『感謝の言葉だけでは到底足りはしない。いつかまた貴方達と相まみえたなら、その時に改めて礼をさせて欲しい』
『オーナーもノアの皆さんも、本当にありがとうございました。私を、私達を助けてくれたこと、絶対に忘れません……』
『……兄弟姉妹が世話になったな。借りを作ったままでいるのは苦手だ。いつか必ず返そう』
『…………お互い生きていれば、また会おう』
無線機越しに、レユニオンの人々の感謝の声が響く。
その中にはタルラやアリーナ、フロストノヴァやパトリオットの声もあり、声音には一抹の寂しさのようなものも滲んでいるようだった。
駐屯地の手前で、『レユニオン』と『ノア』はその歩みを別にした。
『レユニオン』は駐屯地がある森の手前で停止し、移動都市から出て来た人々が森の奥へと歩いて行く。
駐屯地に残していた物資や残りの人員を回収しに来たのだろう。周辺警戒も怠っていないのか、都市の周りには遊撃隊やスノーデビル小隊の隊員達が配置されていく。
『ノア』はその動きを止めることなく、幾人かの『レユニオン』の人々に手を振られながら、南東へと移動し続ける。
上部の建築物等は既に内部へと収納されており、住民達の様子を窺うことは出来そうにない。脚部の足跡だけが、一定間隔で雪原へと刻まれていく。
「……総員、意見を述べよ」
遥か遠くからその光景を見つめていた黒装束──皇帝の利刃が、手に持った無線機へと語りかける。
『傍受した通信内容とこの状況から、ノアの離脱は疑いようがない。救援不可となる距離まで離れたら仕掛けるべきだ』
『離脱の時期が我々の想定より早い。想定外の事態に備えてレユニオン側の監視も必要だろう』
『……我々の存在に気付いている可能性もある。そうだとすれば罠に誘っているようにも見える』
無線機から返ってきた三種類の声を聞いて、問い掛けた皇帝の利刃は、その仰々しいマスクの隙間から不気味な呼吸音を漏らす。
少しの時間が経った後、彼は再び無線機の電源を入れた。
「こちらに気付いていたとして、『ノア』に接触しなければならない使命に変わりはない」
「『レユニオン』とやらが何を画策していようが、『ノア』を確保すれば無に帰すだろう」
「……救援にボジョカスティが来られては面倒だ。通信が不可能な状態になってから『ノア』に仕掛ける」
「異論は?」
無線機からの返事は無い。
彼はそれを肯定と受け取った。
「その瞬間を知る必要がある。7、ここに残って『レユニオン』の監視と報告を」
「私が『ノア』より先行する。5、8は『ノア』の後ろに付け。気付かれないよう距離を空けろ」
名前の代わりに割り振られた数字を用いて、各々へと指示を飛ばす。
『了解』という返事を聞いた男は、無線機を一度しまい込み、周辺の地図を取り出した。
(……この近辺に有力な資源の採取地は無い)
(『ノア』がこの速度のまま、そして方向も変えないとすれば、丸一日ほどで辿り着く採取地は有るが……)
地図を畳み、皇帝の利刃は『ノア』の進路の先へと向かって駆け出した。
常人離れした身体能力を用いたその速さは、人間の限界を優に超えている。
対象と一定の距離を保つために大回りであっても、それほどの時間をかけずに所定の位置へと到達するだろう。
(さて『ノア』よ。お前はどう出る?)
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「──私達を監視しているウルサス帝国皇帝の近衛、『皇帝の利刃』についてだが……撃破することは不可能だ」
「ほう? 随分と弱気じゃないか、タルラ」
時を少し遡り、パトリオットから監視者がいることを伝えられたその後日。
テントには『レユニオン』の面々に加え、『オーナー』とシャイニングが集まっていた。
紆余曲折はあったものの現状と今後の説明等も終わり、具体的にどうするのかを検討する段階に入った際、タルラはそう切り出し、フロストノヴァは不愉快そうに目を細めた。
「仲間の力を疑っている訳じゃない。彼等を倒せば更にその人数を増やされる可能性が高い、という話だ。四人でも手一杯なのに、二倍三倍と増やされたらどうにもならない」
現皇帝の身辺には仲間だけでなく敵も多い。派手な動きをすればその対応に追われることも想像に難くないが、『ノア』を手中に収められるならばお釣りが来る、とタルラは推測した。
現状、皇帝の利刃達がどこまでの情報を掴み、どこまでを報告しているかは不明だが、最悪を想定しておいて損は無いだろう、という考えからだ。
「それと、無条件の対話も不可能と思ってもらって構わない。彼等からすれば私達は対等ではない存在だからな。その前提の上で話をするために私達は、四人を一人も逃さずに制圧する必要がある」
「……戦力を分散すれば、私はともかく他は難しいだろう」
「その通りだと思います、ミスター。だからこそ策を用いて誘導します」
中心に設置された机の上に、駐屯地周辺の地図と、テラの地図が広げられる。
「オーナー、駐屯地からこの辺りまで、最速で何日かかる?」
『 昼夜問ワズ移動シテ 三日 』
タルラが指を差したのは、『ノア』が初めてウルサスに足を踏み入れた場所よりも西、リターニアと呼ばれる国により近い場所だった。
以前に比べて大分流暢となった『ノア』の答えに、タルラは小さく頷いた。
「よし、それなら移動時の速度は七割程度に抑えて欲しい。大体丸一日をかければこの採掘場跡に着くはずだ。それから──」
その後もタルラが作戦を組み立て、周りの仲間の意見を取り入れて修正を加えていく。
そして夜も更け十分に煮詰まった頃、タルラは再度確認をするように、その場を締めた。
「私達の目標は二つ」
「『ノアを無事にウルサスから離脱させること』」
「『皇帝の利刃を通してウルサス帝国の現皇帝フョードルと取引をすること』」
「……全員、健闘を祈る」
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「『タルラの作戦通りに行動しますか?』……イエス、と」
「オート機能があって良かった。間違えたりすると怖いし……」
「あと戦闘もあるだろうけど『皇帝の利刃』ってどれくらい強いんだ……?」
「んー……資源が痛いけど、この料理五人分作っておくか!」
≪Tips≫
『極東風ナノテク割烹料理』
≪食すことで一時的な能力向上を得る。複数の料理を食した場合、最後の効果だけが反映される。味を気にしてはいけない≫
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