箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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バベル④/15日目

 

 

 結局『バベル』の人達はそれから3日ほど滞在し、出会ってから4日目の早朝には帰って行ってしまった。

 

 その間こちらの住民やネームドは相手と交流していたようで、何名かのステータス数値には変化もあった。成長してくれるのは喜ばしい限りである。

 

 ちなみに俺の方はと言えば、難民の受け入れイベントや襲撃イベントもあったのだが、基本的にずっとテレジアとの会話に集中していた。

 初日以降ケルシーとドクターはあまり『ノア』の方に来てくれなかったのだが、彼女だけは例外で、住民達やネームドと積極的に会話し、その合間で時間が出来る度に祠を訪れて話しかけてきたのだ。

 

 

「──うぉっ、4日で2時間以上使ったのか……!」

 

 

 テレジアとの会話では、最初の方こそ選択肢を選ぶだけで良かったのだが、後半になるにつれて入力する頻度が上がり、3日目の夜に至ってはほぼ全てが入力形式になっていた。

 こんなにタイピングすることになるとは思わなかったが、テラ世界の事情や各国の特色も教えて貰えたし、個人的には楽しめたと思う。……もっと自動化してもらえると楽ではあるけども。

 

 

「でもまさか会話出来るとは思わなかったよな……。間違いなく重要イベントだろうし、踏み忘れなくて良かった」

 

 

 3日目の深夜。

 ゲーム画面の端に一部が映っている『ロドス』──テレジアに教えて貰った──の甲板に、テレジアが居たのである。

 

 何の気も無しにクリックしてみたところ会話が始まったので、とても驚いた。

 どうやって会話しているんだ? と思ったけど、2日目くらいに『ノアがロドスを学習し成長しました。一部の機能が強化されます』というポップアップが出ていたので、そのおかげなんだろう。

 

 

 『バベル』の理念が『鉱石病感染者の救済とそれによって引き起こされている感染者問題の解決』であること。

 鉱石病の薬は『非常に希少』であるため、貿易で利用すると基本的に買い手が付かない代物であること。

 近く、彼女達の自国である『カズデル』にて戦いが始まるためなるべく離れていた方がいいこと。

 

 その他にも様々なこと。

 全てが真実で語っているとは限らないけれど、交流してみた感じだと悪い人じゃなさそうだったし、情報は全面的に信用していいだろう。

 知らなかったことも知れたし、かなり助かった。とりあえず薬が貿易に使い辛いとなると、それに代わるものを開発しなくちゃな……。

 

 

『オーナー、あなたはあなたのしたいことをするべきよ。その先で私達と道が交わる時が来たら、その時はまた語り合いましょう』

 

 

 戦いが始まると言ったテレジアに、助力が必要かどうかを聞いた時に返された言葉の一つ。

 提案しておいてなんだけど、ちゃんと戦力になれるか分からなかったし、やんわりと断られてホッとしたのは内緒だ。

 

 ただ何もしないのはそれはそれでモヤモヤが残るので、個人的に『救急キット(最高級)』をいくつか渡しておいた。

 『皆に』使わせてもらうという彼女に、『その皆にあなた自身も含めて下さいね』と念を押しておいたので、きっとちゃんと使ってくれるはず。

 

 こういう優しい指導者って、ゲームだと部下を優先して死ぬことがあるもんな。用心しておいて損は無いだろう。

 

 

「さて、そろそろ寝る時間だけど……」

 

 

 『バベル』の面々、移動艦『ロドス』が去った後、見慣れたゲーム画面が戻ってきた。

 

 とりあえず働いてくれた住民達をクリックして、労いの言葉をかける。

 え? 『私達はあなた様の役に立っていますか?』 って? 

 

 入力画面が出て来たので驚いた。住民達に対しても出たりするんだな。

 

 

「いつもありがとう、って感じで大丈夫でしょ。……よし、喜んでる喜んでる」

 

 

 その後立て続けにネームド達も祠に向かって話しかけてきたが、その度に入力画面が出て来た。

 

 俺が寝不足で次の日を迎えることになったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

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『あなた達一人一人に感謝をしています。手放しに仕事をお願いするのは私からの信頼と思って下さい』

 

 

 私達は、必要とされているのですね。

 そして『命令』ではなく『お願い』だと。

 

 その言葉を頂けただけで、充分に過ぎます。

 

 これからもあなた様に忠誠を。

 

 

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『──ケオベ。これで良いですか?』

 

 

 いつもの声と違う、あたたかい声。

 ほんとはケーちゃんって呼んで欲しいけど、今はこれでいいや。

 

 いつか顔も見せてくれるのかな? 

 

 楽しみだなー! 

 

 

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『隠していた訳ではありません。私も驚いています』

 

 

 全く、人の悪い御仁だ。

 会話が出来るのであれば早々に教えて欲しかったものだ。何度その真意を汲み取るのに苦労したことか……。

 

 ともあれ声音から察するに、悪き者では無いようでござる。

 

 これからもよろしくお願い申し上げようか、オーナー殿。

 

 

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『フロストリーフ、無理に役に立とうとする必要はありません。あなたにも十分に感謝しています』

 

 

 知ってる。分かってる。

 私が見てきたオーナーは、私を見捨てたりしないことを。

 

 私をちゃんと、見てくれる。

 

 でも、私だけを見てくれはしないんだ。

 

 

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『次の行先ですか? ウルサスに向かいます』

 

 

 『バベル』の方々から、ニアールさんとリズさんに出会い、『ノア』の情報を得たことをお聞きしました。

 この『ノア』を二人との旅の途中で見付け、二手に分かれて行動したことは、良い結果になってくれたということでしょう。

 

 対価として治療をしたようで、憂いていたことの一つが解消しました。

 

 あとはオーナー、あなたの選択を見届けましょう……。

 

 

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 ────────

 

 

 

「ドクター、危ない橋を渡ったな」

 

「……何のことだ、ケルシー」

 

「とぼけるな。難民に襲撃者、そう都合良く居るものではない。けしかけただろう?」

 

「言いがかりだな。滞在の最中、問題が起きることは避ける必要がある。偶然居た難民が『ノア』に向かい、同じく偶然居た襲撃者が『ノア』を襲っただけだ」

 

「そして私達は偶然『ノア』の対処能力のデータが取れたと? ドクター、君が一部のオペレーターに命令し、周囲を探索させていたことの裏は取れている」

 

「そうか、では難民と襲撃者はその探索の隙間を縫って『ノア』に向かったんだろうな」

 

「………………」

 

「……手段を選んでいる余裕など無いんだ。分かったのなら持ち場に戻ってくれ、ケルシー」

 

 

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 思い出すのは、あの夜の言葉。

 

 

『この世界は可能性に溢れています。それを見付けることが私の楽しみなのです』

 

『確かにそうかもしれません。ですが鉱石病に罹ったまま幸せになることは、不可能なのでしょうか?』

 

『病魔に侵された人だって、食事に舌鼓を打つことはあるでしょう。死でさえ、最期の時を満足に逝く者もいます。悪いところを減らすだけが人生では無いでしょう。人生には喜びが必要です』

 

『テレジア、あなたの喜びは何でしょうか? 周りの誰かではなく、あなた自身が求めるものは?』

 

 

 その問いに、私は答えられなかった。

 その答えを、いつか見付ける必要がある。

 

 

 

「──その時が来たらまた会いましょうね、オーナー?」

 

 

 





≪Tips≫

『住民詳細』
評価  : 感謝 崇拝
好感度 : 住民→心服
ネームド: ケオベ 80%
      モスティマ 40%
      サガ 55%
      フロストリーフ 90%
      シャイニング 40%

『救急キット(最高級)』
≪『ノア』にて作製された薬。錠剤型と注射器型がある。細胞を活性化し、肉体と精神を大きく回復させる効果がある。毒でさえ中和し、造血作用もあるため、限定的な場合のみだが蘇生効果も期待出来る≫


『学習を完了しました。次の目標を設定します』

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