどの戸棚にしまえばよろしいのでしょうか?」
「奥の右から二番目の戸棚にお願いします。……リズさん、手伝って頂けるのはありがたいのですが、あまり無理は……」
「大丈夫ですよ。最近は特に身体の調子が良いので……」
ロドス本艦にいくつか設けられている、診療室の一つ。
届けられた薬などの物資を整頓していたシャイニングは、薬の入った箱を抱えて部屋の奥へと向かうリズの後姿を見て、感慨深いものを胸中に抱いた。
下半身の神経に異常をきたし、車椅子で生活をしていたリズの姿は、シャイニングにとってもう過去のものとなっている。
治療のキッカケはオーナーから貰った『救急キット』だが、こうしてシャイニングを手伝えるまでに回復したのは、本人の弛まぬリハビリの努力と、それを支えた者達の献身のおかげである。
時折会話を挟みながら作業を続け、診療室を訪れたロドスの職員達へ治療を施し、彼女達の忙しない時間が過ぎていく。
「────今日も精が出ているな、シャイニング」
部屋へと入って来たニアールを見て、シャイニングはようやく時計を確認した。
時間を忘れて仕事に没頭していたが、彼女には大事な予定が控えている。
「……こんにちは、ニアールさん。もうそんな時間ですか?」
「ああ、リズは私が部屋に送り届けよう。……シャイニングは、今からオーナーのところへ行くのだろう?」
「はい。いつも、すみません……」
「謝る必要は無い。オーナーには周りの者も含め、いろいろと助けられてきた。……早く目覚めると良いな」
ニアールの優しい声音にシャイニングはこくりと頷くと、リズの方へと振り返った。
「リズさん、それではまた後で……」
「はい。…………シャイニングさん」
「……どうか、されましたか?」
リズは、シャイニングをジッと見詰めていた。
名前を呼んで、それっきり言葉を発しない。
合った視線を逸らすことも出来ず、シャイニングが困惑を覚え始めた頃、リズはそっと目を伏せた。
「シャイニングさんも……あまり無理をなさらないで下さいね?」
「………………」
「呼び止めてしまって申し訳ございません。────ニアールさん、行きましょう」
そうして二人が部屋を出て行き、部屋に一人残されたシャイニングは、しばらくしてから小さく息を吐いた。
診療用の自身の道具を片付け、オーナーの部屋へと向かう準備を整え、次の当番へと引継を済ませて、部屋を出る。
(……リズさん、ニアールさん)
胸中に渦巻くのは、後ろめたさ。
二人の優しさが、今のシャイニングにとっては心苦しかった。
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「────今日も、数値に異常無し」
オーナーが眠るベッドの横で佇むシャイニングは、もう何度目になるか分からない同じ言葉を呟いた。
オーナーの部屋にはシャイニングやケルシーを含めた数名の医療オペレーターが、一日の内に代わる代わる様子を見に来るのだが、今のところ異なる様子を見せたことは無い。
それでもシャイニングは、殆ど欠かすことなく毎日この部屋へと足を運んでいる。
「オーナー……」
シャイニングはそっと、眠るオーナーの頬を撫でた。
次いで自身のその手を、オーナーの手へと持っていき、指を絡める。
空いた手も使ってオーナーの手を包み込むと、シャイニングは確かな熱を感じた。
(……ごめんなさい)
その謝罪は、誰に、何に向けてのものだったのか、彼女以外に知る術は無い。
シャイニングは、自身が行っていることが医療行為では無いことを自覚している。
こうやって手を握ったところで、オーナーが目覚める訳では無いことを承知している。
シャイニングは、自身の心を満たすためにこの行為をしていると、自覚している。
手から伝わる熱が、温かな感情と同時に暗い感情を呼び起こすことも、承知している。
それでもなお、彼女はこの部屋を訪れる度、この行為を止めることが出来ずにいた。
「────オーナー、また明日……来ますから……」
そしてまた今日も、じわりと汗が滲んでしまうまで、彼女がオーナーの手を離すことは無かった。
「────お、おはようございますっ。えーと、シャイニングさん……ですよね?」
「……おはようございます、オーナー。…………ようやく、言うことが出来ました」