「────すみません、頭の中を整理するために質問をしてもいいですか? もしかしたら今話して頂いたことの繰り返しになるかもしれませんが、聞いて貰えると非常に助かります」
「ぜひ遠慮無く聞いて欲しい。今回の計画でオーナーやノアがすることは『レユニオンとの交流』の一点のみだが、付随した状況を正確に理解することは、助けになっても妨げになることは無いはずだ」
ロドス本艦の会議室。
長時間に及ぶ説明の後、途中で話を遮らないようにと沈黙を保っていた俺は、一段落した隙を突いてようやく発言をした。
会議室の中に居る俺を除いた二人の内の一人──ドクターの了承を得られたので、予め手元の資料にメモしていた質問事項へと目を向ける。
「ノアの行動指針にした『鉱石病感染者及び感染者問題に取り組む組織への支援』の証明のために、協定を結んでいる国や移動都市の人員をノアに同乗させるとありますが、これは本当に必要ですか?」
方針は決まっても、具体的にどういった行動を取るべきか、またそのためにどんな準備をしなければいけないか。
この辺りの知識や経験がまだまだ身に付いていない俺は、ロドスの皆さんに計画の立案をお願いした。
頼まれるロドス側だって忙しい日々を送っている。無理無茶を言う訳にはいかない。
だから最低限の条件──『ノアの住民が危険な目に遭わないように』というものだけを付けて、ロドス側にも利が有って全然構いません、とも確かに言いはした。
それがどうしてこうなったんだろう?
俺の疑問を聞いたケルシー先生が、口を開く。
「ノアが炎国の国境付近で移動を止め、活動を停止するまでの間、各国から書状が届いていたことは知っているな? そしてその書状は活動を再開したこの数ヶ月で加速度的に増加しているということも。そのような状態でおそらく伝手も無いであろうレユニオンを最初の支援先として選択するのは、相応のリスクが有る。各国の人員を同乗させるのは実際の様子と支援内容を見せることで、そのリスクを緩和するためだ」
「流石にウルサス国内へ向かうとなれば話は通らなかったはずだが、レユニオンとの事前協議で提示された合流場所はウルサスとリターニアの中間地点……どの国にも属していない緩衝地帯だった。……レユニオンにこちらの状況をほぼ正確に推測出来る者が居るのだろう。本来はトランスポーターを何度か送り合って決定する。たった一度のやり取りで決定したため、年内での着手が可能になった」
「オーナー、改めて確認するが……コシェルナという人物に聞き覚えは?」
俺が首を横に振ると、ケルシー先生は「……そうか」と言って引き下がった。
確かコシェルナという名前は、レユニオンからの書状に書かれていた差出人の名前だったはず。今回のやり取りもこの人が行っている可能性があるのだから、ケルシー先生は『こちらの状況をほぼ正確に推測出来る者』を、このコシェルナという人物だと思っているのかもしれない。
俺も何度か思い出そうとしてみたけど、『生息演算』では見なかったし聞かなかった名前で間違い無い。単に会わなかっただけか、後から加わりでもしたのだろう。
逸れてしまった話を戻すかのように、ケルシー先生は小さく咳払いをして、再び言葉を続ける。
「ノアに彼等の滞在用の施設は用意して貰うが、道中や現地での扱いは然程気にしなくていい。ロドス側でそういった事に詳しい人物を用意する」
「私は基本的に何もしなくて大丈夫ということですか?」
「オーナー、君から進んで何かをする必要は無いが、ノアも君自身も各国の注目の的だ。あちらから積極的に接してこようとすることは想像に難くない。覚悟と準備はしておくべきだろう」
そうですよね。何もしないで良いなんてこと、無いですよね……。
正直誰かサポートについて欲しいところだが、事情をある程度知っているロドス相手ならともかく、他国が相手となれば気軽に頼めるものでも無いだろう。
何とかしなければいけないことは分かっているが、良い案が浮かばない。後でまた考え直さなくては……。
思考しながら再び資料へと目を落とせば、そこには決定している、あるいは予測されている人員のリストが見える。
ロドスの項目にはロゴスさんやアスカロンさんやWさんなど、知っている名前がいくつかあった。
他国の人員が来る以上、癒着などが疑われてしまうためロドスから多くの人員を出すことは出来ないと言われている。その代わりに優秀なオペレーターを用意するとも。
でも、このリストの中にアーミヤさんも居るんだよね。
先程の説明で、ロドス本艦はノアと別行動を取った上で後ほど合流する、と聞かされたし、その辺りの絡みでこうなってしまったのだろう。
ロドス本艦が来るのはそれこそ癒着を疑われると思うのだが、これに関してはそもそもロドス自体がレユニオンと接触する予定があるらしく、ノアの方には影響が無いようにすると言っていたのを信じるしかない。
『共感』によれば『巻き込みたくない』という感情が強かったし、詳しくは聞かないでおいた。
それにしてもロドス本艦にはドクターとケルシー先生、そしてテレジアさん。……一体何をするつもりなんだろう?
「不確定要素のリターニアの人員だが、ノアが掲げる『鉱石病感染者及び感染者問題に取り組む組織への支援』に照らし合わせて、ヴィセハイムのアフターグロー区に関連した人物──ゲルトルーデ・ストロッロ伯爵が来る可能性が高い。こちらは過去に交流があった人物だと聞いた。初対面の人物よりかは対応が容易と考えられる」
「……それにアーミヤも似たような経験を多く積んでいる。性格も相まって彼女はとても教え上手だ。不安であれば対応のアドバイスを聞いてみると良い」
俺が資料の何処を見ているのかを察したドクターが、補足を入れてくれた。
あんな幼い子にこれ以上負担をかけたくないというのが本音だが、何度かアーミヤさんと話している内に、何となく彼女を理解出来たつもりだ。
俺が心配するほどアーミヤさんは弱い人じゃない。俺よりもずっと、ずっと強い人だ。
遠慮無く……とはいかないが、頼りにさせてもらおう。その代わり、アーミヤさんに何かお願いされた時は全力で応えるつもりだから。
炎国──龍門からは、旅行の際にペンギン急便の皆さんと一緒にお世話になった龍門近衛局のチェンさんとホシグマさん。
ラテラーノからは、モスティマとレミュアンとフィアメッタ。それともう一人、フェデリコさんという方も来るらしい。
ライン生命──肩書がロドスと重複していたりするのでややこしいが──からは、先日お世話になったサリアさんとミュルジス。
部下などを引き連れてくることも予想されるが、主要な人物は以上だろう。
ここにリターニアの人も加わるとなれば、人数こそ少ないが何とも濃いメンバーである。
うーん、嫌な予感しかしない! すいません、ドクター!
「あの、サポートをしてくれそうな人をもっと雇えないでしょうか?」
「……こちらの人員で要望に足り得そうな者となると、これ以上は難しいな。君自身に心当たりなどは無いか?」
「居ない訳では無いのですが……どちらかというと武闘派な方達ですし、そもそも応じてくれるかが微妙なところです」
「実際に戦闘行為が行われる訳では無いとしても、そういった者が居るだけで一定の抑止力としての効果が期待出来る。その本人が応じてくれないとしても、知己を紹介してくれる可能性だって有る。まずは聞いてみてはどうだろうか?」
不安になって聞いてみたが、ドクターからは的確なアドバイスが返って来た。
まあ聞いてみるだけならタダとも言うし、とりあえず連絡してみよう。
──チョンユエさんとグレイディーアさんに。
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「──タルラ。これがノアとの接触の際に連れて行く人員のリストだ。訂正が有れば────そう睨んでくれるな。全く……私はこれだけレユニオンに尽力しているというのに、何が不満だと言うのだ?」
「……資料を置いて早く出て行け。お前のレユニオンに対する功績は業腹だろうと認めるが、殊更に馴れ合うつもりは無い」
肩を竦めて出て行く女性の背中に鋭い視線をぶつけながら、タルラは資料を手に取った。
タルラ、フロストノヴァ、パトリオット、アリーナ、コシェルナ、マドロック、アルゲス……。
馴染みの有る名前や、ここ最近で増えた名前。
それらを視界に収めながら、タルラは無意識に呟いていた。
「……ようやく会えるな、オーナー」
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「一体何故……?」
執務室にて、女帝からの令状を読んだウルティカ伯爵は、困惑で眉間に皺を寄せた。
彼からその令状を手渡されたクライデは、内容を理解し喜びの声を挙げる。
「この『ノア』というのは、僕が前に話したとてもお世話になった場所です!」
「いや待て、そもそもゲルトルーデ伯爵はこの件を把握しているのか? 確認をしなくては……」
令状の文面には、ノアへ向かう人物の名が記載されている。
途中で内容を理解し、その後の文面までまだ読み進めていないクライデは、その人物達に気付いていない。
彼等以外に一人……フレモントという名前が、そこには有った。