箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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撤退作戦/40日目

 

 

『感謝の言葉だけでは到底足りはしない。いつかまた貴方達と相まみえたなら、その時に改めて礼をさせて欲しい』

 

『オーナーもノアの皆さんも、本当にありがとうございました。私を、私達を助けてくれたこと、絶対に忘れません……』

 

『……兄弟姉妹が世話になったな。借りを作ったままでいるのは苦手だ。いつか必ず返そう』

 

『…………お互い生きていれば、また会おう』

 

 

 無線機越しに、レユニオンの人々の感謝の声が響く。

 その中にはタルラやアリーナ、フロストノヴァやパトリオットの声もあり、声音には一抹の寂しさのようなものも滲んでいるようだった。

 

 駐屯地の手前で、『レユニオン』と『ノア』はその歩みを別にした。

 

 『レユニオン』は駐屯地がある森の手前で停止し、移動都市から出て来た人々が森の奥へと歩いて行く。

 駐屯地に残していた物資や残りの人員を回収しに来たのだろう。周辺警戒も怠っていないのか、都市の周りには遊撃隊やスノーデビル小隊の隊員達が配置されていく。

 

 『ノア』はその動きを止めることなく、幾人かの『レユニオン』の人々に手を振られながら、南東へと移動し続ける。

 上部の建築物等は既に内部へと収納されており、住民達の様子を窺うことは出来そうにない。脚部の足跡だけが、一定間隔で雪原へと刻まれていく。

 

 

「……総員、意見を述べよ」

 

 

 遥か遠くからその光景を見つめていた黒装束──皇帝の利刃が、手に持った無線機へと語りかける。

 

 

『傍受した通信内容とこの状況から、ノアの離脱は疑いようがない。救援不可となる距離まで離れたら仕掛けるべきだ』

 

『離脱の時期が我々の想定より早い。想定外の事態に備えてレユニオン側の監視も必要だろう』

 

『……我々の存在に気付いている可能性もある。そうだとすれば罠に誘っているようにも見える』

 

 

 無線機から返ってきた三種類の声を聞いて、問い掛けた皇帝の利刃は、その仰々しいマスクの隙間から不気味な呼吸音を漏らす。

 少しの時間が経った後、彼は再び無線機の電源を入れた。

 

 

「こちらに気付いていたとして、『ノア』に接触しなければならない使命に変わりはない」

 

「『レユニオン』とやらが何を画策していようが、『ノア』を確保すれば無に帰すだろう」

 

「……救援にボジョカスティが来られては面倒だ。通信が不可能な状態になってから『ノア』に仕掛ける」

 

「異論は?」

 

 

 無線機からの返事は無い。

 彼はそれを肯定と受け取った。

 

 

「その瞬間を知る必要がある。7、ここに残って『レユニオン』の監視と報告を」

 

「私が『ノア』より先行する。5、8は『ノア』の後ろに付け。気付かれないよう距離を空けろ」

 

 

 名前の代わりに割り振られた数字を用いて、各々へと指示を飛ばす。

 『了解』という返事を聞いた男は、無線機を一度しまい込み、周辺の地図を取り出した。

 

 

(……この近辺に有力な資源の採取地は無い)

 

(『ノア』がこの速度のまま、そして方向も変えないとすれば、丸一日ほどで辿り着く採取地は有るが……)

 

 

 地図を畳み、皇帝の利刃は『ノア』の進路の先へと向かって駆け出した。

 常人離れした身体能力を用いたその速さは、人間の限界を優に超えている。

 対象と一定の距離を保つために大回りであっても、それほどの時間をかけずに所定の位置へと到達するだろう。

 

 

(さて『ノア』よ。お前はどう出る?)

 

 

 

 

 

 ────────

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「──私達を監視しているウルサス帝国皇帝の近衛、『皇帝の利刃』についてだが……撃破することは不可能だ」

 

「ほう? 随分と弱気じゃないか、タルラ」

 

 

 時を少し遡り、パトリオットから監視者がいることを伝えられたその後日。

 

 テントには『レユニオン』の面々に加え、『オーナー』とシャイニングが集まっていた。

 

 紆余曲折はあったものの現状と今後の説明等も終わり、具体的にどうするのかを検討する段階に入った際、タルラはそう切り出し、フロストノヴァは不愉快そうに目を細めた。

 

 

「仲間の力を疑っている訳じゃない。彼等を倒せば更にその人数を増やされる可能性が高い、という話だ。四人でも手一杯なのに、二倍三倍と増やされたらどうにもならない」

 

 

 現皇帝の身辺には仲間だけでなく敵も多い。派手な動きをすればその対応に追われることも想像に難くないが、『ノア』を手中に収められるならばお釣りが来る、とタルラは推測した。

 現状、皇帝の利刃達がどこまでの情報を掴み、どこまでを報告しているかは不明だが、最悪を想定しておいて損は無いだろう、という考えからだ。

 

 

「それと、無条件の対話も不可能と思ってもらって構わない。彼等からすれば私達は対等ではない存在だからな。その前提の上で話をするために私達は、四人を一人も逃さずに制圧する必要がある」

 

「……戦力を分散すれば、私はともかく他は難しいだろう」

 

「その通りだと思います、ミスター。だからこそ策を用いて誘導します」

 

 

 中心に設置された机の上に、駐屯地周辺の地図と、テラの地図が広げられる。

 

 

「オーナー、駐屯地からこの辺りまで、最速で何日かかる?」

 

『 昼夜問ワズ移動シテ 三日 』

 

 

 タルラが指を差したのは、『ノア』が初めてウルサスに足を踏み入れた場所よりも西、リターニアと呼ばれる国により近い場所だった。

 以前に比べて大分流暢となった『ノア』の答えに、タルラは小さく頷いた。

 

 

「よし、それなら移動時の速度は七割程度に抑えて欲しい。大体丸一日をかければこの採掘場跡に着くはずだ。それから──」

 

 

 その後もタルラが作戦を組み立て、周りの仲間の意見を取り入れて修正を加えていく。

 

 そして夜も更け十分に煮詰まった頃、タルラは再度確認をするように、その場を締めた。

 

 

 

「私達の目標は二つ」

 

「『ノアを無事にウルサスから離脱させること』」

 

「『皇帝の利刃を通してウルサス帝国の現皇帝フョードルと取引をすること』」

 

「……全員、健闘を祈る」

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「『タルラの作戦通りに行動しますか?』……イエス、と」

 

「オート機能があって良かった。間違えたりすると怖いし……」

 

「あと戦闘もあるだろうけど『皇帝の利刃』ってどれくらい強いんだ……?」

 

「んー……資源が痛いけど、この料理五人分作っておくか!」

 

 





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