箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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ノアの日常:オーナーのやらかし記録 改

 

 

 

「ケルシー先生、今後のスケジュールに関して質問が有ります。先日頂いた予定表と比べて、座学の時間と項目が倍になっているのは何故でしょうか?」

 

「……自身の胸に手を当てて考えてみてはどうだろうか、オーナー? 私の手元にはここ最近の君の行動記録と部下からの報告書が有るが、見ての通りの分厚さとなっている。君の質問に対する回答は私の口から答えるより、自身に問い掛ける方がより自覚しやすいだろう」

 

「やっぱり注意されたにも関わらず、源石耐性の有る稲を生成したのはまずかったですか? 稲も生成出来るかどうかを試しただけで、自分の部屋から外には出していないのですが……」

 

「その報告は聞いていないな。オーナー、詳しく話してもらおう」

 

「──しまった!」

 

 

 

 

 

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「──これに関しては本来自分が何かを言える立場では無いのだが、君に協力を仰いでいる者としてあえて言わせて欲しい。……オーナー、こんなことは二度としないでくれ」

 

「えっと、その……すみません、ドクター。この前『源石に感染すればするほど適応も進行する可能性が高い』と仰っていたので……」

 

「……だからといって源石で自身を傷付けるなんて、執っていい行動ではない」

 

「オーナー……あなたは……どうして……!」

 

「あ、あのっ、テレジアさん? 傷はもう塞がってますし、検査の結果も異常は無かったので大丈夫ですよ?」

 

「テレジアだけじゃない。オーナー、君の身を案ずる者は、君が思っているよりもずっと多いんだ。君の自由を縛る意図は無いが……相応の自覚は持つべきだ」

 

「…………分かりました」

 

 

 

 

 

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「────オーナー様、それでは何かあればお声掛け下さい!」

 

 

 日が沈み始めた夕方頃。

 

 元気な言葉と共に警備の位置へと戻っていくノアの住民の背中を見送ってから、俺はノアの上部、その中央に建設した立方体の空間へと入っていく。

 四方と天井を生成した素材によって覆ったこの空間は、今回のとある実験のために特別に用意したものだ。

 広さにすれば十畳も無いほどだが、実験内容を考えるとこれでも広いくらいだろう。

 

 

「照明良し、それじゃあまず……」

 

 

 何度かノア内部の自分の部屋で試し、俺の理論が間違っていないことは確認済だが、万が一の可能性も考えて再度確認を行う。

 

 地面──ノアへと手で触れて強く念じると、一メートル四方の立方体が二つ縦に重なって現れた。

 

 上が黒、下が白のその生成物に、再度念じて黒の生成物を足す。

 二つの立方体はノアから出現した黒の立方体によって上へと押し出されるような形になり、俺の目の前には上から順に黒・白・黒の四角柱がそびえ立った。

 縦に並ぶその立方体達には寸分のズレも見当たらず、後から足したというのにちゃんと繋がっている。

 

 

「……挙動の確認、良し」

 

 

 ここ最近、俺には焦っているという自覚があった。

 何せノアでの生活は思っていたよりもずっと整っており、住民達の生活は本人達が構築した組織や制度によって、問題無く回っていたのだ。

 

 この世界の知識も運営の経験も、何も無い俺に出来る事はそう多くない。

 『予防薬』や『救急キット』の生成、建物や設備の建築でノアの皆には多少貢献出来ていると思いたいが、どちらかといえばそれらは俺ではなくこのノアのおかげである。

 

 他ならぬ俺自身で、何かの役に立ちたいと思って頑張ってみてはいるのだが、ほぼ全てが空回りしているというのが今の現状だ。

 

 良いと思ったアイディアは『現時点で準備や根回しも無しに世に出すべきではない』と言われた。

 住民に何か要望が無いかを直接聞いてみても『これ以上を望むなど畏れ多いことです』と遠慮された。

 ロドスで手伝えることが無いかを聞き、定期的に血液などを提供しているが、今のところ成果は芳しくない。

 

 この世界の人達は、皆が必死に生きている。

 俺だって、そんな人達の力になりたい。

 

 

「でもなるべく迷惑を掛けないように、ってなると、これくらいしか思い付かないんだよな……」

 

 

 もっと頭が良い人であれば、様々なアイディアが思い浮かぶのだろうと思うと、俺の想像力の無さが恨めしい。

 今回行おうとしていることは、短期的な利益には繋がらないが、長期的に見ればノアや住民にとって大きなプラスになると思っている。

 

 

「柱のサイズはもっと小さくして、重量も中を抜いてなるべく軽く。後は一番上に全方位カメラをくっつけて……完成!」

 

 

 ノアの生成物には素材とエネルギーが必要だ。

 『生息演算』の頃は素材だけで大丈夫だと思っていたのだが、ノア自身からエネルギーも必要だと教えて貰った。

 

 この素材についてだが、良いモノや複雑なモノを作る際、それなりの量が必要なことも分かっている。

 生成の効率を無視すれば木や石や鉄、はたまた水やゴミですら素材になってくれるのだが、ここで一つ疑問が発生した。

 

 大量の素材は、建築物などはともかく、薬や救急キットだとその体積を大いに減らすことになる。

 それはつまり、今よりずっとずっと先の話になるが、ノアが稼働し続けるとこの世界のあらゆる物質が減っていくということになるのではないだろうか? 

 

 今は大量の資源が有りそうだからいいとしても、どこかの時点で問題が発生する可能性は大いにある。

 

 

 そこで俺はこの世界の空────宇宙に目をつけた。

 

 

 そもそも『双月』なんて呼ばれている、月みたいなものが二つ浮かんでいる世界である。

 宇宙資源が豊富な可能性は高いと見ていいだろう。

 

 それは決してケルシー先生に『海には関わるな』と釘を刺されたからという訳では無い。

 大地や海については何度も警告を受けたが、空に関しては何も言われなかったから、という訳では無いのだ。

 

 ……まあ今回は先駆けとして調査してみるだけだし、ちゃんと報告もするから大丈夫だろう。……きっと。

 

 

「『宇宙エレベーター』的な奴が理想だけど、とりあえず建築限界を調べないと……」

 

 

 そして今回の実験は至ってシンプル。

 

 ノアの生成物は同じ物かつ同箇所を指定した場合、その真下に寸分違わず繋がるような形で出現することを利用し、どこまで伸ばせるかを調べるというものだ。

 

 風や傾きによる調査用の柱の倒壊に関しては、ノアの生成が一瞬であるため考慮する必要が無い。

 素材量の限界か、何かしらの要因で建築が不可能になった場合は、再度資源として取り込むことをノアに通達済みである。

 また生成と取り込みが一瞬のため、周りの住民が気付いて騒ぐことも無いだろう。

 

 強いて言えばエネルギーは減ってしまうが、住民達が集めてくれた資源は再利用するため無駄にならないので、大変エコな実験と言ってもいいだろう。

 

 ……とにかく、準備は済んだ。

 後は良い結果になることを祈るだけ。

 

 天井の一部を生成で開き、俺は最後に深呼吸を一つする。

 

 

 そうして静かに実験を開始し────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────実験は、何とも中途半端な形で終わった。

 

 

 

 何というか……実験自体は想定通りに進んでくれたのだ。

 

 素材限界を迎える度に、柱のサイズや重量を変えて、より長く生成出来るように調整を繰り返す。

 その繰り返しが十を数える前に、問題が発生してしまった。

 

 理由は分からないが、約六千メートルくらいから先は、何度試しても柱が伸びなかったのである。

 ノアに聞いてみても『障害物があるため生成出来ません』という文面しか、端末に表示されない。

 

 空に障害物? 見上げてみても、そんなモノは見えもしない。

 一人ではお手上げ状態となってしまったため、実験は中止せざるを得なかった。

 

 得られたモノは僅かに二つ。

 

 この世界の空には、見えない障害物のようなモノがあるという情報。

 取り込みの際に先端部に付着した『ナニカ』を、資源として採取出来たこと。

 

 順当に考えればこの『ナニカ』がその障害物なのだろうけど、ノアに資源の解析機能なんてものは無い。

 資源をそのままノアから取り出すことは出来るけれど、果たして目に見えないモノを取り出して、俺に何か分かることが有るのだろうか? 

 

 

「専門家とかが居れば……あっ」

 

 

 そこまで考えて、俺はふとシエスタでのミュルジスとの会話を思い出した。

 

 確か彼女が所属しているライン生命にはそういった専門家がたくさん居て、自身にも伝手が有ると彼女は言っていた。

 駄目で元々だけど、ミュルジスに聞いてみるというのは方法としてアリかもしれない。

 

 彼女の近況も知りたいし、手紙か何かを送れないか模索してみようじゃないか。

 

 

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