「修復率が95%から動かないな……」
ゲームを開始して早数十分。
修復中の移動都市をクリックすると進捗率が表示されるのだが、その数値が少し前から変わらなくなっていた。
『ノア』の資源は減っているので、何らかの修復は行われている筈なのだが、それが見える形で示されてくれないのは少し不安になる。
進捗率の下には『動力部を生成中』というテキストが書かれていたので、もしかしたら大事な部分だから時間がかかっているということなのかもしれない。
「こういうのって、完了予定時間とかが表示されると思うんだけど……やっぱり無いか」
ここ数日で判明した、『修復作業中にノアが一定距離以上を離れると作業が止まる』ということと『設定した作業が完了するまで緊急修理車両を戻すことが出来ない』ということのせいで、出来ることに大幅な制限が付いてしまっている。
前者は『ノア』からの資源供給には距離の制限があるということなのだろうし、仕様として理解は出来るのだが、後者に関しては一種のトラップだと思われる。
修復開始の際に必要資源量を見て、全体は無理だと判断して移動系統のみに範囲を設定したのだが、もしこの際に全体を選んでいたら今頃どうなっていたか。
少なくとも100日以上はここに留まることになっただろうし、完了させるための資源回収も並行しなければならないとすれば、その2倍以上の時間がかかってもおかしくはない。
「資源はまだ余裕がある、と」
資源回収のための移動が出来ないせいで、ここ最近は元々蓄えていた『ノア』の資源を使用した修復が行われている。
感染者組織──数日前に『これからはレユニオン・ムーブメントを名乗る』とタルラが言っていた──の皆も周囲から資源を運んできてくれるが、移送の時間やコストのせいで全然間に合っておらず、今ではその時間を移動都市の居住環境の整備に充てて貰っていた。
そのおかげか最低限の居住環境は整っており、すぐにでも住むことが出来る。
……『最低限』なので大部分に倒壊した建物や瓦礫が散乱しており外観に目を瞑ることにはなるが、それらは追々解決していくことだろう。その辺りはレユニオン自身に頑張ってもらおうじゃないか。
「よし、それじゃ時間潰しに皆に話しかけでもしようかなー」
会話イベントは時折発生するけど、特殊イベントどころか襲撃イベントすら最近は発生していない。
予測していた地点より大分手前であるとはいえ、ウルサス軍の交易ルートが近くにあるとのことなのだから、何かしらのいざこざが起きると思っていたんだけど……俺の予想は外れたみたいだ。
まあ、平和で順調に物事が進むのは良いことだ。運が良かったと思うことにしよう。
さて、気を取り直して誰に……って、アリーナが居る。駐屯地からこっちに来てたのか。
『タルラの理解者が現れてくれて良かった。私が居なくなっても安心ね』
凄い不穏なこと言うじゃないか……。
あと理解者って誰だ? 駐屯地に居た時間が長いし、シャイニングとかかな?
タルラも会話の中でアリーナの事をよく話題に出してたし、急に居なくなったら凄い悲しむと思うけど……。
とりあえずタルラにはアリーナが必要ってことと、何か不安があれば相談に乗るっていう感じで返しておこう。
『……ありがとう。その時は頼りにさせて貰うわ』
よしよし、反応を見る限り変換も問題なさそうだ。
次は……。
『オーナー、頼みがある。配布されている薬に上質なものがあると聞いた。大尉の分を貰えないだろうか?』
『俺達からもお願いだ。姐さんに効果があるかもしれない。融通して欲しい』
パトリオットの遊撃隊の隊員と、フロストノヴァのスノーデビル小隊の隊員だ。
複数人で集まってるから何をしてるのか気になってクリックしてみたのだが、こちらへの要望を話し合っていたらしい。
その代わりに出来ることなら何でもする、とか皆が言ってるけど、襲撃とかも無いから特に頼み事は無いんだよなぁ……。
何かのイベントに繋がりそうだし、二人分だけなら資源的にも問題無いだろう。今回だけは対価とかは無しでいいや。今回だけだけど。
えーと、既に鉱石病に罹っているから予防薬じゃなくて救急キットの方かな? いやでも予防薬でも効果があるかもしれないし……二つとも渡してみるか。
『……本当に何もしなくていいのか?』
『雑用でも何でも喜んでやるが……』
そりゃまあ疑うよね。
それらしい理由…………駄目だ、良いのが思い付かない。
『……オーナー?』
『どうやら、もう居ないみたいだな……』
苦し紛れに空白のまま完了を押してみたところ、返答が無い、と判断されたらしい。
新しい発見だ。選択肢は選ばないと次に進まなかったけど、入力の方は無言で返すことも出来るようだ。
……無言で返すのが良い場面ってあるのか? 新しい発見ではあるけれども、活用する機会はあんまり無さそうだ。
『……オーナー、何故私達にここまで支援をしてくれるんだ? 私達が恩を返す保証も無いというのに……』
ほぼ毎日会話イベントが発生しているタルラにも話しかけておく。
話を聞けば、どうやら『ノア』自体の資源も使用していることに気が付いているらしい。身を切ってまで助ける理由が知りたいとのこと。
タルラの問いは今更な感じもするけど……どう答えようかな。
修復も終盤だし、いわゆる乗りかかった船だから、ここで止めるのは勿体無い気がするってだけなんだけど……。
ここまでやったのだから何かしらの成果が欲しい、っていう意味を加えて……。
『………………』
あれ? 背中を向けられた?
怒ってるとかでは無さそうだけど……。
『ありがとう、オーナー。そう言って貰えて……嬉しいよ』
背を向けたままだけど、タルラの言葉はそう続いた。
返答に若干の違和感があるけど、感謝されているみたいだし、変換もそうおかしなものにはなっていないということだろう。
問題は無さそうだ。良し。
……そろそろ夜時間になる。話しかけるのもあと一人が限界か。
最後に誰に話しかけるか悩んでいると、画面の端に『ノア』の住民達が働いているのが見えた。
そうだ! 夜になるギリギリまで働いている『ノア』の住民達に、たまには直接労いの言葉でもかけてみようか。今日も一日お疲れ様、って感じで。
なるべく多く集まっているところをクリックして……。
『──作業中止! オーナー様の御言葉だ!』
「ひぇっ」
画面の住人達が一斉に顔を向けてくるのは軽いホラーだって!
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――――――――
『アリーナ、タルラのことを支えてあげて下さい。そして貴女の事は私が支えましょう』
『ここまで頑張ってきた。だからこそ報われて欲しいと、そう思っているだけです』
『お仕事お疲れ様です。皆さんが居てくれて、本当に助かっています。いつもありがとうございます』
≪Tips≫
『詳細』
ネームド: ケオベ 115%
モスティマ 55%
サガ 85%
フロストリーフ 140%
シャイニング 95%
アリーナ 75%
フロストノヴァ 40%
パトリオット 35%
タルラ 125%
『ネームド:パトリオット が会話を希望しています』