箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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脱出作戦②/40日目

 

 

 多少の食料品と消耗品をその地に残し、『ノア』が再び移動を開始する。

 それを静かに見送ったパトリオットは、皇帝の利刃達へと向き直った。

 

 悪魔の力を有したその身体は、先の戦闘による負傷の多くを既に治しており、再戦することすらも可能にしている。

 両者の視線は交錯し、しばしの沈黙の後、皇帝の利刃が声を発した。

 

 

「『ノア』の進路上のウルサス軍を動かす必要がある。ボジョカスティ、我々の無線機を一時返却して頂こう」

 

「……理由は?」

 

「暗号の解読方法を知る者を本来ならば生かしてはおけないが、それが不可能である今、せめて『ノア』の存在がウルサス内の他勢力に察知されることは避けねばならない」

 

 

「応急措置として早急な暗号の更新も必要だがな」と続いた言葉に、パトリオットは思案する。

 

 恐らく更新をしたところで『ノア』には意味が無いと自身の勘は告げているが、それを伝える義理も無い。

 ウルサス軍の移動に関しては、タルラの見解と一致している点もあり、全くの嘘という訳では無いだろう。

 

 そう結論付け、パトリオットは無線機の一つをその手に持った。

 

 

「操作は私が行う。周波数は?」

 

 

 告げられた周波数に合わせると、皇帝の利刃がいくつかの言葉を発し、無線機越しのやり取りが行われる。

 それが終わり全てを聞き届けたパトリオットは、再び無線機を仕舞いこんだ。

 

 

「先程タルラから通信があった。貴様達の仲間に要求を告げ終えた、と」

 

「……既に7は帰路に着いているということか。我々の事は伝えたのか?」

 

「無論だ」

 

「ならば本部への報告は問題無いだろう。ボジョカスティよ、我々をどうするつもりだ?」

 

 

 報告のための人員が帝国へ向かっている以上、この場に居る三名の皇帝の利刃は、それが完了するまで待機状態にある。

 本来ならば次の指示を受けるために行動する必要があるが、彼等の目の前に居るサルカズは、それを許しはしないだろう。

 

 

「『ノア』が国境を確実に越えられると判断出来るまでの間……半日は監視だ。その後は貴様等の好きにすればいい」

 

 

 その後に全力を用いたとしても絶対に追い付けないことを理解し、僅かな可能性を潰されたことを彼等は悟った。

 傷が癒えた瞬間に再び戦闘を行うということも一瞬脳裏をよぎったが、三人全員がそれを頭の中で一笑に付した。

 

 分が悪い、と。

 

 

「音に聞く槍の一撃を受けたくはない。我々も逃げずに大人しくここに居ることを約束しよう」

 

「…………」

 

 

 その言葉に、パトリオットは何も返さない。

 ただ、とあることをふと思い出していた。

 

 皇帝の利刃達が『ノア』に乗り込まない、あるいは戦闘の途中で離脱された場合を想定し、丸一日の移動の間に『ノア』の内部で用意していたあるもののことを。

 

 アーツを用いた槍の一撃に必要な、『祭壇』のことを。

 

 

(最終的には使用せず杞憂で終わったが、回収するべきだったか)

 

 

 『祭壇』が無ければ本来の威力を発揮することは不可能だが、それを悟られなければ問題は無い。

 パトリオットはそう判断し、長い監視を開始する。

 

 冷たい風が吹く雪原で、四つの人影は日が暮れるまで佇むのだった。

 

 

 

 

 

「──ボジョカスティよ、我らウルサスの栄光の時代に、かの蒸気騎士の部隊を打ち破ったというのは本当か?」

 

 

 畏怖もある。それ以上に尊敬の念もある。

 先代達から数々の逸話を聞かされてきた、その本人が目の前に居る。

 

 長い沈黙と好奇心に負けた皇帝の利刃の一人がそう質問し、意図を図り損ねたパトリオットが訝しみながらも答えたのを皮切りに、残りの二人も次第に好奇心に呑まれていく。

 

 そこから半日までの間は、瞬く間に過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「……脱出完了、か?」

 

 

 ゲーム画面の左上。ゲーム内日数の隣に表示されていた『ウルサス帝国』の文字が消え、『名も無き荒野』の文字に変わる。

 『ノア』が国境を越えた、と判断していいだろう。最後に少しやらかしてしまった気もするが、無事に抜けることが出来て本当に良かった。

 

 

「安全を考慮してもう少し移動と、大分減った資源の回収。……ああ、あと『ノア』の修理もだったな」

 

 

 やらなきゃいけないこととやりたいことが一杯だ。

 そして何より、次に何処へ向かうかも考えなければならない。

 

 駐屯地に居た時に表示された地図が正しければ、南下すれば『リターニア』、そこから少し東だと『シラクーザ』、距離は遠いがここから東に向かうと『炎国』という国があるはずなんだけど……。

 タルラから国ごとの特徴など、基本的なことは聞いたが、情報が足りな過ぎる。

 

 

「……まあ資源の回収でもしながらゆっくり考えよう」

 

 

 長い間ゲームをやっていたから流石に目も疲れてきたし、今日はもう止めてまた明日だな。

 

 そう考えてゲームを閉じようとした瞬間、『ノア』を俯瞰視点で見ているゲーム画面の端に、とあるものが映った。

 

 

「──車? あ、情報のポップアップが出てる」

 

 

 ……モスティマだ! 久し振り! 

 

 





≪Tips≫

『詳細』
ネームド: ケオベ 125%
      モスティマ 65%(-25%)
      サガ 95%
      フロストリーフ 149%
      シャイニング 99%(+11%)
      アリーナ 85%
      フロストノヴァ 55%
      パトリオット 50%
      タルラ 145%
      コシチェイ 130%
      フィアメッタ 35%
      レミュアン 50%


≪『祭壇』の学習は完了しました≫

≪『祭壇』の実物を入手しました≫

≪工程の一つを省略します≫
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