走る。
走る。
走る。
肺は悲鳴を上げ、脚は鉛のように重い。
何故走っているのかさえ忘れてしまいそうなほどに、鈍い痛みが脳を襲っている。
それでも私は、今、止まる訳にはいかなかった。
他者に優しく、誠実に、懸命に、正しく生きてきた彼女に。
私が想像していることなんて起こる訳が無い。
こんな理不尽が襲い掛かる訳が無い。
襲い掛かって、良い訳が無い!
そうだ、きっと何も起こってなんかいないんだ。
村の子供達は帰って来てないなんて言っていたが、寄り道をしているだけに違いない。
この森を抜ければ、彼女の姿がそこにあるはずなんだ。
『タルラ? そんなに急いでどうしたの?』
いつもみたいにそう言って、困ったように微笑むはずだ。
きっとそうだ。
そうならなければ。
この大地は、試練を与えるだけでは無いはずなんだから。
降り積もった雪の道。
真っ白な景色のその隅に、夥しいほどの『赤』があった。
それ以外は、何も無かった。
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『 ムラビトガデテコナイ ナゼダ 』
「ノア様、僭越ながら申し上げますと、突然ノア様のような巨大な移動物体が現われては、村人達が困惑して出て来れないのは仕方の無いことかと」
『ノア』の内部。
収納された建造物達、その中心の祠の前には、住民達の内の何名かが集まっていた。
村を発見し近付いてみたところ、誰一人として『ノア』のほうにやって来ない。
それに疑問を持った『ノア』が、交流用に待機させていた住民達に召集をかけた次第である。
『 コチラカラデムク イカニ 』
「ノア様のためならば、私達は何も問題ありません」
「何なりとお申し付けください」
住民達の意欲はいつも通り高く、使命感に溢れている。
その時、一人の住民が慌てて走ってきた。
「──ノア様、保護したエラフィアが目を覚ましたそうです」
その報告に、何名かが驚きの声を上げた。
「随分と早いな、腕は動きそうだったか?」
「はい、本人も動かしながら不思議そうにしていました」
「なるほど、千切れていた腕すらもくっつけて治せてしまうのか」
「あの出血量でも助かるとは……驚きだな」
「貴様、ノア様を疑ったか?」
「ノア様の御力に感動しただけだ」
「ならば良い」
ざわざわと話し合う住民達を他所に、『ノア』は沈黙を保っている。
そしてそのざわめきが治まり出した頃、『ノア』の声が響いた。
『事情は分かりかねますが、この近辺に詳しい可能性があります。まずは話を聞きたいですね』
「今はシャイニングが看てくれてるよ。私が連れて来ようか?」
「フロストリーフさん? いつの間に……?」
一体何時からそこに居たのか、住民達の後ろに立っていたフロストリーフ。
一番近くに居た住民が、突然の声に驚いて後ずさる。
住民達をかき分けて、フロストリーフは祠の前まで進んだ。
「……久しぶりだな、『オーナー』」
『 リカイフノウ マイニチアイサツヲシタ 』
「そうだな。でも『オーナー』とじゃ無いだろう? 私は欲張ることにしたんだ」
そう言って不敵に笑う彼女に、周りの住民が驚くことは無い。
『ノア』と『オーナー』を同一視する者もいれば、それぞれを違う存在として受け入れる者もいる。
フロストリーフが後者なだけなのだ。
どちらにも敬意を持って接するのであれば、『ノア』の住民がそれを咎めることは無い。
『それではフロストリーフ、お願いしても良いですか?』
その言葉に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
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「──タルラはどうした?」
「少し前に帰ってきた……が、今はそっとしておいてやれ」
ウルサス帝国の西北。
凍えるような寒さと、僅かばかりの資源しか存在しないその駐屯地で、篝火を前に二人の人物が佇んでいた。
『スノーデビル小隊』の隊長であるフロストノヴァと、その隊員である。
訝し気な表情で不満を訴える隊員に目もくれず、フロストノヴァは篝火から目を離さない。
「リーダーといえど勝手な行動は規律違反だろう。示しがつかない。誰も文句は言わなかったのか?」
「問題無い。お前はタルラのあの顔を見ていないからそう思うだろうが、あれを見て皆が口を噤んだよ」
「……何があったんだ」
「私も詳細は知らない。だがあれは……大事な誰かを亡くしたんだろうな」
他の奴らでも、何度も見たことがある顔だった。
その言葉をわざわざ続けることは無かった。フロストノヴァにとっては珍しいことでは無かったからだ。
このウルサスの凍える大地では、誰かが死ぬことなんて日常茶飯事で、その誰かが誰かの大事な人であることも、よくある一つの出来事に過ぎない。
(子供達が言うには『アリーナ』だったか。村の教師だったと聞いているが……)
よくある一つの出来事だ。
それでもやはり、と彼女は思う。
あの、あの『タルラ』の大事な人。
(一度くらい、会って話をしてみたかったな)
もうそれが叶うこともない、と。
彼女はただその目を伏せた。
≪Tips≫
『住民詳細』
評価 : 感謝 崇拝
好感度 : 住民→心服
ネームド: ケオベ 90%
モスティマ 40%
サガ 65%
フロストリーフ 120%
シャイニング 55%
アリーナ 20%
『現在目標が存在しません。範囲内に学習対象を置いて下さい』