『……移動都市なら、心当たりがある』
「え、あるの?」
台詞テキストの応酬を見ながら、『ノア』みたいな拠点がもう一つあったらまるっと解決出来そうなのになー、くらいの軽い気持ちで入力をしてみたところ、思わぬ反応があった。
ゲーム画面ではフロストノヴァが眉間に皺を寄せている。
『廃棄された都市なら私もいくつか知っている。だが相当な年数が経ったものばかりだ。何の役にも立たないだろう』
『いや、フロストノヴァ。君も知っている筈だ。つい二ヶ月ほど前まで動いていた移動都市が一つある』
『……お前と父さん達を囮にした奴らが奪ったアレか?』
『……奪ったんじゃない。私達は分け合った』
『一方的な要求を呑むことは分け合うとは言わない。……いや、話が逸れたな』
どうやらこの場では二人だけが分かっていることのようで、話の輪から外されていた俺とシャイニングに、タルラが説明を加えてくれた。
二ヶ月ほど前、戦いに勝利し、小さいながらも移動都市を手に入れたこと。
だが組織の中で終わらない戦いに辟易した者達が現われ、話し合いの結果移動都市を彼らに譲ったこと。
彼らは逃亡のためにタルラ達の位置情報をウルサス軍に提供したが、それでもおそらく逃亡は失敗しているということ。
つまりその移動都市がまだ残っていれば、使用可能かもしれないということだろうか?
そんな安易な考えは、フロストノヴァに一蹴される。
件の移動都市は耐久年数を遥かに超えて運用されていたため、そもそもボロボロであること。
逃亡の際に交易ルート防衛軍と戦闘になっている可能性が高く、その内容によっては破壊されているということ。
よしんば破壊されていなかったとして、現在の正確な位置も分からず、物資の略奪どころか都市自体が軍に接収されている可能性もあること。
『位置に関してはこの辺りの可能性が高い。ここに無ければもう見当が付かなくなるが……』
『タルラ、何故そう思う? ……この位置は囮にされた時の私達の場所と彼らの逃亡経路との線上だな。勝てないと判明して袂を分かったばかりの私達に助けを求めたとでも言うつもりか?』
『……彼らがその行動を取ったとして、私はそれを恥ずべき行為だとは思わない。感染者達が生きるために選択したことを、私は否定しない』
机の上に広げた地図を指差しながら、二人の言葉は続く。
……何だかタルラって、行動とか言動がバベルのテレジアに似ている気がするんだよな。
特に理想を追い求めているところとかなんて、かなりそっくりだと思う。
『それと、資源は流石に残ってはいないだろうが、移動都市自体は残っている可能性が高い。荒廃した都市を動かすくらいなら、その燃料や資源だけを奪う方が得だからな』
燃料や資源の移送コストを考えたら、動かして都市ごと持ち去った方が良いのでは?
そんな旨の入力をしてみたところ、タルラは首を横に振った。
『……感染者や身分の低い労働者を使い潰した方が安く済むというのが主流だ。死んでもその分だけ食料は少なく済むし、他の者達に歪んだ自尊心を植え付けることも出来る』
格差の様を見せつけることで、そういった行為とか状態を助長しているってことかな?
これまで何度か思ったけど、この世界って治安も悪ければ道徳も無いし、酷過ぎないか?
……俺だったら生きていけないなー。
そんなことを考えていると、フロストノヴァがシャイニングの方──正確にはその膝の上に置かれた無線機の方へと、顔を向けた。
『仮にタルラの希望的観測が叶ったとして、修理はどうする? ……可能なのか?』
画面には台詞の選択肢……って、『状態を見なければ分からない』だけ?
状態によっては可能ってことだろうけど、今までは大抵大丈夫なことの方が多かったから、意外だ。
あと最近多いけど、台詞の選択肢が一択なのは何でだろう?
悩まなくて済むし、『ノア』がどんな発言をしたのかが分かるから別に良いんだけど、それなら自動で処理してテキストだけ表示してくれてもいいんだけどな。
クリックすると、タルラも無線機へと顔を向けてくる。
『頼ってばかりで本当に申し訳ない。可能性は低いが、リスクも少ないし賭ける価値はあるだろう。明日から移動を頼む』
修理っていうと、『ノア』が傷付くことが殆ど無かったから使用未経験だけど、生成可能装置一覧にある『緊急修理車両』が使えるかもしれないよな。
あとで必要資源と効果とかを確認しておこう。
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数日後、タルラとフロストノヴァ、そして『ノア』の住民と感染者組織の戦士達は、驚愕の光景を目にしていた。
いくつかの希望的観測がその通りとなり、無事発見した移動都市の下部では、『ノア』が生み出した何台かの『緊急修理車両』が活動している。
車両から伸びたロボットアームのような部分が、移動都市に触れる。
そして触れていないはずのその近辺で、穴や傷がじわじわと塞がっていく。
折れた部品や剝き出しのケーブルが、ゆっくりと巻き戻すかのように元の位置へと戻っていく。
『修理』とは言い難く、『再生』と呼ぶ方が相応しい光景が生まれていた。
『 カンゼンシュウフクハ シゲン フソク イドウノウリョクヲ ユウセン 』
信じられない出来事に固まる人々を無視し、『ノア』の無機質な音声は、ただただ事実を告げるだけだった。
≪Tips≫
『緊急修理車両』
≪壊れた建築物を自動で修理してくれる修理車両。仕事が終われば自動で撤退するので、車両の心配は無用。修理資材は『ノア』の資源から自動で補充されるため、設定した仕事が完了するまで、24時間365日を休まず活動が可能。修理の際、素材の混合を避けるために資源として先に取り込み、素材を置き換えて修理を行う機能がある≫