箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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リターニア②/45日目

 

 

『わぁ……!』

 

『これは……!』

 

『おい、二人とも。そんなところで立ち止まるな』

 

『少し待ってあげましょう。きっとノア以外だと初めて見る移動都市の街並みなんだから』

 

『……フロストリーフ、あなたはあまり驚いていませんね』

 

『傭兵の頃に少しは見たことがあるからな……。シャイニングとレミュアンは?』

 

『私は仲間と旅をしていた時に……』

 

『私はラテラーノ出身だもの』

 

 

 『ノア』よりも格別に大きく、『ノア』よりも明らかに賑わっている。

 

 その光景を目にしたリーヴァとビガロは、思わず漏れた声と共に目を輝かせているように見えた。

 

 その感動と同じくらい、俺も驚いている。

 今まで見てきた場所と比べると雲泥の差があり、急に時代が変わったのかと錯覚してしまうほどだ。

 

 

「地域差が凄いな……」

 

 

 何時だったか住民の誰かが言っていたような気がするのだが、鉱石病などで移動都市から追い出されるのは死に等しい、って言葉は比喩でも何でも無かったのかもしれない。

 便利な文明生活から離れるとか、想像しただけで俺には無理だと分かるし。

 

 ……というかレミュアンの言葉を聞く限り、『ラテラーノ』とやらも、ここと同じ水準かそれ以上の文明を持っている可能性がある。

 

 

『ええ、そうよ。……音楽の代わりに爆発音が聞こえることもあるけど』

 

『何だそれ』

 

 

 さりげなくレミュアンに尋ねてみれば、肯定が返ってきた。

 不穏な言葉が続いていたので、思わずフロストリーフと同じ反応をしてしまう。

 

 ……安全性は『ノア』が上か? まあ張り合うことでも無いかもしれないけれど。

 

 

『……では皆さん、私は先に行きますね』

 

 

 何度も『オーナーをよろしくお願いします』とフロストリーフ達に念を押してから、シャイニングは雑踏へと紛れていく。

 

 フロストリーフに言うのは分かる。レミュアンに言うのも分かる。

 ビガロに言うのもまだ分かるけど、子供のリーヴァにまで言うのはどういうこと? 

 

 そんなに心配するほどやらかした記憶は……あるかもしれないけどたまには信じて欲しい。あと半分くらいはこのゲームの翻訳のせいだから。

 

 

『先に領主とのアポイントメントを取り付けましょう。今日中に顔を合わせることは不可能でしょうけど、許可を頂けたことへのお礼と挨拶はちゃんとしておいた方が良いわ』

 

 

 キョロキョロと辺りを見回すことを止められない住民二人を促し、レミュアンが先導して歩き始める。

 モスティマ達と先に一度訪ねているから、その足取りに迷いは無い。非常に助かる。

 

 

『オーナー、分かってると思うが、お礼と挨拶はオーナーの役目だからな』

 

『私達の主様だもんね』

 

 

 フロストリーフはさも当然のように言い、リーヴァはニコニコと笑みを浮かべている。

 画面に選択肢が出ていたので、『大船に乗ったつもりで任せて下さい』を選んでおいた。

 

 

『実際に会う時はレミュアンさんが同席しますか?』

 

『ラテラーノからの役人として許可を取った以上、そうした方が良いと思うわ』

 

『……ご迷惑をおかけします』

 

『……オーナーは、交渉事とかは苦手なのかしら? 少し不安になってきたのだけれど……』

 

 

 ビガロ、レミュアンの不安を煽るんじゃない。

 俺だって社会人の端くれなんだから、それくらい楽勝だって。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

 領主と名乗っているだけあって随分と多忙らしく、目的地である領主の館では不在で、レミュアンは代わりに部下らしき人へ用件を伝えていた。

 予定を確認した上で、都合の良い日時を後で伝えてくれるらしい。レミュアンは滞在予定のホテルの名前を告げ、その場を後にした。

 

 

「ゲームだとよくあるプレイヤー側に都合の良い感じでは無いんだな……新鮮だ」

 

 

 こちらはあくまで許可を頂いた立場で、当然のごとく領主──ゲルトルーデ・ストロッロ伯爵というらしい──の方が立場は上だ。

 『都合の良い日時』とは、この時間に来い、の意味の方が大きいらしい。

 

 ビガロ、若いのに随分詳しいな……。

 

 

『村長や大人の方々からいろいろと教えて貰っていますので……』

 

 

 『ノア』と違ってアフターグロー区はあまりにも大きくて広い。

 元々到着したのが午後だったこともあって、アポイントメントを取り付けた頃にはすっかり夕方になってしまっていた。

 

 外部の者が暗くなってから出歩くのは、どの移動都市でも推奨されないことらしい。

 フロストリーフ達は早々にホテルへのチェックインを済ませた。

 

 レミュアン、フロストリーフとリーヴァ、ビガロ。

 三つの部屋へと分かれると、部屋にてビガロとの会話イベントが発生した。

 

 世間話みたいな話題を選択しつつ、少しの間会話に興じる。

 

 するとビガロから、俺が気になっていた言葉が飛び出した。

 

 

『同じ移動都市でもかなり違うのですね』

 

 

 その言葉に、入力画面が現れる。

 

 

「いや、まあ……流石にそこは気になるよね……」

 

 

 まあこっちは都市じゃなくて拠点だし? と考えもしたが、何の解決にもなりはしない。

 ここだって最高級とかじゃない普通のホテルなのに、『ノア』より高そうな装飾品で溢れている。少し狭いがベッドはふかふかで、お風呂も広いようだった。

 

 どう思ってるのか聞きたいというのもある。ここは少し軽めに返してみよう。

 

「もしかして住みたいとか思った?」でどうだろう? 

 

 

『……僕はレユニオンと比べたつもりだったのですが、オーナーは何故そんなことを仰るのですか? 僕は何かしてしまったのでしょうか?』

 

 

 何だろう? 笑顔なのに怖いんだけど。

 

 

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