「──参るっ!」
まばらに設置された建造物──『堅牢な台』の陰から、気迫と共に現れたサガが、皇帝の利刃へとその薙刀を向ける。
下段から流れるように喉元へと迫る刃を躱し、切り返しすらも最小の動作で避けた男は、その手に持った剣を横に振るった。
その剣に、その身を貫かんと迫っていたケオベの武器達が弾かれる。
甲高い音と共に槍や剣、斧や工具らしきものまでもが吹き飛び、地面に触れる前にその姿を消していった。
「まだまだぁっ!」
『堅牢な台』によって生まれた高所から、ケオベの投擲は続く。
その背を埋める武器の数々が、投擲により減る度に補充されていく光景を、サガとケオベの両名の攻撃をいなしながらも視界に収めた男は、冷静にその分析を開始した。
(極東の薙刀術とは……忌々しい。速度に技の精密さ、目を見張るものはあるが膂力はそれほどでもない)
(高台のペッロー、このアーツは何だ? 武器に炎や冷気が纏わり付いていて、見た目と弾いた感触も違う。受けるのは得策ではないな)
(そしてノア……。一瞬の間での建造物の生成。あのペッローに武器を補充しているのもその力の一端か? ……面白い!)
薙刀による胴への一閃を、身をかがめて避けながら、サガの胴へと蹴りが放たれる。
それを身に受けたサガが呻き、怯んだその隙を、皇帝の利刃は見逃さない。
「──させるか!」
追撃のために踏み込んだその瞬間。
高台から飛び降りたフロストリーフの、ハルバードの一撃が割って入った。
高所からの、重量のある武器での攻撃。
得物で受け止めるのは危険だと判断したのか、男は寸でのところで飛び退いた。
ハルバードが叩き付けられた地面から破砕音が鳴り響く。
辺りに飛び散る破片と、破壊された地面。しかしフロストリーフが素早く武器を構え直した時には、それらの痕跡は跡形も無く消え去っていた。
雨のように続いていた投擲は止み、皇帝の利刃を見据えるフロストリーフの後ろで、サガの体がアーツの光に包まれていく。
(このヴァルポ、戦いに慣れているな。戦場育ちか? 判断能力が良いのは厄介だが……あの鈍重な得物であれば、有利なのはこちらだ)
(あのアーツ光は、サルカズの女のもの。ノアの戦力の中で最も強いであろう者が、補助に回っているのはどういう意図だ?)
(……自己修復のような機能も持ち合わせているのならば、多少手荒でも問題は無いな)
彼等が監視をしていた際、遠目から判断した『ノア』の主要戦力は四名。
その他の住民達も正規軍の下級兵程度には鍛えられているが、束ねたところで障害には成り得ないと結論付けられていた。
目で見た情報と、実際に戦って得た情報を、皇帝の利刃はすり合わせる。
無線機から時折放たれている細かな振動は、移動を続ける『ノア』を追いかけている同胞からの暗号で、あと数分で乗り込めるという意味を示していた。
(さて、総力を以って制圧をするべきか、万が一の保険を残して単独戦闘を続けるべきか……)
このままでも持久戦になればこちらに分が有る、と男は考える。
唯一の懸念があるとすれば、アーツを使用しているにも関わらず姿が見えないサルカズの女が、実際にどれほどの実力者なのかが不明であるという一点だけだ。
(周りの建造物に隠れているような気配も無い。ノアの内部に潜んでいるのか?)
考えられるのは、奇襲。
シャイニングのアーツによる治療を終えたサガが、フロストリーフの前に飛び出し、皇帝の利刃へと再び肉薄する。
それに加えて、皇帝の利刃の背後側の高台に移動を済ませていたケオベが、再び投擲の雨を降らせる。
「この程度ならば、何度やっても同じことだ」
背中に目があるかのごとく、降り注ぐ攻撃は男に当たらない。
水流のように滑らかな薙刀の刃も、振るわれる剣で届かない。
油断も慢心も無く、ただその圧倒的な実力のみで、皇帝の利刃が戦況を支配していた。
生まれた余裕さえ、想定外の事象への警戒に宛がう。
──その警戒が、仇となった。
「今だっ! ノア!」
ケオベとサガの攻撃が止んだ一瞬、ハルバードを振りかぶったフロストリーフが、横合いから皇帝の利刃へと跳び掛かった。
目一杯に背を反らし、この一撃に全力を込めていることが見て取れる。
その姿を正面に捉えた男の脳裏に、疑念が生じる。
防御の体勢を取っていないどころか、両足すら地から離れている──こちらに届く前に先制が可能であり、躱してから着地の瞬間を狩ることも可能。
攻撃の前にわざわざ声を上げた──戦闘経験が長い者は意味も無くそんなことはしない。『ノア』へと何らかの指示を出したと考えるのが妥当。
このヴァルポは策を講じている。
新たな建造物か、あるいは他の兵器か。
どの場合でも対応出来るように男は身構え──その瞬間に地面が大きく揺れた。
『ノア』による急激な減速が、その場に大きな慣性の力を齎す。
ノアの進行方向──皇帝の利刃にとっては背後へと働いた力に、彼はよろめいてから漸く気付いた。
一瞬の間に生成されていた壁に、その身体は押し付けられ、致命的な隙が生まれているということを。
「──砕け散れっ!」
宙へと身を投げていたフロストリーフは、慣性の力を味方に付けて皇帝の利刃へと迫る。
そして気迫と共に、渾身の一撃を叩きつけた。