箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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レユニオンとの交流 道中編 表③

 

 

 様々な授業を通じて学んだことだが、この世界において移動都市に住む者とそうでない者との間には、隔絶と評していいほどに差があるらしい。

 それが例え小規模であったとしても移動都市ならば、源石エネルギーを利用した電化製品などの文明の利器の恩恵を受けることが出来、多くの災害──特に天災をそれほど恐れる必要も無い。

 

 しかし移動都市の外に住まう者達は全てが手作業となり、天災の予兆が訪れる度に当てもなく荒野を彷徨い続けることとなる。

 都市間の移動ルートの近くに居を構えることが出来れば、行商人と接する機会が生まれ、食料や資源と引換えに便利な機器を手に入れられることも有るそうなのだが、集落によってはそういった機会の間隔が数年以上となることも稀では無いとか。

 

 さて、そんな世界において、移動都市外の人達は一日をどうやって過ごすのか。

 聞いた話をまとめた際、俺は『昔授業で習った農民の一日?』という感想を抱いた。

 

 大多数は基本的に農業に従事し、空いた時間は野生生物の狩猟や生活用品の作製を行う。

 専門的な知識を持つ者はそれに関する仕事に従事するが、場合によっては子供や若者に教えたりもする。

 

 季節によっては食料の備蓄なども必要となり、天災による移動が起こると一から開墾作業も必要となる。

 更に言えば優秀な者は行商人との取引次第で都市へと旅立つことも有り、技術や知識の継承が済んでいないと残された集落の人々が大変なことになることも有るらしい。

 

 俺の感覚から言えば、相当な綱渡りの生活を続けているようなものである。

 だがそんな生活も、ノアによって一変してしまったとのこと。

 

 食料はノアによって安定供給されるようになったし、農業も畜産業も、つい最近になって設備を一新したので自動化が済んでいる。

 魚介類も何とかするからもう少し待って欲しいと住民に伝えたところ、「これ以上の御恵みを頂くのは申し訳無い」と返されてしまった。そんな遠慮しなくてもいいのに。俺だって食べたいし。

 

 災害──特に天災に関しても、未だ経験したことは無いがノアに尋ねたところ、規模に左右されるが最低でも連続二回までは耐えられることを保証します、という回答を得ている。

 実証するために俺だけを乗せて天災に突っ込むことをビガロに提案してみたが、「オーナー様の御言葉を疑ったりしませんので、絶対に止めて下さい」と、全く笑っていない瞳と激怒の感情で釘を刺されてしまった。俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、もしもの時のために実験しておくことは大事だとも思う。俺の安全を確立した上で再度投げ掛けてみる所存である。

 

 鉱石病やその他の病気についても、他の場所では食料・資源・工芸品や製品を対価に、行商人から薬を購入したり医者を呼んだりするのだが、全てがノアという存在で事足りるようになってしまった。

 鉱石病を患っている方々にとっては必需品とも言えるため供給量と薬品品質のアップをリーヴァに打診してみたが、やんわりと諫められてしまった。気持ちはとても嬉しいが、過剰な施しは却って毒になってしまうとのこと。「今でさえ恩返しをしたいと強く考えている住民しかいません。これ以上はその身を捧げようとするふしだらな輩が出て来てしまいます」ともリーヴァは言っていた。俺の身体に関することをリーヴァはそれなりに知っているので、そんな物好きが居るとは思えないと返してみたが、リーヴァはニッコリと微笑むだけで、読み取れる感情は『無』だけだった。ただ何となく怒っていた気はする。何でだろう? 

 

 ともかくノアという存在がこれらを解消してしまった結果、住民達は暇な時間を大量に持て余すようになってしまったのである。

 

 そしてこの問題の解決の糸口を探るために、参考となる意見が貰えそうな人物に聞いてみたのだが────。

 

 

「────確かにエーギルは他国に比べて、芸術や美術に関する素養が高いという自負がありますわ。でもそれは決して暇な時間を費やしたからではなく、エーギルという環境によって育てられた、と表現するのが正しいでしょう」

 

「ノアの住人は芸術関連で花開く可能性は薄いということですか?」

 

「自身の根底に根付いていない分野へと進むことは、そういった可能性を大いに孕んでいると言って差し支えありませんのよ。…………このノアの技術力は、エーギルのそれと一部遜色が無いと言って良いほどの代物ですが、そこに暮らす人々に関しては雲泥の差が有ると言えますわね。──失礼、些か言葉が過ぎたようですわ」

 

「いえ、大丈夫です。グレイディーアさんの言葉に、侮蔑の意味合いが込められていないことは分かりますので……。貴重な意見、ありがとうございます」

 

「……それで、質問はそれだけですの?」

 

 

 本部基地に作られた会議室。

 

 そこで聞いてみた内の一人、グレイディーアさんからは何とも厳しい意見を頂いてしまった。

 ケルシー先生からエーギルという国とエーギルという種族について教えて貰ったことがあったので、それを思い出して尋ねてみた次第だったのだが、技術力の高さという同じ点が有ってもエーギルとノアは別物らしい。

 

 ちなみにもう一人のチョンユエさんからは「鍛錬」という意見を頂いている。……これもまた貴重な意見の一つであることは変わりない。

 

 

「……そうですね、私からの質問は以上です」

 

「何か言いたいことがあるのならはっきりと口に出すことをお勧めしますわ。ここ数日のあなたを見る限り、それが基のトラブルも多いでしょう」

 

 

 グレイディーアさんとの出会いは、ロドス本艦のミヅキさんの部屋で彼と遊んでいたところ、急に襲撃されるという不穏なものだった。

 彼女はミヅキさんに用事が有ったようなのだが、武器を構える姿は穏当な用事には到底思えず、俺が二人の間に立ち塞がって時間を稼いでいる間に、駆け付けてきたケルシー先生によって事なきを得た。

 この襲撃自体は後にグレイディーアさん自身から正式な謝罪が有り、『正当な理由無くミヅキさんに攻撃を仕掛けないこと』を条件に和解が成立したのだが、彼女との縁は別の形で今日まで続いている。

 

 一番の要因はロドス本艦で治療を受けていたスペクターさん──本名はローレンティーナらしい──という方を、ノアの治療キットを使用し容体を回復させたことが原因だろう。

 グレイディーアさんとスペクターさんはエーギルの中でも『アビサルハンター』と呼ばれる人達で、二人は同僚と聞いている。日夜シーボーンを狩っていたそうで、それを聞いてミヅキさんの件も理解することが出来た。……納得はしていないけど。

 

 そしてグレイディーアさんは治療に関する感謝と治療に使用した薬品の提供を求めてきたので、特に対価も考えることなく渡したのだが、彼女はそれに納得してくれなかった。

 その場では結局貸し一つということにし、今回の護衛の件でそれを返してもらったという形になる。

 

 

「えーと、もし良かったらなんですけど、せっかくの機会なのでエーギルの事についてもっとお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 話に聞くエーギルの技術力はこの世界のそれと一線を画したものとのこと。

 グレイディーアさんからも一部お墨付きを頂いているノアの技術力ならば、何か再現して住民の生活に役立てることが出来るかもしれないという思いが、俺には有った。

 彼女は俺の言葉に僅かに眉根を寄せた。それから目を伏せて小さく息を吐く。

 

 

「…………自室で音楽や映像作品を鑑賞して過ごすのにも、少々飽きが来ていたところですわ。こちらの質問にも答えると言うのなら構いませんわよ」

 

 

 何とか許可を貰えたので、俺は気になっていたことをいくつか聞くことが出来た。

 俺に関する情報も話すことにはなったが、後でノアの端末を確かめたところ、作成できるレシピが増えていたので収支で言えばプラスと見ていいだろう。

 

 『リトル・ハンディ』とか『低重力発生装置』とか『高速モービル』とか、面白そうなものが一杯で実に楽しみだ。

 

 ……住民の問題はまた後で考えることにしよう。

 

 

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