箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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奇襲作戦②/40日目

 

 

 破壊された壁ごと皇帝の利刃の体は吹き飛び、地面で何度か跳ねた後、その身を翻して立ち上がった。

 

 攻撃に全力を割いたために受け身を取れなかったフロストリーフは、負傷による苦痛に表情を歪ませながら、その驚愕を隠し切れない。

 

 

(違う……! 壁を砕いたのはこいつだ……!)

 

 

 フロストリーフのハルバードが皇帝の利刃を捉えるよりも先に、壁が破壊されたのを彼女は見た。

 周囲には敵影は無く、何かが飛来した様子も無かった。そこから導き出される結論は一つ。

 

 その身体、その膂力で以って、皇帝の利刃は壁を砕いたのだ。

 そして接触の瞬間、それに合わせて自ら後方へと跳んだのだ。

 

 立ち上がった男の黒い外套は、大きく切り裂かれてはいるが、その身へと届いた様子は無かった。

 

 

「……評価を改めよう。良き戦士が揃っている」

 

「……何だ? 嫌味か?」

 

「称賛だ。明らかに身体能力の差がある敵に対し、ここまで食い下がられることは久しく無かった」

 

 

 会心とはいかなかったが、手応えが無かった訳ではない。飄々としているがダメージは受けているはず。

 わざわざ話しかけてくるのは時間稼ぎによる回復が目的だ、とフロストリーフは考え、それに乗った。

 

 

(……次の一手を考える時間が必要だ)

 

 

 今の一連の行動により、皇帝の利刃はノアの前方側へと移動してしまっている。

 囲むように仲間を配置出来なければ、人数による有利は薄くなってしまうし、万が一のことも考えると、中心に近い場所に留めた方が都合が良い。

 

 そうやって思考を始めるフロストリーフに対し、皇帝の利刃は言葉を続けた。

 

 

「教えてくれ、ヴァルポの戦士よ。彼我の実力差が分かっていて尚、何故戦う?」

 

「……何を聞かれるかと思えば、随分と下らないことを聞くんだな」

 

「………………」

 

「アンタほどの実力者なら、理由だって分かるだろ? 野暮なことを聞くな」

 

「……そうだな、失礼を詫びよう」

 

 

 くつくつと笑う声を漏らし、男は再び武器を構え直す。

 

 

「ウルサスに仇成す者は例外なく我々の敵だ。だが個人の感情として、貴様のような強き戦士は嫌いではない」

 

 

 個人的な感情を表に出さず、ウルサスの守護者として道具のように使命を遂行する彼等からの、最大の賛辞。

 

 それを受けて、フロストリーフはニヤリと笑った。

 彼女もまた、己の得物を構え直す。

 

 

「有難く受け取っておく。……時間稼ぎは十分か?」

 

「──ああ、到着したようだ」

 

 

 背後からの轟音に、彼女は思わず振り返った。

 

 吹き飛んだ高台とその破片、宙を舞うケオベを受け止めるサガの姿が、視界に映る。

 

 そしてその視界の奥に、黒い人影が『二つ』。

 

 

 皇帝の利刃が二人、そこに居た。

 

 

「────っ!」

 

 

 明らかな隙を晒していたことに気付いたフロストリーフが、向き直る。

 

 

「減速したのは悪手だったな。おかげで想定より早く到着したようだ」

 

「今の隙を突かなかったのは、我々の最後の慈悲である」

 

「武器を捨て、投降しろ。さもなくば……」

 

 

 皇帝の利刃達は、彼女達を追い詰めるようにその歩みを進める。

 ジリジリと後退する三名は、やがて『ノア』の中心でその動きを止めた。

 

 ケオベが威嚇するように唸り、サガは鋭い視線を投げ、フロストリーフも警戒を緩めない。

 

 

「……手足の数本も捥げば、『ノア』も理解するか?」

 

 

 皇帝の利刃達が、攻撃のためにその一歩を踏み出し──

 

 

 

 ──地面が消えた。

 

 

 

(──罠、いや、これはっ!)

 

 

 戦闘が繰り広げられていた『ノア』の上部だけが消失し、突然の浮遊感が、その場に居た全ての者に与えられた。

 皇帝の利刃も『ノア』のネームドも、例外なく落下を開始し、皇帝の利刃達だけが、地面へと着地する。

 

 ケオベとサガ、フロストリーフの三名は、ぽっかりと空いた穴に吸い込まれるように、更に下へと落下していった。

 

 そして瞬く間に、消失した上部──天井が新たに生成され、彼女達が落ちていった穴も塞がれる。

 

 

 外から確認出来る『ノア』の高さと、この空間の高さから、内部が二層構造になっているということを、瞬時に理解した。

 

 戦いの際にアーツだけが確認出来たサルカズの女も、恐らくはこの空間から支援を行っていたのだろう、と推測を重ねる。

 

 命令により『ノア』に力を使用することを禁じられている状態で、この空間から脱出が出来るかどうか、思考を巡らせる。

 

 

 それら全てを消し飛ばす存在が、彼らの視界に存在した。

 

 塞がれた中心の穴、その横の人影。

 

 

 サルカズの女──シャイニングと、サルカズの男──パトリオット。

 

 

 その光景に、皇帝の利刃達は息を呑んだ。

 

 

「……私達の目的は、対話です」

 

「……我々と戦いを望むか?」

 

 

 広い空間に、シャイニングとパトリオット、二人の声は良く響いた。

 声も無く、合図も無く、皇帝の利刃達はただ武器を構える。

 

 

「ボジョカスティよ、強大な敵はウルサスが屈する理由にはならない」

 

「その忠誠心に敬意を表しよう──来い」

 

 

 各々が刃を交え、様々な音が鳴り響く。

 

 先程までとは比べ物にならない激しい戦い。

 

 その戦いも、僅か数分程で決着が着いた。

 

 





≪Tips≫

『戦闘の勝利を確認しました』

『戦闘による損傷が25%を超えています』

『迅速な修理を推奨します』

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