「何か仕事は無いか? たまに身体を動かさないと鈍ってしまう」
「龍門からの方ですね。ご協力感謝します。資源の運び込みを行っていますので、あちらの区画を伺ってみて下さい」
「えーと……私は今日、どこで働けば良いのでしょう?」
「炊き出しの人員が不足していますので、炊事場に向かって下さい。作業内容については現場の炊事場の担当へ確認を」
「おはよう、おじさん。僕にも手伝えること……有る?」
「ふむ、そうだな……。お前の父ちゃんに伝言を頼めるか? 昼になる前に一度ここへ来て欲しいと俺が言っていた、と伝えておいてくれ」
「すみません、レユニオンから作業の協力で来ました」
「エンジニアの方ですね? 少々お待ち下さい。──おーい! 誰かこの人を案内してやってくれー!」
「おはようございます。手伝いに来ま──」
「──オーナー様! オーナー様の手を煩わせる訳にはっ!」
「その、力仕事でも何でも──」
「お気持ちだけで! そのお気持ちだけで十分で御座います! 何卒ご容赦をっ!」
────────
────────
「────それで、協力の申し出を断られてこちらに……?」
「突然お邪魔してしまいすみません、シャイニングさん。力仕事が駄目となると、後はもう医療系のお仕事しか無いと思いまして……」
早朝。
実際の現場確認の意味も込めて何かしらのお手伝いが出来ないかと思い立ったまでは良かったのだが、仕事の割振りなどを案内しているノア住民を尋ねたところ、凄まじい勢いでお引き取りを願われてしまった。
次善策としてシャイニングさんなどが運営している診療所へと足を運んでみたが、応対してくれたシャイニングさんの感情には喜びが見て取れたので、どうやら俺の判断は間違っていなかったことを確信する。
だが、このままお手伝いの話へと移行しようとしたその矢先、彼女の背後に随分と背の高い人が居ることに俺は気付いてしまった。
……身長、二メートル近くあるんじゃないか?
「────初めましてオーナー、私はヘラグ。……噂はかねがね聞いている。貴殿のような人物がこの大地に居たこと、嬉しく思う」
俺の視線に気付いたのか、シャイニングさんは少しその身をどかして、その背の高い人物──ヘラグさんとの挨拶の機会を作ってくれた。
特徴的な耳羽を持ったリーベリで、白い長髪に年月を感じさせる整った髭。
だがその表情や体躯は精悍の一言に尽き、羽織ったコートと携えた大刀が、『軍人』という単語を俺に思い起こさせる。
でも不思議と威圧感や恐怖は感じない。伝わる感情が暖かく、凪いでいるからだろうか?
その雰囲気に後押しされて、俺は自ずと握手の手を差し出していた。
「──ヘラグさんも診療所を運営しているんですね」
「ああ、だが私自身は医学に疎い。立場も形だけのようなものだ」
「そうなんですか? でもヘラグさんのような穏やかな方が居ると、患者さんも安心出来るのではないでしょうか?」
ヘラグさんはレユニオン所属という訳では無く、今回の交流に際してウルサス帝国側から送られてきた人員らしい。
しかも今回が初めてという訳でも無く、今までにも何度かレユニオンを訪ねているのだとか。
レユニオンとウルサス帝国上層部との秘密裏の協力体制について把握している数少ない人物の一人でもあるようで、それを知っているという事実に基づけば、相当な人物であることも窺える。
普段はチェルノボーグという移動都市で診療所を運営しているとのことだが、立ち位置としては感染者のための闇診療所みたいなもので、地域からは黙認されている部分も多々あるとのこと。
ウルサス帝国は感染者に対する弾圧が厳しいと習ったが、やはりそういった場所でも、ヘラグさんみたいな優しい人は出てくるようだ。嬉しい限りである。
ちなみに今日は、ノアの感染者に対する治療方法などを教えて貰いに来たらしい。疎い部分であっても学ぼうとする姿勢、非常に素晴らしいと思う。
「ボジョカスティ──パトリオットとは、かつて戦場を供にした古い仲だ。彼が未だに私の事を『将軍』と呼ぶせいで、レユニオンでは私の事を『将軍』と呼ぶ者が非常に多い」
「なるほど……。それならぜひ私も『将軍』と呼びたいところですが、『将軍』も『大将軍』も既に枠が埋まっているんですよね……」
「私自身は好きに呼んでくれて構わないが……ふむ。貴殿にそう呼ばれる者達には、ぜひ一度会ってみたいものだな」
軍人っぽいな、とは見た瞬間からそう思っていたのだが、本当にそうだった。
それにあの滅茶苦茶に強いパトリオットよりも立場が上だったらしいので、その強さは計り知れない。
……ヘラグさん本人は、大分昔の事であって戦術指揮などの方が得意だと言っていたけれど。
────閃いた!
「……………………オリジムシ、か」
「金属製の武器は重くて使えません。徒手か木剣で勝負してます」
「……見たところ筋肉の密度が異様に低い。種族的なものであれば、今後も膂力の増大はそれほど見込めないだろう。……戦績は?」
「五敗五引分です」
「そうか……」
「はい」
「……………………」
「……………………」
「…………オーナー、菓子はいかがかな?」
「……頂きます」
ヘラグさんがくれたお菓子は甘くて美味しかった。
……些細な悩みなんて吹っ飛んじゃうね! ちくしょう!
────────
────────
大分話し込んだ後、ヘラグさんは本来の用事だった治療方法などについてシャイニングさんに師事を願い、それも終わると次の用事が有ると言って、丁寧なお礼を述べてから診療所を後にした。
「お疲れ様です、シャイニングさん。最初にかなり時間を使ってしまってすみませんでした」
「……いえ、オーナーが謝る必要はありません。それより──」
そう言ってシャイニングさんは、柱に掛かっている時計の方を見た。
つられてそちらに目を向けると、その時刻がお昼に差し掛かろうとしているのが見て取れる。
「オーナー、一緒にお昼はいかがでしょうか? もう少しすればリズさんとニアールさんも往診から帰ってきますので……」
「……私が一緒でも大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん」
三人の時間を邪魔するのは悪いと思ったのだが、シャイニングさんの感情には大きな期待が含まれていたので、お誘いに甘えることにした。
俺が「それならよろしくお願いします」と返すと、シャイニングさんも淡く微笑む。
──だがそれも一瞬の出来事で、気付いた時には彼女の表情はどこか悲し気なものへと変わってしまっていた。
「……オーナー」
「……シャイニングさん? どうかしましたか?」
「先程のヘラグさんとの会話で聞こえてきたのですが……戦績が増えていましたね?」
「──あっ」
「また、私の知らないところで無理をされたのでしょうか……?」
結局その後、リズさんとニアールさんが診療所に帰って来るまで、シャイニングさんの説教を受けることとなった。
そして二人が帰って来てからは、三人から説教を受けることになった。
……そんなに心配しないで下さい。次こそはきっと勝ちますから!