箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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奇襲作戦①/40日目

 

 

「──参るっ!」

 

 

 まばらに設置された建造物──『堅牢な台』の陰から、気迫と共に現れたサガが、皇帝の利刃へとその薙刀を向ける。

 下段から流れるように喉元へと迫る刃を躱し、切り返しすらも最小の動作で避けた男は、その手に持った剣を横に振るった。

 

 その剣に、その身を貫かんと迫っていたケオベの武器達が弾かれる。

 甲高い音と共に槍や剣、斧や工具らしきものまでもが吹き飛び、地面に触れる前にその姿を消していった。

 

 

「まだまだぁっ!」

 

 

 『堅牢な台』によって生まれた高所から、ケオベの投擲は続く。

 その背を埋める武器の数々が、投擲により減る度に補充されていく光景を、サガとケオベの両名の攻撃をいなしながらも視界に収めた男は、冷静にその分析を開始した。

 

 

(極東の薙刀術とは……忌々しい。速度に技の精密さ、目を見張るものはあるが膂力はそれほどでもない)

 

(高台のペッロー、このアーツは何だ? 武器に炎や冷気が纏わり付いていて、見た目と弾いた感触も違う。受けるのは得策ではないな)

 

(そしてノア……。一瞬の間での建造物の生成。あのペッローに武器を補充しているのもその力の一端か? ……面白い!)

 

 

 薙刀による胴への一閃を、身をかがめて避けながら、サガの胴へと蹴りが放たれる。

 それを身に受けたサガが呻き、怯んだその隙を、皇帝の利刃は見逃さない。

 

 

「──させるか!」

 

 

 追撃のために踏み込んだその瞬間。

 高台から飛び降りたフロストリーフの、ハルバードの一撃が割って入った。

 

 高所からの、重量のある武器での攻撃。

 得物で受け止めるのは危険だと判断したのか、男は寸でのところで飛び退いた。

 

 ハルバードが叩き付けられた地面から破砕音が鳴り響く。

 辺りに飛び散る破片と、破壊された地面。しかしフロストリーフが素早く武器を構え直した時には、それらの痕跡は跡形も無く消え去っていた。

 

 雨のように続いていた投擲は止み、皇帝の利刃を見据えるフロストリーフの後ろで、サガの体がアーツの光に包まれていく。

 

 

(このヴァルポ、戦いに慣れているな。戦場育ちか? 判断能力が良いのは厄介だが……あの鈍重な得物であれば、有利なのはこちらだ)

 

(あのアーツ光は、サルカズの女のもの。ノアの戦力の中で最も強いであろう者が、補助に回っているのはどういう意図だ?)

 

(……自己修復のような機能も持ち合わせているのならば、多少手荒でも問題は無いな)

 

 

 彼等が監視をしていた際、遠目から判断した『ノア』の主要戦力は四名。

 その他の住民達も正規軍の下級兵程度には鍛えられているが、束ねたところで障害には成り得ないと結論付けられていた。

 

 目で見た情報と、実際に戦って得た情報を、皇帝の利刃はすり合わせる。

 

 無線機から時折放たれている細かな振動は、移動を続ける『ノア』を追いかけている同胞からの暗号で、あと数分で乗り込めるという意味を示していた。

 

 

(さて、総力を以って制圧をするべきか、万が一の保険を残して単独戦闘を続けるべきか……)

 

 

 このままでも持久戦になればこちらに分が有る、と男は考える。

 唯一の懸念があるとすれば、アーツを使用しているにも関わらず姿が見えないサルカズの女が、実際にどれほどの実力者なのかが不明であるという一点だけだ。

 

 

(周りの建造物に隠れているような気配も無い。ノアの内部に潜んでいるのか?)

 

 

 考えられるのは、奇襲。

 

 シャイニングのアーツによる治療を終えたサガが、フロストリーフの前に飛び出し、皇帝の利刃へと再び肉薄する。

 それに加えて、皇帝の利刃の背後側の高台に移動を済ませていたケオベが、再び投擲の雨を降らせる。

 

 

「この程度ならば、何度やっても同じことだ」

 

 

 背中に目があるかのごとく、降り注ぐ攻撃は男に当たらない。

 水流のように滑らかな薙刀の刃も、振るわれる剣で届かない。

 

 油断も慢心も無く、ただその圧倒的な実力のみで、皇帝の利刃が戦況を支配していた。

 

 生まれた余裕さえ、想定外の事象への警戒に宛がう。

 

 

 ──その警戒が、仇となった。

 

 

「今だっ! ノア!」

 

 

 ケオベとサガの攻撃が止んだ一瞬、ハルバードを振りかぶったフロストリーフが、横合いから皇帝の利刃へと跳び掛かった。

 目一杯に背を反らし、この一撃に全力を込めていることが見て取れる。

 

 その姿を正面に捉えた男の脳裏に、疑念が生じる。

 

 防御の体勢を取っていないどころか、両足すら地から離れている──こちらに届く前に先制が可能であり、躱してから着地の瞬間を狩ることも可能。

 攻撃の前にわざわざ声を上げた──戦闘経験が長い者は意味も無くそんなことはしない。『ノア』へと何らかの指示を出したと考えるのが妥当。

 

 このヴァルポは策を講じている。

 新たな建造物か、あるいは他の兵器か。

 

 

 どの場合でも対応出来るように男は身構え──その瞬間に地面が大きく揺れた。

 

 

 『ノア』による急激な減速が、その場に大きな慣性の力を齎す。

 

 ノアの進行方向──皇帝の利刃にとっては背後へと働いた力に、彼はよろめいてから漸く気付いた。

 

 一瞬の間に生成されていた壁に、その身体は押し付けられ、致命的な隙が生まれているということを。

 

 

「──砕け散れっ!」

 

 

 宙へと身を投げていたフロストリーフは、慣性の力を味方に付けて皇帝の利刃へと迫る。

 

 そして気迫と共に、渾身の一撃を叩きつけた。

 

 

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