目を覚ました人物──アリーナは、自分の状態とこの状況に戸惑っていたようだったが、連れ添っていたシャイニングの説明に一応の納得をしたのか、落ち着きを取り戻してくれた。
そうしていろいろと聞き取りをしてみたところ、様々なことが判明した。
『私はこの村の出身ではありません。西にある駐屯地から来ました』
『駐屯地には仲間達が居ますが、その……』
『……助けて頂いた身です。正直にお話しします』
まず一つ。
この人が所属している組織は、この土地における正規の組織ではなく、どちらかと言えばレジスタンス側であること。
ゲームだとありがちな展開だけど、どうしようか?
関わり過ぎると正規の組織と交流不可とかになるのかもしれない。
『貿易、ですか?』
『この西北凍原から東や南に向かえば都市は存在します。……ご存じとは思いますが、ウルサス帝国はその……友好的な交流は難しいかと』
『私達ですか? ……物資で無い部分なら可能かもしれません』
そして二つ目。
どうやらここでも貿易の可能性は低いらしい。
都市との貿易は交流自体が難しく、この人達との貿易は内容的に厳しそうだ。
というか『ご存じ』とは? 俺には何も分からないんだが?
無知を晒しそうだから流しちゃったけど、そんな共通認識になっているくらいなんだ、ウルサス帝国って。
『……資源を採取?』
『私は気にしませんが、皆様はウルサスの方では無いですよね?』
『……ええと、監視隊に見つからなかったのは幸運でしたね』
最後、これが一番の問題。
もしかして俺達、もう犯罪者集団?
そんな! 勝手に人様の土地に乗り込んで、道中で資源を採取しただけなのに?
あと道中で襲われたから、それに対して反撃しただけなのに?
──弁解の余地が無えっ!
『それで、どういたしましょうか?』
『私としてはお礼がしたいので、駐屯地に向かいたいのですが……』
この村の人達は未だに出てくる気配が無い。
俺達は正規の組織から犯罪者として見られる可能性がある。
命を救ったからなのか、このアリーナは友好的に接してくれている。
うん、レジスタンス側との交流しか選択肢が無いな、これは。
ゲーム画面の日も落ちて来たし、夜の間に移動して駐屯地の方に伺うとしよう。
『……っ! すみません……』
『どうやら傷は治っても体力は戻っていないようですね。無茶はしないように……』
突然ふらりと体勢を崩したアリーナを、傍に居たシャイニングが支えた。
今回みたいな警戒状態を引き起こさないように、駐屯地から離れたところで待機して、そこからアリーナを含めた何名かで訪問しようと考えていたんだけど、これを見るに考え直す必要がありそうだ。
最近作製した新しい無線通信機もあるし、アリーナには『ノア』で待機してもらった方が良いかもしれない。
本人を連れていけないから初対面で荒事が起きる可能性を考えると、戦闘能力が高いネームドが最適か。
「お、選択肢だ。誰にしようかな?」
画面上で、いつの間にか集合していたネームド達のセリフテキストが表示された。
『おいら頑張るよー!』
『単独行動は旅を思い出すでござる』
『いつ出発する?』
『………………』
シャイニングだけセリフが無い。
何かを考えるかのように、口元に手を添えている。
「そういえばシャイニングって感染者援助団体に所属してるし、その立場を使えばとりあえず接触は簡単になるんじゃ……?」
クリックしてその旨を音声入力すると、シャイニングは頷いてくれた。
よし、それじゃあ今回はシャイニングと一緒に行くとしよう。『使徒』の立場を使うから、彼女一人の方が良さそうだ。
こういうのって好感度とかも上がるイベントだろうし、この中で最後に加入したのが彼女だと考えると、そういうのを稼ぐ意味でも良い選択だろう。
まあそもそも好感度とかがこのゲームにあるのかは分からないんだけどさ。
「『シャイニング、よろしくお願いします。道中は暇でしょうから話し相手くらいにはなりますよ』、と」
『最初の頃みたいにオーナーと、二人きりでお話ししたかったなー……』
『……オーナーの判断なら従うさ』
『二人とも、どうしたでござる?』
急に雰囲気が変わった二人を見て、サガが戸惑っていた。
そんなに駐屯地に行きたかったのか……?
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降り続ける雪の中を、シャイニングは一人で歩く。
彼女が一人になるのは久しぶりの事であった。
最近は『ノア』の住民達と共に過ごしており、その前でさえ友、あるいは仲間との三人旅だった。
「『オーナー』、お話をしてもいいですか……?」
『 ナンデショウカ 』
「『ノア』、あなたではなく『オーナー』と、です。可能でしょう?」
無線機の電源を入れ、語りかける。
要望を伝えると、少しの静けさの後、声が響いた。
『何かありましたか、シャイニング?』
「いえ、何かがあった訳ではありません。ですが折角の機会です。あなたのことを教えて下さい」
『私のこと、ですか? 面白いことは無いと思いますが……』
「好きなことや嫌いなこと、何でも構いません。私は……私達は、あなたのことを知らなさ過ぎる」
血溜まりの中にいたアリーナを見て、医療に造詣が深いシャイニングは即座に思った。
助かるはずが無い、と。
しかし現実はそうではなかった。
『ノア』から提供された救急キットは、彼女の命を確かに救った。
医療では到底説明出来ない結果だった。
知らないことを、理解出来ないことを、人は恐れる。
彼女でさえ、それは例外ではない。
怖い、とシャイニングは思う。
『あまり話すのは得意ではありません。失礼なことや意味の分からないことを言ってしまいそうで……』
「構いません。あなたはもっと、私達に迷惑をかけても良いのです」
『……そうでしょうか?』
「あなたが私達に与えてくれるものは、それ以上のものであると自覚して下さい」
だからこそ、ちゃんと知りたいとも思った。
過ごした時間が、『ノア』や『オーナー』を、恐怖の対象とすることを良しとしなかった。
知らないのであれば、ここから知っていけばいい。
それがきっと良い形へと導いてくれると、彼女は信じている。
『ノア』や『オーナー』を、信じている。
「それに失礼や意味不明なことに関しては、今更でしょう」
『……やはり、そうだったのですか? 私には分からなかったので……』
「ふふっ……」
どうやらそちらの自覚も足りなかったらしい。
それが何故だか可笑しくて、彼女は笑う。
しばらくの間雪原には一人の足跡と、どこか楽しそうな声が、続いた。
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『皆様初めまして。私はノアのオーナーです』
『交流を目的としていますが、その前に皆様に伝えるべきことがあります』
『アリーナは、こちらで預かっています』
『声をお聞かせしましょうか?』
「──そうか。スノーデビル小隊、武器を構えろ」
「……オーナー、あなたのそれは少し直した方が良いかもしれませんね。誤解を招き過ぎます」
≪Tips≫
変換記録:
『アリーナという女性がこちらの拠点に居ます』
『通信を繋いで確認しますか?』