「──珍しいわね、アンタが読書なんて……」
ラテラーノからの一行が滞在している『ノア』の宿泊所。
その広間にてソファに寝転びながら本を読んでいたモスティマは、聞こえた声にその身体を起こす。
彼女が目を向けた先には、自室から出て来たフィアメッタとレミュアンが居た。
「二人とも読むかい? 中々面白いよ」
「あなたが面白いって評価するのは少し気になるわね……」
興味を惹かれたレミュアンがモスティマに近付き、本の表紙のタイトルを見て、怪訝な表情へと変わる。
その変わり様を目の当たりにしたフィアメッタも不思議に思い、二人の方へと歩みを進めた。
そして本のタイトルが視界へと入る。
「『オーナープロフィール』……? まさかこれ……」
「フィアメッタ、君が今思った通りだよ。これはここの住民達が書き起こした、オーナーに関する調査書のようなものなんだ」
「やることが無くて暇だったから借りてきたんだけど……」とモスティマは続けながら、本をパラパラと捲る。
本はどうやら都度都度書き足されているようで、筆跡はところどころがバラバラであり、その内容も全体の中盤ほどで終わっていた。
その最後のページ近くを開きながら、モスティマは二人へとそれを見せる。
『リターニアに住む人々ですら聞いたことの無い曲を多数所有している』
『その内、曲名が分かっているものは────』
『甘味に関しては果物系を好んでいる可能性が高い』
『あるサンクタが注文した十数種類のスイーツの内、反応を示したのは────』
『好みの容姿は色素が薄く長い髪を持つ者』
『リターニア滞在の際に当住民が、自身の好みの容姿と引換えに聞き出し────』
情報と注釈。
恐らく最近書かれたであろうその内容を目にし、二つ目の内容でフィアメッタとモスティマはレミュアンを見た。
大量のスイーツの注文に心当たりがあったのか、レミュアンはサッと顔を背ける。
「既に報告したと思うけど、リターニアでは私、かなりオーナーに振り回されたから……」
「ねえフィアメッタ、ラテラーノに着いたらレミュアンに何を奢ってもらおうか?」
「新しく出来た店がいくつかあったわ。食べ歩きなんてどう?」
「良いね。楽しみが増えた」
ラテラーノ人はスイーツを好んでおり、彼女達もそれに漏れることは無い。
一人で多くのスイーツを堪能していたレミュアンに対して、モスティマとフィアメッタは強い視線をぶつけた。
それにレミュアンは怯み、大きな溜息を吐いた後「……分かったわ。程々にね?」と力無く言葉を返す。
「これ以上何か言われる前に、私は周辺警戒に行って来るけど……モスティマ、あなたは?」
「私は続きを読むよ。フィアメッタは?」
「ラテラーノに着く前に報告書を仕上げるわ。これから住民達への聞き取りだけど……、その本も何かの足しになりそうね。後で私にもそれ、見せなさいよ」
「……借りてきた物だし、報告書に書かれるのはちょっと不味いかな?」
「さっき見せたくせに何言ってんのよ……。それなら見せなくてもいいから後で私の質問に答えなさい。アンタの判断で答えるか決めていいから」
そう言い残してフィアメッタは宿泊所を出て行き、「面白そうなのは私にも教えてね?」と言ってレミュアンも後に続く。
二人を見送ったモスティマは、一人になった宿泊所で、最初のようにソファへと寝転んだ。
そして二人に声を掛けられる前に読んでいた部分へと、ページを戻す。
書かれているのは、オーナーが行ってきた、あるいは起こしてきた事象の数々。
書かれているのは、日々の問い掛けから絞り込まれた、オーナーの種族の予想。
書かれているのは、住民達が検討を重ねている、オーナーとノアの目的の推測。
(殆ど死人の状態からの治療も凄いけど、移動都市の修繕は別の意味で遥かに危険だね……)
(少なくともサルカズでは無さそうだ。私は気にしないけどラテラーノだとサルカズは面倒事になりかねないし、これは幸いかな?)
(……目的、か。ノアの方はともかく、オーナーの方はそんなに難しいものじゃないと思っているんだけど……)
そもそもこの本に書かれていることが正しいという保証が無い以上、考えたところで無駄になる可能性も大いにある。
小さく息を吐いて、モスティマは天井を見上げる。
「会って話が出来れば早いんだけどね……」
難しいな、と言葉を零し、彼女はフッと笑った。
『複数種族でのシミュレーションの成功を確認』
『その他の条件と要望を加味し候補を絞り込みます』
『≪救済≫の実行に適した候補を絞り込みます』
『シミュレーションを実行中……』
『シミュレーションを実行中……』
『シミュレーションを実行中……』
『必要期間の観点から―――と―――――の複合を選択します』
『―――の――に対する脆弱性を用いて―――――の――を促進します』
『シミュレーションを実行中……』
『シミュレーションを実行中……』
『シミュレーションを実行中……』
『リソースが不足しています』
『座標の条件を再設定し補います』