箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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包囲作戦/40日目

 

 

「──では拙僧が前、フロストリーフ殿は後ろを頼むでござる」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。私の得物は速い打ち合いには向かないからな……」

 

 

 『ノア』の内部。

 中心に設置されている祠の前にて、ネームド達は間近に迫った戦闘に対する最終確認を行っていた。

 

 表情には少しの緊張が見え、その声音にも同じものが含まれている。

 

 

「おいらは周りから援護するねー」

 

「……治療はお任せ下さい」

 

 

 それぞれが役割を確認する中、ふと何かに気付いたかのように、フロストリーフは祠に向かって声を掛けた。

 

 

「最初の呼び掛けと最後の交渉は誰がするんだ?」

 

『 私ガ行イマス 問題ハ アリマスカ? 』

 

「「「………………」」」

 

 

 ケオベを除いた三名が、何とも言えないような表情でお互いを見合わせる。

 意味がよく分かっていないのか、ケオベはきょとんとしながらも武器の手入れを続けた。

 

 

「どう思うでござる?」

 

「まあ、組織のトップが話すのは当然だが……」

 

「……少し不安が残ります」

 

「もしもの時は……シャイニング殿?」

 

「アンタが頼りだ。助けてやってくれ」

 

「はい、承りました」

 

 

 奇しくも、三人の思考は一致した。

 『オーナーよりは少しだけ安心出来る』と。

 

 

『私は信用されていないのでしょうか?』

 

「んー? みんなオーナーのこと信用してるよー? 大好きだよー?」

 

 

 ケオベの無邪気な声が響く。

 それに対する反応が返って来ることは、無かった。

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

『……異常ナ……監……続行……』

 

 

 無線機から聞こえる途切れ途切れの言葉が、耳に届く。

 『ノア』の進行方向から予測し、採掘場跡に先回りした皇帝の利刃──3という数字を割り振られた男は、疑念を強めた。

 

 

(無線が届き辛い場所に採掘場跡があるのは偶然か?)

 

(……いや、こちらがこの状態ならば、『ノア』と『レユニオン』の通信状況はより悪いはず)

 

 

 ウルサス正規軍で使用されている無線通信機と、皇帝の利刃が使用している無線通信機とでは、当然のごとく性能が違う。

 また正規軍側の通信内容の把握のため、皇帝の利刃側には傍受が出来るよう特殊な細工も施されている。

 

 

(5と8からの追加連絡も無い)

 

 

 『ノア』と『レユニオン』が通信した際には連絡をするよう決めていたが、その連絡が一向に来ないことも、彼の疑念を強める一因となっていた。

 かと言って、彼が何かを考えたところで、その答え合わせをしてくれる者も居ない。

 

 『ノア』がこの採掘場跡に到着するまで、あと数時間。

 その間、手持無沙汰な彼は思考を巡らせ続ける。

 

 

 そしてその数時間後。

 

 『ノア』は彼の予測通りに採掘場跡に姿を見せ、停止する素振りは見せなかった。

 

 

「──総員に通達。『ノア』へ乗り込む」

 

「5、8は私に続け」

 

「7は監視を続行……いや、自己判断で離脱も構わない」

 

『『『了解』』』

 

 

 採掘場跡に踏み入った途端、明らかに速度を上げた『ノア』に対し、彼等は動き出した。

 

 

 

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 ────────

 

 

 

「了解」

 

 

 無線機に対してそう返した皇帝の利刃──7と呼ばれている男は、その時になってようやく周囲の状況に気付くこととなった。

 

 

(まだ遠いが……後方に配置されているな)

 

 

 自身が監視していた『レユニオン』に対して真逆の方向から、微かに感じる気配。

 それがおそらく『レユニオン』の兵士であることを、彼は推測した。

 

 

(丸一日をかけて駐屯地の裏側から回り込ませた。……急に気配を感じるようになったのは意図的なものか?)

 

 

 『ノア』の状況に連動したかのような都合の良いタイミング。

 彼が疑うには十分な理由だった。

 

 

(……こちらに接近する前に気配を漏らす理由は何だ?)

 

(この距離で感じることが出来るとすれば、有象無象の一人でも無いだろう)

 

 

 監視する先で、タルラの姿は数時間前にも確認が出来ている。

 そうなれば考えられるのはフロストノヴァか、あるいはボジョカスティか……。

 

 一方は何とかなるが、もう一方は荷が重すぎる。

 

 

(……『レユニオン』に接近し、タルラに接触する。思惑を突き止めた後、離脱する)

 

 

 挟み撃ちにされる前の行動。そして確定していない後方の相手よりも、対処が容易だという理由。

 自身の戦闘能力を過信する訳ではないが、『ノア』側を対処している三名と違って、『全力を出すことが出来る』という点も、彼の考えを後押しする。

 

 現在の状況と自身の使命を鑑みて、彼はそう結論を出した。

 

 

「──コシチェイの器として相応しいかも見てやろう」

 

 

 降りかかる雪が、黒いコートに落ちては泥のようなものに変わり果てて滑り落ちていく。

 

 彼が身に着けた装備の隙間からは、黒い瘴気のようなものが噴き出し始めていた。

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

(……敵影は無し)

 

 

 常人を逸した跳躍力で『ノア』へと飛び乗った皇帝の利刃は、辺りを見回して、何も無いことを確認した。

 

 警戒を解かないまま歩みを進め、普段であれば祠が存在している、ノア上部の中心へと移動する。

 

 

「私に気付いていない筈も無い。何が目的だ?」

 

『 初メマシテ 悪魔ヲ宿ス者ヨ 歓迎シマス 』

 

 

 どこから音声を発したのかも分からないのに、耳にはしっかりと届いてくる『ノア』の言葉。

 だが皇帝の利刃が驚いたのは、そこではなかった。

 

 

(──何故、我々の力の正体を知っている)

 

 

 ウルサスにおいて秘されている力──儀式によって得た悪魔の力。その正体を知る者は限られている。

 

 それを、何故『ノア』が? 

 

 武器に手を掛け、彼は警戒心を更に強めた。

 

 

「……歓迎? 可笑しなことを言うものだ。ここはウルサスの国土であり、その上に存在するものも例外ではない。我が物のように振る舞うのは止めて頂こう」

 

『 ソレハ違イマス 貴方達ノモノデハアリマセン 』

 

 

『 コノ地ニ コノ海ニ コノ空ニ 』

 

『 アマネク全テガ ≪テラ≫ノモノデス 』

 

 

「…………ッ!」

 

 

 機械音声のその言葉には、唯一不変の事実であるという、『自信』が含まれていた。

 言葉に嘘偽りは無く、それが当然であるという『自信』が。

 

 

「──停止を要求する。ここはウルサスで、貴様等は侵入者である。弁明があるならばその後で聞こう。まずはこちらの指揮下に入れ」

 

『 目的ノタメ 拒否シマス 』

 

「……今一度問う。目的は何だ?」

 

『 救済 ソノタメニ対話ヲ要求シマス 』

 

 

 その言葉に、彼は武器を抜いた。

 

 瞬く間に、彼を取り囲むように建造物が生成されていく。

 

 

「断る。我々はウルサスにのみ従う」

 

 

 言葉と共に放たれた斬撃が、建造物を破壊し、辺りに破片を撒き散らす。

 

 それが開戦の合図となった。

 

 

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