箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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イェラグ②/1日目

 

 

「このイェラグではここ数年で工業がとても発展した、というところまで聞きました」

 

 

 がやがやとした他の客達の会話をBGM代わりにしつつ、俺は渡された料理へと口をつける。

 

 細切りの芋をまとめて油で揚げ焼きにしたそれ──ヤエルさんは注文の時にレシュティと言っていた──は、シンプルな味わいで美味しかった。

 ニコニコと微笑むヤエルさんの方を確認しつつ、もう一つの料理──シチューの方も頂くことにする。こちらも美味い。

 

 

「口に合ったようで何よりよ」

 

 

 ヤエルさんが俺から視線を外し、店の一角へと目を向ける。

 

 その視線を追った先には、大きなストーブのようなものがあった。

 テレジア達の寝床に置いてあった薪ストーブとは明らかに違う、機械的な形状をしている。

 

 

「少し前までは薪を集めて暖炉にくべていたものだけれど……今ではあの源石電気ストーブが主流になったわ」

 

 

「シルバーアッシュ家が立ち上げた『カランド貿易』のおかげでね」と、ヤエルさんは俺へと視線を戻してそう言った。

 

 宿泊施設から街までの間、この飲食店を探して歩き回っている間、注文し一度ヤエルさんが席を外すまでの間。

 俺自身の事は大して聞かれず、逆に話してくれたのはヤエルさん自身の事と、このイェラグという国の事だった。

 

 国としての特色や治めている三大貴族のこと、地域毎の慣わしや伝承など、様々なことを教えてくれたのだが、特に慣わしや伝承の部分はとても面白かった。

 具体的な内容と起源まで話してくれたのだが、臨場感たっぷりで現実味があり、まるでその場を直接見てきたかのような口ぶりに聞き入ってしまった。ヤエルさん、話上手である。

 

 

「……あれ? 三大貴族であるシルバーアッシュ家とカランド貿易のことは先程聞きましたけど、ヤエルさんが仕えている巫女も、確かシルバーアッシュ……でしたよね?」

 

「ええ、そうよ。このイェラグのカランドの巫女『エンヤ・シルバーアッシュ』と、カランド貿易のトップ『エンシオディス・シルバーアッシュ』は、実の兄妹なの」

 

「三大貴族で治めているとはいえ、政治のトップの一角と宗教のトップが身内なのは……いろいろと問題があるのでは?」

 

「その辺りは……問題はあるけど、大丈夫」

 

「どうしてですか?」

 

「兄妹仲が凄く悪くて、それが周知の事実になっているから」

 

 

 なるほど。程度は不明だけど、お互いに私情は持ち込まないし、周りもそれを理解している、と。

 その結果としてこの街のようにイェラグの各地域が賑わっているのなら、そういった事情も踏まえて良く回っているということなのだろう。

 

 ヤエルさんは笑顔だったが、少し悲しそうにも見えた。

 ずっと巫女に仕えていると言っていたし、その主の家族仲が悪いことに心を痛めているのだろうか? 

 

 ……それにしても。

 

 

「ヤエルさんはこの国……というより、この国の人々のことが好きなんですね」

 

「………………あら、どうしてそう思ったのかしら?」

 

「え?」

 

「この国のトップである巫女様がそう思うならまだしも、私はその侍女長でしかないのよ? 気になるわ」

 

 

 真剣な目に変わってこちらを見つめてくるヤエルさんからは、強い好奇心を感じた。

 

 どうして、と言われても……。

 

 これまで話してくれた内容、その時のヤエルさんの様子からとしか言いようがない。

 この国の事を話す時は特に何も感じなかったが、この地に住む人達の事を話す時は楽しげだったし……。

 

 そんなことを何とか言葉にしてみたところ、ヤエルさんは目を丸くして驚いていた。

 

 

「……貴方、とても不思議ね。心を読むのとは違う……感情を読んでいるのかしら?」

 

「ははっ、そんなことは出来ませんよ。何となくそう思っただけです。間違っていたのならすみません」

 

「いいえ、謝ることは無いわ」

 

 

 それはつまり、合っているということだろうか? 

 結局ヤエルさんは肯定を返してはくれなかったので、確認のしようが無くなってしまった。

 

 そしてしばらくの間、お互いに黙々と料理を口に運ぶ時間が続く。

 

 気まずい、といったことは無かった。

 これもまた何となくだけど、ヤエルさんの機嫌は良いみたいだったから。

 

 

 

 

 

「……機会があれば、貴方を巫女様に会わせてみたいわね。彼女の良い息抜きになってくれそうだから」

 

「いやいや、荷が重過ぎます。話せるような話題もありませんし、そもそも何を話せばいいのかすら分かりません」

 

「いいのよ、そんなこと分からなくても。自分の意志だけではなく他者の思惑によって祀り上げられて、宗教国家のトップになって身に余る力を手に入れてしまった人のことなんて、分かる人が居ると思う?」

 

「それは……居ないでしょうね」

 

「でしょう? きっと必要なのは、彼女の気持ちを感じ取って寄り添ってくれる人よ。貴方はとても良い線をいっていると思うわ」

 

「あはは、面白い冗談ですね……」

 

「フフッ、今日のところはそういうことにしておきましょうか」

 

 

 最後の言葉からは、何も感じなかった。

 でもヤエルさんの目は、笑っていなかった。

 

 ……流石に冗談だよね?

 

 

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