箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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レユニオンとの交流⑦

 

 

「────ん……?」

 

「オーナー殿、どうかされたか?」

 

 

 移動都市レユニオンに設けられた食料生産区の見学を終えた後、駐屯地への移動途中に何かの声が聞こえた気がした俺は、思わず辺りを見回した。

 本日の護衛でもあるサガは俺の突然の行動に警戒度を上げたのか、それまでの和やかな雰囲気を消し、代わりに鋭い気配を辺りに漂わせる。

 

 

「いえ、敵意とかを感じた訳ではありません。だから、その……大丈夫ですよ」

 

「も、申し訳無いっ! 咄嗟の事でつい……!」

 

 

 俺は実は戦闘方面に関してはあまり才能が無いのだが、『共感』のおかげで斥候じみた事が出来る。

 ここに来てからは今のところ一度も発生していないが、遠征の移動前のノア付近の集落で散策をした際は、何度か他国の間者の類いを発見したことがあるほどだ。

 

 そんな経験もあってなのか、不測の事態が起きても何時でも動けるようにと、瞬時にサガは俺の手を握っていた。

 謝るサガに気にする必要は無いと返すが、彼女の手が離れるまでには若干の時間が有った。

 

 一体どうしたのだろう? 

 疑問を問い掛ける前に、再び先程の声が俺の耳へと届いた。

 

 

「この辺りから聞こえます」

 

 

 元々廃棄されていた移動都市を修復したという経緯を持つレユニオンは、道や建物の多くが未だに損壊、あるいは老朽化で崩れてしまっている部分が多い。

 声に導かれるように道路の脇へと歩を進めると、瓦礫の山に混じって明らかに人工物の見た目をした人形のようなものが見えた。

 

 

「拙僧には何も聞こえぬが、オーナー殿が分かるとなると植物の類い…………にも見受けられませんな」

 

「石とか金属とかも何となく分かる程度には存在感を感じられますが、この人形は今までに無いモノを感じます。言葉にはなっていませんが、私に語り掛けてきていますね」

 

 

 両手で抱えられそうなサイズの石と土で出来た人形は、全く動く気配が感じられない。だというのに不思議な存在感が、そこに確かに有る。

 ひょいと抱えてみるが、特に変化は見られなかった。だが抱えた瞬間、サガが瞬く間に慌て出した。

 

 皆さんの身体能力がおかしいだけで、これくらいなら俺でも持ち上げられますからね……? 

 そんなに心配しなくてもあと二十秒くらいまでなら余裕ですよ。余裕。

 

 

「────あなたも、私の友人が分かるのか?」

 

 

 少しくぐもった声。

 

 瓦礫の山の脇から聞こえたその声の方を向けば、そこには重厚な装備に身を包んだ白い巨体が有った。

 ……この人の装備から、この人形と同じ気配がする。『共感』で気付けなかったのは、その気配が多過ぎてこの人自身の感情が紛れてしまったからだろうか? 

 

 どちらにせよ、敵意や悪意が無い人で良かった。

 だからサガ、警戒は解いても大丈夫。あと、その手も離してくれると助かります。

 

 サガの手、武人とは思えないくらい綺麗でスベスベだから、何だか緊張しちゃうんだよね……。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「──マドロックに会ったのか?」

 

「はい、つい先程会いまして……。何というか、意気投合? みたいなことも有って遅れてしまいました。すみません」

 

「いや、彼と仲良く出来たのなら問題は無い。この後の話もすんなりと済みそうでむしろ助かるくらいだ」

 

 

 ノア内部に作られた資料室──図書館のような建物の中で、本棚からいくつかの本を手に取って確かめていたタルラは、俺の言葉にそう返した。

 本日の用件はレユニオンに持っていく本の選定で、主に子供達への教育や娯楽のために必要らしい。こちらとしては生成で同じものを何冊も生み出せるので、何をどれだけ持っていかれても困るものでは無い。

 

 戦闘訓練や食料調達などで日々を生きることで精一杯だったレユニオンの仲間達がこういった知識に時間を割けるようになったことが嬉しい、と語るタルラの表情は、とても優し気で何だか印象的だった。

 

 実はこの施設はアリーナも訪れたことが有り、彼女がレユニオンだと最初の一人に当たるのだが、それを話した際のタルラは「……子供達の先生として振る舞っている以上、本の知識に目を付けるのは当然か。私が初めて案内された人物では無いのが少し残念だ」というコメントを残している。

 ……案外、知識欲が強いのだろうか? 新しい情報とかは誰よりも先に知りたいタイプなのかもしれない。

 

 

「この後の話、というのは?」

 

「ああ、オーナーやノアの住民さえ良ければだが……マドロックとその小隊を引き取っては貰えないだろうか?」

 

 

 ここに来る前にマドロックさんと話したおかげで、彼女の事はある程度知っている。

 実際に見た訳では無いがあの姿から想像するに戦闘能力も有りそうだし、何より彼女のアーツはレユニオンにとって重宝されるものでは無いだろうか? 

 

 沸き立った疑問を投げ掛けると、タルラは本を机に置いて俺の方を見た。

 

 

「オーナーの言うことはもっともだ。正直に言えば彼に助けられている部分も非常に多い」

 

「だがレユニオンではウルサス貴族相手の戦闘も珍しくなく、それによって小隊の仲間が傷付くことに彼が心を痛めているのもまた事実だ」

 

「……サルカズ傭兵に偏見を持つ訳では無いが、責任感と優しさが傭兵としては強過ぎる。ここに居させるよりも他の信用出来るところに託したい」

 

 

 『信用出来るところ』の部分で、タルラは俺に微笑んだ。

 さて、どう返答したものか? と考える俺の脳内に、マドロックの言葉が蘇る。

 

 

『オーナー。出会ったばかりだというのに、私の友人達はあなたを慕っているらしい』

 

『ああ、私の小隊のメンバーでもここまで慕われている者は居ない』

 

『……知らなかったな』

 

『同じ感覚を共有出来る者が居ると、こんなにも嬉しいなんて』

 

 

 ……境遇としては、ミュルジスに近いのかもしれない。

 純粋な喜びの感情を受け取って、悪い気分になることなんて無かった。

 

 

「……即答は出来かねますが、善処したいと思います」

 

「よろしく頼む」

 

 

 ノア住民への説明と承諾を得ること、これを皮切りに他国から打診されるであろうことへの対処方法の協議。

 考えることはたくさん有るが、とりあえず先程からちょっと引っ掛かっていたことをタルラに尋ねるとしよう。

 

 本棚へと戻ろうとしていたタルラを呼ぶと、彼女は「どうした?」という言葉と共に振り返る。

 

 

「ところで一つ気になっていることが有るのですが……マドロックさんは『彼』ではなく、『彼女』ですよね?」

 

「……待て。どういう意味だ?」

 

「マドロックさんって、女性ですよね……?」

 

 

 くぐもってはいたけれど声は女性のソレだったし、翻訳能力で内容が変わっている可能性もあるが言葉遣いも女性のソレだった。

 俺としては女性で間違い無いと思っており、何なら疑問すら持たなかったのだが……。

 

 目の前のタルラは驚愕の表情に染まっている。

 受け取る感情には何故か焦りが含まれていた。

 

 どうやらタルラにとって意外な事実だったらしい。

 

 因みにこの後サガにも確認してみたが、タルラと同じ反応を見せてくれた。

 

 うーん……、そんなに難しい事だろうか? 

 

 

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