箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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交流:テレジア

 

 

「────はい、フレモントさんが事前にいろいろと教えてくれるので、とても助かってます。リターニアの人達が加わってからのここ数日、特に大きな問題は起きていません」

 

『つまり小さい問題は起きているということね? もし良ければどんなことがあったか教えて貰えないかしら?』

 

 

 夜も深まり住民達の一部が寝静まり始めた頃。

 ノア内部の自室にて椅子に座りながら、俺は机の上に置かれた眼前の通信機へと語り掛ける。

 

 遠征が始まってから設けられた、ロドス本艦側との情報共有及び報告の時間だ。

 もちろんノアに乗っているロドスの方々もそれぞれで報告はしていると思うのだが、曲がりなりにもこのノアの管理者を務めている俺も、そういった事をしない訳にはいかない。

 報告する相手はドクターかケルシー先生かテレジアさんの内の誰かになるのだが、どうやら今日は数日振りにテレジアさんが担当のようだった。

 

 リターニアの人達が乗ってから今日に至るまで、彼等との間に大きなトラブルは起きていない。

 来ると予想されていたゲルトルーデ・ストロッロ伯爵の代わりにフランツ・フォン・ウルティカ伯爵という知らない方が来はしたものの、伯爵と一緒にノアへとやって来たリターニア使節団の内の一人、『生息演算』をプレイしていた頃にキャラクターとして登場していたクライデのフォローも有り、伯爵が気分転換に市井に繰り出す際に使用している『エーベンホルツ』という名前で呼ぶことを許されるくらいには仲を深めることが出来た。

 

 そして何故あのクライデが、伯爵の下で使用人として働いているのか。

 疑問や聞いてみたいことはいろいろとあったものの、一度尋ねた際に彼が非常に困った表情でしどろもどろになってしまったため、それ以降は深入りしないようにしている。

 

 ……元気で居てくれたのならば、それで充分だ。

 

 

「問題、と言いますか……。テレジアさんも知っていると思いますが、リターニアの人達は音楽や芸術に強い関心を持っていますよね? それで『オーナーは何か演奏が出来たりはしないのか?』と聞かれました」

 

『……オーナー、もしかして何か演奏出来るの? それならぜひ私も聴いてみたいわ』

 

「いえ、楽器は殆ど出来ません。ですがその、歌唱の方でちょっと……」

 

 

 どう説明したものか、と戸惑いながらも、俺はテレジアさんへの分かりやすい説明を心掛ける。

 

 これは遠征が始まる数週間前、ロドス本艦の一室で行われたエリートオペレーター主催の交流会に招待された際に発覚した新事実なのだが、俺の歌は何とも『不思議に聞こえる』らしい。

 そもそも歌を披露することになったのは、俺以外の皆の酔いが回り始めた頃、突如として始まった罰ゲーム有りのゲーム大会にて敗北したことが原因なのだが、ええいままよ! という気持ちで一曲歌い終えた際、聴いていた皆さんは直前と打って変わって真剣な表情になっていた。

 

 皆さん曰く、俺の歌が『三重で聴こえた』と。

 

 一つは、歌詞がそのままのもの。

 表現や固有名称、言語すらも日本語そのままだったため、意味が全然分からなかったらしい。

 

 一つは、歌詞が翻訳されたもの。

 エリートオペレーターの皆さんが、それぞれ自身の一番馴染み深い言語で聴こえたらしい。

 

 一つは、歌詞が意訳されたもの。

 これが一番凄いと太鼓判を押されたのだが、歌の意味がダイレクトに伝わって来て歌詞に込められた想いすら理解出来たらしい。そしてそれだけでなく文字に起こせば明らかに異なるはずのリズムが全く破綻しておらず、三重の歌声も互いに干渉することなくハッキリと聴き取れたとのこと。

 

 まず間違いなく『翻訳』されているのだろう。歌は単なる言葉と違って様々な意味や特殊な表現が盛り込まれているから、こんな形になってしまったのではないだろうか? 

 耳に届いているのではなく脳に直接内容が送られて来ているようだ、とは酔いによって少し頬を赤らめたロゴス先生の談である。

 

 因みに今回リターニアの人達の前でこの能力を見せたのも、ロゴス先生の入れ知恵に依るところが大きい。

 俺の身体に備わっている能力や特性の数々の中では、この『翻訳』が一番マトモと言われている。

 『あのノアの主ならば何か秘密が有るに違いない』という他者の目に、分かりやすい答えを置くことで他の部分を煙に巻くという寸法だ。

 

 

『…………それで、結局どうなったの?』

 

「大変興味深い、ということで日を数日跨いでも質問攻めに遭ってます。音楽的観点とアーツ学的観点の両方で」

 

『今、手元に有る数日間の報告書を読み返していたのだけれど、そういった記述は見当たらなかったわ。……どうして?』

 

 

 一通りの説明を終えた後、しばらくの間テレジアさんは沈黙を保っていたが、深呼吸のような音に続いてようやく声を発した。

 どうしてと言われても発端の出来事がアフターグローホールで発生したために外部に漏れなかったことと、周りに居たのがロドスへの報告義務が無い護衛のチョンユエさんとグレイディーアさんだけだったからと思われる。

 

 

『……イェラグに居た頃、仕事から帰って来たオーナーが今日有った出来事をちゃんと報告してくれていたのが懐かしいわ』

 

「その節はご迷惑をお掛けしました。今思えば取り留めのない話ばっかりでつまらなかったですよね」

 

『いいえ。その取り留めのない話をする時間が、私は好きだったのよ。オーナーだってそうでしょう?』

 

 

 思えば最近はこの遠征に関することやノアの運営に関することなど、どこか真面目な話ばかりで気楽な話題を口にする機会が無かったように思う。

 

 だからだろうか? 

 久し振りのテレジアさんとの会話は、とても楽しい。

 

 

『オーナーはもう眠るつもりだったのかしら? もしそうで無いのなら、あなたの時間をもう少し私にちょうだい?』

 

「もちろん構いませんよ。私ももっとテレジアさんと、お話をしたいと思ったところでしたから」

 

『ふふっ、私達同じことを思っていたのね。……嬉しいわ』

 

 

 それからは、お互いの取り留めのない話を続けることにした。

 あと三日ほどでレユニオンとの合流地点に到着予定であるし、進路を異にするロドス本艦との通信も、明日か明後日には一時的に不可能になる見通しである。

 

 ロドス側の用事が済み次第、合流地点の方に向かって来るとは聞いているが、用事の進捗によってはテレジアさん達との連絡復活が大分先になる可能性も十分に存在するし、交流期間中に合流出来ない可能性だって有る。

 

 今生の別れという訳では全然無いけれど、いざそう思うと寂しさを覚えてしまうのもまた事実である。

 ……今日は少し、夜更かしすることにしよう。

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

「他には、ですか? ケオベだけじゃなくてフロストリーフの尻尾の手入れも手伝いましたよ。同じヴァルポのリサさんのも手伝ったことがあるので、フロストリーフの方がやりやすかったです」

 

「最近はとても寒くなって来ましたので炬燵を作製してみたのですが、サガとシャイニングさん、二人と一緒に寝てしまったんですよね。……あれ? テレジアさんは炬燵をご存じ無いんですか? それなら今度お見せします。……炬燵は凄いですよ?」

 

「時間が有る時は、料理をしているんです。誰かと一緒にすることもあります。Wさんとじゃがいも料理を作ったり、モスティマさん達とスイーツ作りをしたりですね。あとはその延長でちょっとした菜園も始めてみました。ミュルジスが丁寧に教えてくれて、とても助かっています」

 

「そうですね、チョンユエさんとの朝練は今のところ皆勤賞です。龍門のホシグマさんが鍛錬を手伝ってくれることもあるのですが、身体能力の違いが大き過ぎて、周りからは赤子と大人の戯れみたいだと言われてしまいました。……グレイディーアさんですか? 最初に比べると大分打ち解けられたかなと思っています。この前はダンスの手解きを受けました」

 

「………………あれ、テレジアさん? どうかしましたか?」

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────テレジアからの頼みにより、暫しの間オーナーの行動を記録することとなった」

 

「妾とオーナーはアエファニルの事で語り合った仲。礼儀は有れど過剰な遠慮も必要あるまい」

 

「よろしくお願い申し上げよう、オーナー」

 

 

 次の日、建物の外に出たらPhonoR-0さんが待機していた。

 

 …………どうしてこうなったんだろう? 

 

 





アフターストーリー
『レユニオンとの交流』が解放されました。


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