箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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レユニオンとの交流⑤

 

 

 レユニオンとの交流の期間も残すところあと半分ほどとなった頃、『オーナー様とノア様のため!』といった具合で張り切り過ぎたノア住民達のおかげもあって、貿易に関する資源の運び込みなどは殆どが完了してしまった。

 

 そういった理由も有って急遽設けた休息日の本日。

 俺が知らない部分で一日二十時間は自主的に働いていた住民達を無理矢理説き伏せて労働禁止を強く言い渡した俺は、その模範となるべくノア本部の会議室で、ロドスのCEOの一人であるアーミヤさんと雑談を交わしていた。

 

 

「──という訳で、暇を潰せるように住民の皆さんにはこの新しく生成した機械を渡したんです。今頃自宅で好きなように設定作業をしていると思います」

 

「ええと、オーナーさん。もう一度機能をご説明頂いてもいいですか? 何だか聞き間違えた気がして……」

 

「全然構いませんよ、アーミヤさん。この『リトル・ノア』は──」

 

 

 何故か動揺しているアーミヤさんのことを不思議に思いながら、椅子に座る彼女へと俺は説明を繰り返す。

 床に置かれた源石電気ストーブくらいのサイズの機械──『リトル・ノア』は、返事をするかのように緑のランプを点滅させた。

 

 グレイディーアさんとのお話の中で出て来た『リトル・ハンディ』から着想を得て作成したこの機械は、要は生活を助ける便利用品である。

 基にした『リトル・ハンディ』は実験や建設の補佐、光源や温湿度の管理、食料や水のプリント機能などが備わっていると聞いているが、この『リトル・ノア』はプリント機能を廃した代わりに、その名前の如くノアの『生成機能』を有している。

 もちろんその機能は本家本元のノアに比べると大分制限されており、資源やエネルギーの補給は俺かノアのどちらかからしか出来ないのに加え、盗難防止策としてノアから一定範囲以上は離れられない仕様も組み込んである。

 

 

「生成機能を追加するのは非常に迷ったのですが、私の不在時や緊急の事態で間に合わない場合を想定して取り付けました。住民の人命優先です」

 

「……理由が理由なだけに注意することも出来ません。ドクターやケルシー先生にどう報告すればいいのでしょうか……」

 

 

 困ったように兎耳をペショリと伏せるアーミヤさん。

 普段はドクターやケルシー先生に直接報告するのだが、ロドスは未だ別作戦を実行中のため、代わりにアーミヤさんへと近況を報告している次第だ。

 今回はレユニオンとの交流が忙しくて、報告内容が数日分溜まってしまっていた。膨大な量と複雑な内容に彼女も困惑しているようで、大変申し訳ない。

 

 でもちゃんと報告しないで隠していると、そこにテレジアさんを加えた三名での説教コースが確定するのでどうか許して欲しい。

 

 しばらくの間アーミヤさんの筆記する手は止まっていたが、やがて再開し、長文を書き終えた後で彼女はほう、と小さく息を吐いた。

 

 

「お疲れ様です。私からの報告は以上ですが、聞き取りはこれで終了でしょうか?」

 

「報告ありがとうございます。でも、その、ええと……」

 

 

 アーミヤさんにしては珍しく、とても歯切れが悪い。

 何度かゴニョゴニョと言葉を漏らしているが、それはしっかりとした言葉にはなっておらず、適切な言葉を探しているようにも見えた。

 

 

「────レユニオンの方々とはどうですか?」

 

「どう、とは?」

 

「何か印象深い、あるいは特別な出来事があれば教えて下さい。もちろん話せる範囲で構いません」

 

 

 結局彼女の口から出て来たのは、何とも抽象的な内容だった。

 ……でも、出来事と言っても大したことは無かったように思える。

 

 タルラとの食事や散策は、ほぼ毎日しているから特別なことでもない。最初は各々の陣営の運営に関する事ばかり話していたが、最近は雑談や自身の過去に関する話の比重の方が大きくなった気がする。

 

 フロストノヴァ──エレーナさんとは四日くらい続けてあの加熱行為を行っているが、これは噂を聞きつけたエレーナさんと縁が有る者達が次から次へと押し寄せてくるのを彼女が対処するためであるから、これも特別なことでは無いだろう。

 

 そういえば先日はアリーナとも話をする機会があった。助けて貰ったことへの感謝と共に手料理を振る舞って貰ったが、忌避することなく食事に口を付けたことを彼女はとても喜んでいた。感染者の作った料理に対するこの行動で喜ばれることはもう何度目だろうか? 毎度のことでもあるので、これもやはり特別なことでは無い。

 

 後は……コシェルナさんと交流する機会が有った。とても短い時間であったが、その会話だけで俺の身体に備わっている能力をいくつか当てられてしまった。『私の単なる興味であり、他者に話す気は無い』とは言っていたが、やっぱり賢い人は恐ろしい。でもああいう人が味方に居ると心強いのも事実だ。あー、どこかに賢くて優しくて人望が有ってノアの運営を助けてくれる人材は居ないものだろうか? そう考えるとテレジアさんの顔が思い浮かんだが、彼女はカズデル復興で忙しくなるだろうし望むことが出来ないだろう。

 

 パトリオットは周辺警戒の任務に就いているらしく、今のところ最初の挨拶以外で交流出来ていない。でも部下の方から『一度席を設けてじっくり話し合いたい』という要望を受け取っているので、近日中に交流の機会はありそうだ。

 

 ……レユニオンの方々とはこれくらいだろうか? 

 ノアに滞在している他国の方々ともいろいろ有ったのだが、聞かれた訳では無いのでこちらはとりあえず保留としていいだろう。

 

 話し終えてアーミヤさんの方を改めて見れば、彼女はとても難しい表情をしていた。そしてその手はスラスラと文章を紡いでいる。

 

 

「……テレジアさんにこのまま報告して大丈夫でしょうか?」

 

 

 彼女の口から漏れ出た言葉は、テレジアさんに対するもの。

 特に怒られたり心配されたりするような内容は……コシェルナさんとのやり取りくらいだと思われる。

 

 なので、あんまり気にしなくても大丈夫だと思うんだけれども。

 

 

「もう少し詳しくお聞きしても良いですか……?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 アーミヤさんにとっては気になる部分もあったらしい。

 その後も何度か質問に答え、彼女が満足した頃にはお昼時になってしまっていた。

 

 彼女の護衛でもあるWさんが作ってくれたジャガイモ料理は、とても美味しかった。

 

 

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