箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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新境地/20日目

 

 

 走る。

 

 走る。

 

 走る。

 

 肺は悲鳴を上げ、脚は鉛のように重い。

 

 何故走っているのかさえ忘れてしまいそうなほどに、鈍い痛みが脳を襲っている。

 

 それでも私は、今、止まる訳にはいかなかった。

 

 

 他者に優しく、誠実に、懸命に、正しく生きてきた彼女に。

 

 私が想像していることなんて起こる訳が無い。

 

 こんな理不尽が襲い掛かる訳が無い。

 

 襲い掛かって、良い訳が無い! 

 

 

 そうだ、きっと何も起こってなんかいないんだ。

 

 村の子供達は帰って来てないなんて言っていたが、寄り道をしているだけに違いない。

 

 この森を抜ければ、彼女の姿がそこにあるはずなんだ。

 

 

『タルラ? そんなに急いでどうしたの?』

 

 

 いつもみたいにそう言って、困ったように微笑むはずだ。

 

 

 きっとそうだ。

 

 そうならなければ。

 

 この大地は、試練を与えるだけでは無いはずなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 降り積もった雪の道。

 

 真っ白な景色のその隅に、夥しいほどの『赤』があった。

 

 それ以外は、何も無かった。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

『 ムラビトガデテコナイ ナゼダ 』

 

「ノア様、僭越ながら申し上げますと、突然ノア様のような巨大な移動物体が現われては、村人達が困惑して出て来れないのは仕方の無いことかと」

 

 

 『ノア』の内部。

 収納された建造物達、その中心の祠の前には、住民達の内の何名かが集まっていた。

 

 村を発見し近付いてみたところ、誰一人として『ノア』のほうにやって来ない。

 それに疑問を持った『ノア』が、交流用に待機させていた住民達に召集をかけた次第である。

 

 

『 コチラカラデムク イカニ 』

 

「ノア様のためならば、私達は何も問題ありません」

 

「何なりとお申し付けください」

 

 

 住民達の意欲はいつも通り高く、使命感に溢れている。

 

 その時、一人の住民が慌てて走ってきた。

 

 

「──ノア様、保護したエラフィアが目を覚ましたそうです」

 

 

 その報告に、何名かが驚きの声を上げた。

 

 

「随分と早いな、腕は動きそうだったか?」

 

「はい、本人も動かしながら不思議そうにしていました」

 

「なるほど、千切れていた腕すらもくっつけて治せてしまうのか」

 

「あの出血量でも助かるとは……驚きだな」

 

「貴様、ノア様を疑ったか?」

 

「ノア様の御力に感動しただけだ」

 

「ならば良い」

 

 

 ざわざわと話し合う住民達を他所に、『ノア』は沈黙を保っている。

 そしてそのざわめきが治まり出した頃、『ノア』の声が響いた。

 

 

『事情は分かりかねますが、この近辺に詳しい可能性があります。まずは話を聞きたいですね』

 

「今はシャイニングが看てくれてるよ。私が連れて来ようか?」

 

「フロストリーフさん? いつの間に……?」

 

 

 一体何時からそこに居たのか、住民達の後ろに立っていたフロストリーフ。

 

 一番近くに居た住民が、突然の声に驚いて後ずさる。

 住民達をかき分けて、フロストリーフは祠の前まで進んだ。

 

 

「……久しぶりだな、『オーナー』」

 

『 リカイフノウ マイニチアイサツヲシタ 』

 

「そうだな。でも『オーナー』とじゃ無いだろう? 私は欲張ることにしたんだ」

 

 

 そう言って不敵に笑う彼女に、周りの住民が驚くことは無い。

 

 『ノア』と『オーナー』を同一視する者もいれば、それぞれを違う存在として受け入れる者もいる。

 

 フロストリーフが後者なだけなのだ。

 

 どちらにも敬意を持って接するのであれば、『ノア』の住民がそれを咎めることは無い。

 

 

『それではフロストリーフ、お願いしても良いですか?』

 

 

 その言葉に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「──タルラはどうした?」

 

「少し前に帰ってきた……が、今はそっとしておいてやれ」

 

 

 ウルサス帝国の西北。

 凍えるような寒さと、僅かばかりの資源しか存在しないその駐屯地で、篝火を前に二人の人物が佇んでいた。

 

 『スノーデビル小隊』の隊長であるフロストノヴァと、その隊員である。

 

 訝し気な表情で不満を訴える隊員に目もくれず、フロストノヴァは篝火から目を離さない。

 

 

「リーダーといえど勝手な行動は規律違反だろう。示しがつかない。誰も文句は言わなかったのか?」

 

「問題無い。お前はタルラのあの顔を見ていないからそう思うだろうが、あれを見て皆が口を噤んだよ」

 

「……何があったんだ」

 

「私も詳細は知らない。だがあれは……大事な誰かを亡くしたんだろうな」

 

 

 他の奴らでも、何度も見たことがある顔だった。

 

 その言葉をわざわざ続けることは無かった。フロストノヴァにとっては珍しいことでは無かったからだ。

 このウルサスの凍える大地では、誰かが死ぬことなんて日常茶飯事で、その誰かが誰かの大事な人であることも、よくある一つの出来事に過ぎない。

 

 

(子供達が言うには『アリーナ』だったか。村の教師だったと聞いているが……)

 

 

 よくある一つの出来事だ。

 それでもやはり、と彼女は思う。

 

 あの、あの『タルラ』の大事な人。

 

 

(一度くらい、会って話をしてみたかったな)

 

 

 もうそれが叶うこともない、と。

 

 彼女はただその目を伏せた。

 

 





≪Tips≫

『住民詳細』
評価  : 感謝 崇拝
好感度 : 住民→心服
ネームド: ケオベ 90%
      モスティマ 40%
      サガ 65%
      フロストリーフ 120%
      シャイニング 55%
      アリーナ 20%


『現在目標が存在しません。範囲内に学習対象を置いて下さい』

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