箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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レユニオン②/30日目

 

 

「────よし、今日はこの辺りで……あれ?」

 

 

 会話イベントもこなしたし、時刻も大分遅くなったからもう寝よう。

 そう思った矢先、ゲーム画面に表示されたのは珍しい名前だった。

 

 

 ≪ネームド:パトリオットが貴方を呼んでいます≫

 

 ≪応えますか?≫

 

 

 少し迷ったが、気になったまま明日ゲームをするまで過ごす方が精神的に良くないと判断し、≪はい≫のボタンをクリックする。

 視点が移動を始め、見慣れたテント内の画面へと切り替わった。

 

 ランプの灯りが満ちたその空間で、机に置かれた無線機を、パトリオットはジッと見つめている。

 

 

『……来たようだな』

 

 

 まだ何も話しかけていないはずなんだけど……。

 

 レユニオンの人達と過ごして分かったことだが、このパトリオットというネームドは、どうやら俺が今まで会ってきたネームドの中でも別格に強いらしい。

 戦闘する場面を実際に見たことは無いのだが、レユニオンの人達からの評価はもちろん、こちらのネームドからも『こちらが複数でも戦ったら勝てない』とまで言われている。

 

 リーダーであるタルラも『私より強い』、こういうのに鼻が利くケオベも『オーナーを連れて逃げる!』と言っていたので、まず間違いない事実だろう。

 

 そんな強さの持ち主だからこそ、俺の気配にも気付いたのかもしれない。

 ……まぁゲームの仕様とか演出の可能性もあるけどさ。

 

 

『……………………』

 

 

 『何か用事でしょうか?』と入力してみたのだが、反応が返ってこない。

 何となくだけど、どう言葉にしたら良いのか迷っているようにも見受けられた。

 

 無言を表すかのようなテキストが何回か続いた後、ようやくパトリオットは言葉を発した。

 

 

『……オーナー、まずは貴方に感謝を』

 

『タルラの理想が、理想に留まらず現実味を帯び始めたのは、貴方達の助力のおかげに他ならない』

 

『これは私達では今までも、そしてこれからも恐らく成し遂げられなかったことだ』

 

 

 そう言って深く頭を下げるパトリオット。

 入力画面が出て来たので、少し考えてから『あなたとその仲間達、周りの人々が彼女を支えて来なければ、こちらと出会うこともきっと無かったでしょう。だから、あなた達のおかげでもあると私は思います』と返す。

 

 この内容なら悪い受け取り方もされないだろう。

 こちらだけの功績にせず、相手も立てる。社会人の必須スキルだ。

 

 顔を上げたパトリオットは「そうか」とだけ、返してくれた。

 でも雰囲気は少しだけ和らいだ気がする。

 

 ……変換、大丈夫だよな? 不安になってきたぞ。

 

 

『……伝えるべきことが二つある』

 

『その前に確認だが……殿下、テレジア殿下を知っているな?』

 

 

「……ここでその名前が出てくるの?」

 

 

 驚きながらも台詞の続きを聞いてみれば、遥か昔に仕えていたことがあるらしく、『ノア』を初めて目にした時も、彼女の微かな気配を感じ取ったとのこと。

 数日居ただけだし、その後も何十日と経っていたはずなのに、何で分かるんだろう? 

 

 

『殿下はサルカズの女王、特別な御方だ』

 

 

 地名や国名じゃなくて、サルカズっていうのは種族名だったはず。

 ……ということは一つの種の王? そんな凄い人と交流してたってこと? 

 

 いや、話し方とか所作とか、高貴な身分なんだろうなーとは思っていたけど、予想以上に凄い人だった。初めての交流先のトップが王とか、想像出来ないって。

 

 でもそんな驚きも、続く言葉に飲み込まれることになった。

 

 

『……このことを伝えるべきかは迷ったが、ノアから感じられる殿下の気配は自然に残されたものではない』

 

『殿下の意志によって意図的に、あるいは殿下ですら無意識に強い興味を示したが故のものと思われる』

 

『……だからこそ、この事実を貴方は知るべきだ』

 

『──つい先日、殿下は命を落とされた』

 

 

「えっ……」

 

 

 これは全くの予想外の出来事だったのだが、思った以上に俺はショックを受けた。

 

 ゲーム内でたった数日、時間にすればたった数時間。

 

 確かに、彼女は自国で戦いがあるとは言っていた。

 初めての交流先ということもあり、強く印象に残っていたということもあるだろうけど、それでも……。

 

 

「……このゲーム、ネームドにも容赦無いんだな」

 

 

 鉱石病で住民だって亡くなった。

 ネームドも例外では無いということなんだろう。

 

 

 情報として見聞きした訳では無く、その瞬間──『サルカズの女王の死』を感じ取ったということ。

 こちらのサルカズ──シャイニングも、その際にパトリオットの近くに偶然居て、僅かに感じ取っていたようだということ。

 

 パトリオットはそう判断するに至った経緯や根拠を、丁寧に説明してくれた。

 

 多分半分くらいは、ちゃんと耳に入って来なかったと思う。

 それくらい俺は、彼女の……テレジアの死に驚いていた。

 

 

『……私個人の意見を言わせてもらう』

 

『殿下の理想が私が仕えていた頃のままであるならば……オーナー、貴方は殿下にとっての希望に足り得る』

 

『そのことを背負う必要は無い。だが、覚えていて欲しい』

 

『殿下に限らず、貴方に希望を見出し、その背に願いを託す者達が居るということを』

 

 

「ゲームなのに重いって……」

 

 

 一体俺にどうしろと言うのか? 

 このゲームを延々と続けていろんな人達を助け続けろとでも? 

 

 今は楽しんでやれてるからいいけど、いつか絶対飽きるって。

 

 ゲームってそういうもんなんだから。

 

 

「駄目だ。思考がネガティブになってる」

 

 

 いつもなら「はいはい、そういう設定ね」と流しているはずなのに、どうにも気になって仕方が無い。

 大抵こういうのはゲームのやり過ぎと、のめり込み過ぎ、そして睡眠不足が相場だと決まっている。

 

 この会話イベントが終わったらすぐに寝てしまおう。

 眠って明日になれば、この胸の内のモヤモヤとした感情も無くなっている筈だから。

 

 

『そしてもう一つの伝えるべきことだが……』

 

『修復中の移動都市を中心に、帝国の近衛兵が周囲に配置されているのを確認した』

 

『……皇帝の利刃と呼ばれる精鋭が、我々を監視している』

 

 

 ……人の命を気にしてる場合じゃないってことね。

 その話、明日にしてもらいたいな。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

 どちらが上か下かも分からない真っ白な空間で、彼女──タルラは目を覚ました。

 周囲を見渡しても端は見えず、白い景色だけが続いている。

 

 

「……夢だな」

 

 

 そして彼女は断言した。

 いつの間にかその手に握られていた剣を、その切っ先を、正面へと向ける。

 

 白い空間に『黒』があった。

 

 その『黒』は、剣の先で形を作る。

 

 

「消えろ」

 

「随分な挨拶だな、タルラ?」

 

 

 厳かな白い衣服に身を包んだフィディアの男性──コシチェイが、突き付けられた刃に怯むことなく微笑む。

 

 

「少々面倒な状況になっているようだ。今のお前には荷が重い。少し手助けしてあげよう」

 

 

 

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