ノアとレユニオンの貿易及び交流は、誰の目から見ても『成功』の二文字でつつがなく終了を迎えた。
今回の結果と内容を踏まえて、各陣営・各国家が何らかの動きを見せるであろうことは火を見るよりも明らかである。
「チェン隊長、何か良いことでもありましたか?」
「ホシグマか。……そうだな、長年抱えていた懸念の一つがようやく払拭出来た。今夜は少し付き合ってくれ」
またノアとレユニオンの間だけでは無く、いくつかの陣営が一堂に会した結果、オーナーの与り知らないところで状況が好転した部分も存在する。
それに巻き込まれるか、あるいは自ら踏み込むか、どうなるかは分からずともオーナーが無縁で居られないことだけは確定している。
「フレモント先生、それは本当ですか?」
「ああ、オーナーから言質を取った。ノアはヴィセハイムに立ち寄った後に帰還するそうだ。伯爵にも伝えておけ」
喜び足早に去っていくクライデの後姿を眺めながら、フレモントは思考を巡らせる。
ノアの住民を怒らせること無く、各国に疑いを持たれること無く、穏便にオーナーを双子の女帝の下へ連れて行くための算段を立てるために。
「エレーナ、そろそろ引き上げる時間だ。駐屯地の荷物をまとめておけ」
「……次に会えるのは半年後か、あるいはそれ以上か。……長いものだな」
次回の約束を取り決めてはいても、テラの大地においてその約束が十全に果たされることは非常に少ない。
視界の奥で豆粒ほどになってしまったノアを見つめながら、フロストノヴァは少し寂しそうに白い息を吐いた。
「────これで満足か? 私に恥じるものは何も無い。今話したことが起きた出来事の全てだ」
「馬鹿者がっ……、恥じらいを持て……! 上に立つ者には相応の品位が求められるのだ。タルラ、お前には今一度淑女とは何たるかを教え直す必要がありそうだ……!」
自身は最高最良の結果を得たと思っても、他者の視点や見方によっては見解が異なることも少なくはない。
だが何かしらの行動を起こすことによって、停滞していた状況に変化が生まれることもまた真理である。
『──、────、……アーミヤ? ようやく繋がったわね……。こちらの作戦はひとまず成功したわ。そちらはどうかしら? オーナーがまた何かをしてしまったりはしていない?』
「──テレジアさん、無事で何よりです! こちらは……その、ええっと…………説明がとても難しいので、ロゴスさんに代わりますね……」
────その変化が、良いものかどうかは誰も知る由が無いとしても。
「────ん、あれ……? 寝てた……?」
ノア本部の休憩スペースに置かれたソファの上で、オーナーは目を覚ます。
レユニオンと別れてからまだ数時間程しか経っていないが、積み重なった疲労は彼を眠りに誘うには十分な量だった。
そのまま眼を擦ろうとして、オーナーはふと気付く。誰かが身体に抱き着いている、と。
(……ケオベ)
見ればそこには、寝息を立てて幸せそうに眠るケオベの姿が有った。
こういう時は決まって彼女であることが多い。
今回もその例に漏れなかったことに苦笑しつつも、彼女を起こしてしまう可能性を考慮し、オーナーは再び眠りに落ちることを決めた。
だがその前に、起きている間ずっと脳内を占め続けている先日の出来事を、どうしても思い出してしまう。
想い。
体温。
感触。
一つでさえ処理し切れない自負がオーナーには存在したが、それが三つともなれば尚更であった。
悶々とした思いを抱きつつも、時間が経つ毎にオーナーの意識は薄れていく。
その最後、彼の本音は意図せず口から零れ出していた。
────帰り辛くなっちゃったな。
オーナーがすぅすぅと寝息を立てる直前、今まで閉じていたその眼をパチリと開いた人物が居る。
「……オーナー? どこに帰るの……?」
抱き着いたまま彼を見上げるケオベの瞳には、不安と恐れ──そして妖しさを孕んだ粘り気の在る熱が含まれていた。
≪観測を一時中断します≫
≪『資料室』を開放しました≫
≪個体名『オーナー』の犠牲に敬意と感謝を≫
≪個体名『オーナー』の犠牲に敬意と感謝を≫
≪個体名『オーナー』の犠牲に敬意と感謝を≫