箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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感染者組織③/20日目

 

 

 大柄で重武装をしたサルカズの男──パトリオットと、武器を持たず軽装のペッローの女──ケオベの二人を中心に、少し距離を置いてパトリオットの遊撃隊隊員が取り囲む。

 

 他の人物に目もくれず、ただ一人パトリオットの目の前まで走ってきたケオベは、その背を丸め、膝に手をついて荒々しい息を吐いていた。

 

 彼女が呼吸を整えるまでの間、誰も言葉を発しないまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 そうして、ゆっくりと彼女はその面をあげた。

 

 

「はじめまして! おいらはケオベ! おじさんの名前は何?」

 

「……パトリオットだ」

 

 

 場の雰囲気にそぐわない大きく明るい声と、その言葉の選択に周りの隊員が少しどよめく。

 簡潔に返したパトリオットは、言葉を続けた。

 

 

「状況を鑑みて、君はあの巨大な建造物からの使者という認識でいいか?」

 

「ししゃ……? えっと、よく分からないけど、おいらはあの『ノア』から走ってきたよ」

 

 

 そう言って振り返り指を差す彼女に、パトリオットはその眼光を鋭くする。

 

 

「命令を受けた訳では無いと? ならば何故此処に来た」

 

「どうして、って……あれ? 何でだろ?」

 

「………………」

 

 

 沈黙する相手を他所に、彼女は考える。

 

 彼女の人生は多くの困難に満ちたものだったが、その持ち前の身体能力と勘の良さを駆使して今まで生きてきた。

 経験から学び、無意識に刻み込まれた考え方は二つ。

 

 『危険』は気を付ける。

 『恐怖』からは逃げる。

 

 前者は意識や見方を変えれば対処出来ることを、彼女は知っている。

 後者は体が震え普段の事が出来なくなることを、彼女は知っている。

 

 今回彼女がパトリオット達遊撃隊から感じたのは、『恐怖』だった。

 

 昔なら、『ノア』に来る前なら、そもそも近付こうとすらしなかっただろう。

 では今は、『ノア』に居るから逃げなかったのか? 

 

 ──どうしてここに来てしまったのか? 

 

 戦うのなら、武器も服もちゃんと装備してきたはず。

 ──そうしなかったのは彼女が、たとえ武器があってもどうにもならないと感じ取ったからだ。

 

 戦わずとも、『ノア』や『オーナー』に伝えて対処してもらうことも出来たはず。

 ──それがたとえ他の誰かであっても、上手くいかないという確かな予感が彼女にはあったのだ。

 

 纏まらない考えのまま、彼女の口からは言葉が零れていく。

 

 

「……何にもならなくても、何かをしたかったんだ。逃げたら、もう皆と会えなくなっちゃうから」

 

「ここで今死ねば、会えなくなるのは同じだろう」

 

「違うよ、きっと違う。同じなんかじゃない」

 

「……ではどうする? 君は今、此処で何を成すのだ?」

 

「おいらは──」

 

 

 目の前の『恐怖』にしっかりと目を合わせ、彼女はその頭を深く下げる。

 

 

「──『ノア』の皆に、攻撃しないで欲しい、です。お願いします……」

 

 

 慣れない言葉遣いで、彼女はただ懇願した。

 その言葉に込められた意味は、たった一つの単純なものである。

 

 ──皆の居場所を守らせて欲しい、と。

 

 

「……君のそれは、交渉において悪手だ」

 

「この地で、弱き者に与えられる物は無い」

 

「弱ければ……ただ奪われるのみ」

 

 

 思いを馳せたかのように、その声音には力強さがこもっていた。

 それでもケオベは頭を下げたまま微動だにせず、やがてパトリオットは彼女から視線を外して、周りの隊員の方へと目を向けた。

 

 

「『祭壇』を片付けろ」

 

「……大尉、よろしいのですか?」

 

「この地の者達──少なくとも帝国の手の者では無い可能性が高い。奪うよりも私達に利があるだろう」

 

 

 その言葉に、何名かの隊員が包囲から抜けていく。

 パトリオットは再び、彼女へと向き直る。

 

 

「ケオベ、と言ったな? その正直さに敬意を払い、まずは交渉の席に着くこととしよう」

 

「────っ!? よ、良かったぁ……!」

 

 

 緊張が解けてその場にへたり込んでしまった彼女の表情は、嬉しそうな笑顔に変わっていた。

 

 

 

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「──すまない、アリーナ。私が守ると言ったのに……」

 

『何時の話をしているの、タルラ? 言ったでしょう? 守って欲しくてあなたについてきた訳じゃないわ』

 

 

 無線機を、まるで大切なものを扱うように両手で包みながら、タルラは泣き出しそうな声音で言葉を吐き出す。

 アリーナが本物かどうか、声や質問で確認出来る者が子供達以外ではタルラしかいないと分かり、そういった経緯で連れて来られた彼女は、道中で説明された確認という目的も忘れて、アリーナと話し続けていた。

 

 

(あのタルラが……)

 

 

 周りの者達の胸中が、シャイニングを除いて一致する。

 フロストノヴァを含め、普段の彼女を知る者達から見て、その光景は驚愕に値するものだった。

 

 強く理想を語り、多くの者を導いてきた彼女からは、凡そ想像することが出来ない弱弱しい姿。

 だが多くの者にとってその姿は、失望を覚えるものでは無かった。

 

 

「……タルラも同じなんだな」

 

 

 誰かが、そんな言葉を零した。その言葉には『安堵』の気持ちが含まれている。

 同じ感染者でありながら光のように眩しく、炎のように激しく生きる彼女に、一部の者達は憧れと諦めを抱いていた。

 

 タルラのようになりたいという思いと、タルラは特別な者なんだという思い。

 

 それが今、この光景を目にして揺らいだ。

 彼女も自分と変わらない──守りたいものがある一人の人間なんだ、と。

 

 

 その認識が、その理解が。

 

 

 この組織の行く末を大きく変えることを、まだ誰も知らなかった。

 

 

 

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「上手く収まった……よな? つ、疲れた……!」

 

「こんなに気を遣ってゲームするなんて初めてだぞ……」

 

「──ん? ケオベから要請?」

 

「あー……ゲームの時間が止まってるってことは、こっちも重要イベントが起きてるのか……?」

 

「駄目だ、もう頭が回らない。ここでセーブして今日はもう寝よう」

 

 

 





≪Tips≫

『住民詳細』
ネームド: ケオベ 100%
      モスティマ 40%
      サガ 65%
      フロストリーフ 125%
      シャイニング 80%
      アリーナ 30%


≪ネームド:パトリオットは重要目標である『祭壇』を所持しています≫

≪『ノア』及び『オーナー』に情報の入手と解析を強く推奨します≫

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