襲撃イベントが終わった後、戦利品回収を指示し、先に『ノア』の方の様子を見ようと画面を動かしたところ、祠の前には知らないキャラクターが立っていた。
新手の敵かと警戒したが、その周囲で子供達が楽しそうにしているのを見て、警戒を緩める。母親達はステータスが『緊張』になっているが、子供達をそのままにしているのを見る限り、敵意は無いと判断したのだろう。
キャラクターをクリックすると、画面は勝手にズームした。
茶色の長い髪を風にたなびかせて、その小さな背丈にはおよそ似つかわしくない大量の武器を携えている女性。
一番特徴的なのは、犬のような耳と尻尾が付いていることだ。このゲームの世界ではたしか『ペッロー』と呼ばれる種族のはず。
続いて、画面に選択肢が現われる。
≪ ネームド:『ケオベ』と交流しますか? はい/いいえ ≫
初めてのネームドキャラだ。
襲撃イベントが終わったから寝るつもりだったが、ここで終わるのはキリが悪い。今夜は睡眠時間を犠牲にすることにした。
はい、の選択肢を選ぶと、更に選択肢が現われる。
内容を確認すれば、どうやら会話で交流を図るようだ。奇をてらわず、それっぽいのを選んでいく。
「会話テキストに平仮名が多いな。そういうキャラなのか? 一人称が『おいら』なのも珍しい。……というかフルボイス!? このゲームにボイスがあるなんて初めて知ったよ」
住民達はクリックすれば挨拶などのテキストが現われるが、音声が伴うことは無かった。
名前の有るキャラは特別仕様ということなのだろうか? 何にしても嬉しい発見だった。
新たな発見を喜びながら、会話を進める。
そして重要だと思われるセリフが、最後に表示された。
『ごちそう、ある?』
そのテキストの下に表示される、空白の空間。クリックすると料理画面に切り替わった。
……選んだ料理で結果が変わると見た!
住民になってくれるかもしれない以上、出し惜しみはしない!
住民の皆、ごめん。と思いながらなけなしの肉を投入し、現状作成可能な料理の中で一番豪華そうなものを作製する。
肉・肉・肉で作った『熟成ジャーキー』!
……いや、何でジャーキー? このゲームでは料理は一度作らないとレシピが登録されないし、初めての組み合わせは何が完成するか分からないようになっているけれど、この結果は予想外だ。
提供する料理は何種類でも良いみたいだし、不安だからもういくつか作ってみよう。
「『うまみスープゼリー』『ガンセキガニの刺身』『混成ミートソース』……。料理とは?」
めぼしい食材はもう無い。終わった。解散。ケオベはおそらく仲間になってくれないだろう。
やけくそになって、出来たもの全てを提出する。
『えーと……』
急に祠に現れたごちそう……? に、彼女は驚いていたが、料理達を見て困ったような表情を浮かべている。
気持ちは大いに分かるが、これが俺の精一杯だ。許してくれ。あと仲間になってくれ。
『あの、私達で良ければお作りしますが……』
しかし、救いの手は俺を見捨てなかった。
俺とケオベのやり取りを大人しく見守っていた大人の女性陣が、ケオベにそう言葉を掛ける。
ケオベは嬉しそうに『ほんと?』と、彼女達へ振り向いていた。
……うちの住民は優秀だな!
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「──おいしかった!」
「お口に合ったようで、良かったです。……それで、その、こちらに逗留はして頂けるのでしょうか……?」
「とうりゅう?」
「ええと、しばらくここに居て頂けますか?」
「ご飯くれる?」
「もちろんです」
「じゃあ分かった! これからよろしくね! おいらのことはケーちゃんでいいよ!」
その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。
意図はよく分からないが、会話を聞く限りこの子のことを『ノア様』は引き留めようとしていた。つまり『ノア様』にとって必要な人材なのだろう。
胸に込み上げるのは仄かな達成感。少しは『ノア様』に恩返し出来たかもしれないという喜び。
この一ヶ月の間で燻っていた無力さと追放されるかもしれないという恐怖が、ほんの少し癒えた気がする。
でも、まだまだ足りない。
もっともっとお役に立たないと。
私達が見捨てられないように……。
≪Tips≫
『住民詳細』
評価 : 感謝 恐怖 崇拝
好感度 : 大人→■■
子供→良好
ネームド: ケオベ 10%
『ケオベが一時的に住民になりました。永住させるには条件を満たして下さい』