箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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心理相談:ミヅキ

 

 

『────オーナーの家に行ってみたいな』

 

 

 ミヅキさんの口から漏れたその呟きは、その声音や本人の雰囲気とは裏腹に、確固たる意志が込められたものだった。

 やんわりと拒否しようとしていた俺にミヅキさんは何度か食い下がり、いくつかの理由で以ってその願いは通ることになる。

 

 何度かロドス本艦にて遊んだ際、ミヅキさんの部屋にお邪魔していたこと。

 ──ミヅキさんは快諾してくれるのに、俺だけが拒否するのは不公平では無いか? 

 

 ノア上部や付近で遊ぼうにも、共に住民から信仰の眼差しを受けてしまうこと。

 ──その度に説明してはいるが、未だに俺達を双子だと思っている人はそれなりに居る。

 

 結局落ち着いて遊べる空間が、ノア内部しか無いというのが結論だった。

 

 それから少し日が経った現在。

 

 ノア内部に専用で作った遊戯室にて、ミヅキさんはふかふかのクッションに埋もれていた。

 流石に俺の私室は勘弁してもらった次第である。見られて困るものなどは置いていないつもりだが、恥ずかしいの一言に限るのだ。

 

 

「ゲームも沢山あるし、良い部屋だね。どれから遊ぼっか?」

 

 

 クッションやソファなどの調度品は、住民にお願いして用意してもらったものだ。

 生成によるものは地味なものが多く、折角ならばちゃんとしたものを置きたいと思っての行動だったのだが、聞けば住民達は三日三晩議論に議論を重ねて用意してくれたらしい。

 

 流石の俺も住民の皆にどう思われて、どう扱われるかを多少なりとも理解している。

 ただ何度試しても中々ブレーキを踏んでくれないことが目下の悩みだ。住民達が俺のお願いを300%くらいで叶えようとしてくる。

 

 

「対戦ゲームにしましょう。これとかどうですか?」

 

「へぇ、見たことの無いパッケージだ……」

 

 

 興味津々で眺めているミヅキさん。

 それもそのはずである。何故ならこのゲームはこの世界に有ったものを参考に、ノアの生成能力を使用して生み出したゲームなのだから。

 

 今日という日のために、俺は予めこのゲームを遊んで予習を済ませている。

 長年ゲームを嗜んできた者として、今日こそは初勝利をさせて頂こうじゃないか。

 

 

「オーナー、何だか自信が有るみたいだね。こっそり練習でもしてたのかな?」

 

「……してませんよ?」

 

「嘘が下手だなぁ……でも、良いよ。相手が強い方がゲームは面白いから。でもそんなに自信があるんだったら、負けたら罰ゲームとかにしようか」

 

「構いません。────負けないので」

 

 

 ロドス本艦で遊ぶ時は、周りへの迷惑も考えて大きな声などは控えていたが、ノアの防音性能はそんなことを気にする必要も無い。

 

 ……子供の頃、友達数人で集まってゲームをしたことを思い出した。

 四人プレイのゲームで、集まった人数はそれ以上。負けた奴が交代して、勝った奴はずっとゲームを続けられる。

 トップの奴を交代させるために徒党を組んだり、控えの奴らで妨害したり、とにかく騒いで、とにかく楽しかったという思い出だ。

 

 今はまだ俺とミヅキさんの二人だけだけど、そういった一緒に騒ぐことが出来る友人が、この世界でも出来るだろうか? 

 

 ここ最近は心にどんよりとしたモノが詰まっている感覚が有ったのだが、それを吹き飛ばすような楽しい時間を過ごせたように思う。

 

 

 あと、ゲームはボロボロに負けた。

 誰に言う訳でも無いが、罰ゲームにより今後俺は弟である。

 

 ミヅキさんを打倒するためにも、やっぱり仲間が欲しい……。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「それにしても、よくケルシー先生が許可を出したね。オーナー、何か言われたりしなかった?」

 

 

 ゲームが一段落した頃、お菓子と飲み物を口にしていたミヅキさんは、唐突にそんなことを言った。

 言葉が抜けているが、恐らく『ミヅキさんと二人きりになること』を指しているのだろう。

 

 ミヅキさんが何を言わんとしているのかを察した俺は、隠すことなく正直に告げる。

 

 

「そうですね、ケルシー先生からいろいろと説明されました。……だから、知ってます」

 

「……そっか」

 

 

 俺の言葉に少し驚いた後、ミヅキさんはフッと笑った。

 好奇心と期待、そして不安を混ぜた感情が俺へと届く。

 

 

「ねぇ、オーナー? それを知った時、君は僕の事をどう思ったの?」

 

「………………」

 

「教えて」

 

「…………私は、『怖い』と思いました」

 

 

 座学や人伝に、この世界の事をいろいろと知った。

 海の怪物──シーボーンという存在について、その僅かな映像記録も見させてもらっている。

 

 シエスタでミュルジスから教えて貰った頃よりも遥かに詳しくなった俺が覚えた感情は、恐怖だ。

 

 ……だからこそ、感情に悲しみが混ざり始めたミヅキさんに、言うべきことがある。

 

 

「──だからこそ、もっと知るべきだとも思っています。私自身の事を、そしてミヅキさんの事を」

 

「誰が言ったか、人は得体の知れないもの──未知に怯えるらしいです。それに照らし合わせるならば、知ることは恐怖を和らげてくれるはずでしょう」

 

「自分の事はよく分かっていませんが、ミヅキさんの事は少しくらい知っているつもりです。明るくてどこか神秘的で、料理が上手でゲームが強い……」

 

「今の私にとってはそれだけで、それが全てです。ミヅキさんは私の……『善き友人』です」

 

 

 言い切って、ミヅキさんを見た。

 呆気に取られていた友人は、俺の言葉をようやく飲み込んだのか、その表情を喜びや嬉しさのソレへと変える。

 

 

「ありがとう、オーナー。君の『善き友人』で居られるよう、僕も頑張るよ」

 

 

 楽しそうに笑って、彼の視線は俺を真っ直ぐに捉えた。

 

 

「だから、オーナーも頑張ってね?」

 

 

 期待や切望の強い感情。

 コクリと頷くと、ミヅキさんは満足そうにして俺から視線を外した。

 そして止めていた手を再び動かし、食べかけのお菓子を口へと運ぶ。

 

 

「そうだ、次のゲームは負けた方が質問に正直に答える、っていうのはどうかな? お互いの事をよく知るのに丁度良いと思うんだけど?」

 

「……ハンデを頂いても?」

 

「もちろん!」

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 

 遅くまで二人で遊んで、次の日は寝不足になり、俺の様子を見た住民達から大層心配されることになった。

 

 ……でも、たまにはこういう時間も良いものだ。

 

 

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