箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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レユニオンとの交流 道中編 表②

 

 

「────よし、本日の朝練は此処までとしよう」

 

「あ、ありがとうございました……!」

 

 

 チョンユエさんの言葉を聞くや否や、俺は地面に大の字で寝転んだ。

 上がった息を整えるために何度か大きく深呼吸をして、ぼんやりとノアの天井を見つめる。

 

 これで朝練も数日目となるのだが、一向に成長しているという実感が無い。

 一昨日辺りからミュルジスが持たせてくれるようになった水筒を開け、数口の水を飲む。口の中に広がるほんのりとした爽やかさとは裏腹に、俺の口からは深いため息が漏れた。

 

 

「オーナー、鍛錬とはそういうものだ。一朝一夕で身に付くようなものではない」

 

「……『千日の稽古をもって鍛となし、万日の稽古をもって錬となす』って言いますもんね。それは分かっているんですが……」

 

「ふむ、初めて聞くが実に良い言葉だな。まさにその言葉の通りだ」

 

 

 俺の表情から察して言葉を掛けてきたチョンユエさんにとある有名な言葉で返すと、彼はその言葉を噛み締める様に何度か頷いていた。

 

 今回の遠征において護衛を引き受けてくれたチョンユエさん。

 炎国の方で、また特殊な立場にも居るらしく、『司歳台』と呼ばれる人達も数名連れて来ている。妹さん達と会う時も目にすることが多いので、何名かに関しては俺も顔を覚えてしまっており、彼等に会う度に好奇というか恐れというか、不思議な感情が向けられるのが常だ。

 

 チョンユエさんとは、彼の妹達とのアレコレが知り合ったきっかけで、当初は護衛が出来そうな人を紹介して欲しいというお願いをしていたのだが、『貴公には妹達の件で非常に迷惑を掛けてしまっている。もし良ければ私が直接力を貸そう』と申し出てくれたので、それに甘えた次第である。

 

 ──迷惑、ね。

 

 ニェンさんはフラッとノアに訪れては映画を所望して、数日滞在した後お礼代わりに大量の激辛料理を作っていく。

 

 シーさんは滞在用の施設に引き籠もってノアが作製出来る絵画を鑑賞し続け、帰る際にたまにノアの内壁に絵を勝手に描く。

 

 リィンさんは素晴らしい詩を詠んでくれるが、大のお酒好きのためノアで生産したお酒の何割かが彼女の胃へと消えてしまっている。

 

 ……シュウさんは、まぁ悪い人では無い。ただ向けられてくる感情と熱意が特殊で強過ぎる。一度『大荒城』に来て欲しいとも言われているし、そっちもどうにかしないといけないな……。

 

 そう言えば少し前に、ノアの近辺に形成された市場を視察した際、チョンユエさんやその妹の皆さんと、同じ雰囲気を纏った青年とも会っている。

 商人として各地を渡り歩いているらしく、名前は名乗らなかったのだが、『姉がお世話になっております』という言葉と共に上等な織物を頂いてしまった。

 お礼を言う前にその姿を眩まされてしまったが、彼もまたチョンユエさんの兄弟に違いないだろう。すっかり忘れてしまっていたが、後でチョンユエさん本人に確認するとしよう。

 

 閑話休題、迷惑は……うん、掛けられていると言って差し支えないだろう。

 俺自身は大して気にしていないが、チョンユエさんが気に病む必要が無くなるのならそれで良いと思う。実際に護衛としてとても頼もしいし。

 

 

「ところでオーナー、今日も一つお願いしても良いだろうか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

「感謝する。────では」

 

 

 アレコレと考えている内に大分身体は休まった。

 上体を起こしてチョンユエさんを見ると、最早最近の恒例となっているお願いをされたので、生成能力を用いてとある物を用意する。

 

 ──少しアレンジは加えているが『木人椿』と呼ばれる、中国で生まれた鍛錬用の器具の一種である。

 護衛としての武力の高さを測るために用意したのが一番最初で、人相手だと怪我の危険が有ると思っての行動だったのだが、『私が打ち込んでも壊れない器具とは、素晴らしいな!』と大層喜ばれてしまった。

 

 それからは何度かこの『木人椿』をチョンユエさんの要望で生成しており、何度か破壊されている。

 

 

「昨日は遅れを取ったが、今日こそは砕かせてもらおう」

 

 

 そう、破壊されているのである。

 本来破壊する用途の器具では無いというツッコミは無視するとして、ノア謹製の『木人椿』は強度も並大抵では無い。

 更にそれに加えて破壊される度に構造等を調整してより頑強なものに仕上げているのだが、今のところ二日保った事が無いというのが現状だ。

 

 ちなみにこれは余談だが、改良前の『木人椿』ですら、ノアの主要メンバーやロドスの人達の大抵が破壊出来ていない。

 ……ライン生命のサリアさんと龍門のホシグマさんは、何体か素手で破壊出来ていたけれども。多分この人達は比較対象にしてはいけない類の人達なんだと思う。

 

 

「──やはりこれが正解だったか……!」

 

「……チョンユエさん、今のは?」

 

「一撃で破壊出来ないのであれば、連撃ならばどうかと考えて編み出した技だ。四肢に打ち込んだ衝撃が中心の一点に集まり、その瞬間に打撃を行うことで威力を増幅させる」

 

 

 目の前で『木人椿』が爆散した。

 

 早朝の鍛錬ということもあり、まだ起きていない人々も多い。

 うるさくならないよう周囲を『星のさや』で囲んでおいて良かった。透明な膜のようなもので、原理はよく分からないがいろんなもの──音なども遮断してくれるので、最近重宝しているのだ。

 

 それにしても、今回の『木人椿』も駄目だったか……。

 壊されて困るものでは無いが、こう何度も壊されてしまうと最早意地の領域である。

 

 

「次を楽しみにしておいて下さい。本気の『木人椿』を用意しておきますよ」

 

「その台詞を聞くのは数度目だが……。楽しみにして待っているぞ、オーナー」

 

 

 どこか楽し気で嬉し気なチョンユエさんを視界に収めつつ、散らばった破片をノアに吸収する。

 

 今日の朝練はこれで終了。

 自室に戻ってシャワーを浴びて、シャイニングのところでメディカルチェックを受けて、ミュルジスに水筒を返しに行って、住民達の会議にこっそり参加して、アーミヤさんとロドスと情報共有をして、ロゴス先生のスツール滑走大会開催の要望を聞き流す。

 

 うん、今日もやることが一杯だ。頑張らなくちゃ。

 

 

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