『仲間が、アリーナの声かどうか分かる奴を呼びに行っている。その間に交流とやらについて少し話そう』
『……そうですね』
『……歯切れが悪いな。まだ何か、先に話しておくべきことでもあるのか? 先程みたいなことをされても困る。話せるなら話してくれ』
『……こちらのリーダーですが、オーナーの他にノアというものも居ます。ノア、話せますか?』
『 ハジメマシテ ワタシハノア ユウコウテキコウリュウ キボウ 』
『……ノアというのは、そちらの移動拠点の名前だと聞いたが?』
『俄かには信じがたいことですが、ノアは拠点でありながら、確固たる意思を持っています。権限はオーナーと同等です』
『……つまり、私はどちらと話せばいいんだ?』
『会話の中で入れ替わることがあります。このことを事前に覚えておいて頂ければ……』
『どういうことなんだそれは……』
「いやちょっと待ってくれ。何でこのゲーム、ストップ機能が無いんだよ……」
こちらで保護したアリーナのことを伝えたら、急に剣呑な雰囲気になって、シャイニングが弁明と説明をしてくれて、お願いされた救急キットを渡したら、シャイニングが自分の腕を斬り飛ばしてから治した。
そして今は警戒をある程度解いてくれて、篝火の近くで会話を続けている。
情報が、情報が多過ぎる……!
何が引き金で警戒されたの? とか。
シャイニングって剣士なの? とか。
救急キットの効能凄くない? とか。
腕を斬る程の事だったのか? とか。
いろいろ確認したいことはあるんだけれども、それらよりもまず先に。
「俺の入力、内容どうなってるんだ……?」
今までも相手の反応に違和感があることは何度かあったけど、シャイニングの『あなたのそれは少し直した方が良いかもしれませんね。誤解を招き過ぎます』という台詞は、何度もこういうことがあったという証拠なんじゃないか?
確か『適切な言葉に変換し対応します』ってメッセージだったと記憶してるけれど、今更ながら怪しく思えてきた。
「中立だと思ってたナレーションとかゲームシステムが、実は敵だったっていうゲームは珍しくないし……。うーん、このノアって本当に俺の味方なのか?」
今までの内容から、住民達が『プレイヤー』──俺の事を『オーナー』、拠点のことを『ノア』と呼んで、別々の存在として扱っていることは流石に分かる。
でもこれってそもそも、どうやって俺と『ノア』を判別してるんだ?
選択肢も文字入力も音声入力も普通の文章だけどセリフテキストは表示されないし、キャラクター達と違ってこちらの言葉は音声も何も無いから、ゲーム内でどう出力されているのか分からない。
今だって選択肢は『ノアと申します。良き交流となることを願います』って感じで変なところは無かったし、この文章とか俺の入力が決定的な差異を生み出しているとは思えないんだよな……。
結論、とりあえず変換が怪しいと見た。
このゲームのシステムとかノアが、俺から見てどの立場なのかは分からないけど、実験して確かめてみて損は無いだろう。
それでもし、ゲームの進行に支障をきたしそうなら、開発元に抗議の連絡をしてみようじゃないか。
……連絡フォーム、流石にあるよな? 今のとこ見た記憶は無いけど……。
≪ ネームド:『ケオベ』が拠点からの外出を要請しています 許可/不許可 ≫
あー、留守番に飽きたのかな?
ケオベはいつも通りで和むね、ホント。
拠点の方の様子を見に行きたいけど、シャイニング達の会話は止まってくれていないし、これ以上何か起きたら困るから目も離せない。
まぁ外は寒いし、遠くに行ったりはしないだろう。
『許可』をクリックして、今も続いている会話テキストを目で追う。
──って、また俺の入力の出番か! 先に実験の時間をくれよ!
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それは、飲まず食わずで荒野を彷徨い続けた時のような。
それは、身の丈を大きく超える獣と相対した時のような。
それは、深手を負って流れた血が止まらない時のような。
背中に襲い掛かる恐怖、あるいは『死』の感覚。
久しく感じることのなかったそれを、収納によって『ノア』の内部に居たケオベは感じ取り、武器も防寒具も身に着けずに内部の壁に向かって走り出した。
「ノア! 出して!」
その声に呼応するかのように壁には穴が空けられ、ケオベは宙へと飛び出す。
少しの浮遊感の後、雪の上へと着地。
そしてそのまま、自身の警鐘が鳴らす方向へとひた走った。
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『ノア』の感知範囲の外、準備を整えていたその部隊は、目標の方角から向かって来る者を、その視界に捉えていた。
「偵察隊より報告! こちらに接近する人影有り!」
「人数と武装は!」
「1名! 武装は……あ、ありません!」
「無いだと? 民間人か?」
「現時点では判別不能! ですが左足に源石結晶が見えます! 感染者かと!」
「大尉、どう致しますか? ……大尉?」
大尉、と呼ばれた人物は、佇んで動かない。
その視線は人影の方向、そしてその向こうに見える巨大な建造物へと注がれているように見えた。
「……使者の可能性がある。通せ」
感じるのは、懐かしさの残滓。
今にも消えそうで、しかし強烈なその気配は、その男からとある言葉を引き出した。
「…………殿下」