箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

63 / 142
重要点/10日目

 

 

「……おい、こっち来い。そんで座れ」

 

「……?」

 

 

 ベッドで身体を起こしたまま、何となくアスベストスさんの作業を眺めていたところ、彼女がこちらを一切見ずに俺を呼んだ。

 理由も分からないまま布団から出て彼女へと近付き、指を差された場所に素直に座る。

 

 よく乾いた布が俺の膝へと投げられて来た。

 

 

「さっきからこっちの事ジロジロ見やがって……暇なんだろ? 手伝え」

 

「……分かりました。何をすれば良いですか?」

 

 

 唐突ではあったが、居候みたいなことをさせて貰っている身だ。これくらいのことなら断る必要も無い。喜んでお手伝いをしようじゃないか。

 

 そう思っての発言だったのだが、アスベストスさんは俺の方をチラリと見て、大きなため息を吐いていた。

 

 

「なるほど、お前もテレジアと似たような奴か」

 

「えーと、それはどういう……」

 

「あー、いい。深い意味は無ぇんだ。あたしが分解した部品をそれで拭け」

 

 

 聞き返しても返答は貰えず、代わりに目の前に部品が置かれた。

 

 彼女のことはテレジアから少しだけ聞いている。

 本人に関わることだから詳しくは話せないけど、と前置きをされた上で聞いたところ、彼女は所謂『探検家』をしているらしい。

 

 この部品も恐らく、その探検に使用した機材や道具の一部なのだろう。

 所々に雪や氷が付着しており、僅かに溶けた部分は水滴に変わっている。

 

 

「ストーブの近くで乾かしますか?」

 

「……薪ストーブは調節が手動だ。気ぃ抜いて熱で歪ませねぇ自信はあんのか?」

 

「拭かせて頂きます」

 

 

 数個くらいならまだしも、見たところ分解されていく部品の数は数十個は下らない。全部を問題無く管理出来そうには見えなかった。

 

 うーん、良い案だと思ったんだけど……残念だ。大人しく作業を手伝うことにしよう。

 

 

 

 

 

「──いや、そんなに長い付き合いでもねぇよ。テレジアと会ったのは二ヶ月くらい前だ」

 

「じゃあ二ヶ月前からこのイェラグに居たんですね」

 

「それも違ぇ。初めて会ったのはサルゴンの砂漠地帯だ。ここに来たのは割と最近だな」

 

「へえ……。どうして一緒にこの場所に?」

 

「利害と目的が一致したから。……つーかお前、そんなことより手を動かせよ」

 

「すみません」

 

 

 

 

「『探検家』って、何をするんですか?」

 

「……依頼受けて未踏破地域の調査が普通なんじゃねえの?」

 

「……その言い方だと、アスベストスさんは違うんですね」

 

「あたしは一人で自由にやるのが性に合ってんだよ。……言ってる意味が分かるか?」

 

「はい」

 

「そうか、分かってねぇな。聞いて悪かったよ」

 

 

 

 

「今更ですけど、私がこの部屋を使っても良いんですか?」

 

「十日くらい使っておいて何言ってんだ……? テレジアと話は付いてる。ここの使用料と薪代に食料費、ちゃんと自分の分負担すんなら文句は言わねえよ」

 

「いや、それは当然として、その……」

 

「……あのなぁ」

 

「──おわっ!?」

 

「あたしの尻尾にすら押し負ける奴が何言ってんだ? お前の事何とも思ってねえし、何かしようとしても返り討ちにしてやるから安心しろ」

 

「そうみたい、ですね……」

 

「そもそも殆ど戻って来ねえしな。二、三日もしたらまた山登りだ」

 

 

 

 

 部品を拭いて、並べて、拭いて、並べて。その繰り返し。

 

 そんな作業を黙々と続けていたが、いたたまれなくなった俺は何度かアスベストスさんに話しかけた。

 

 無視されることが大体七割。

 でも残りの三割くらいは、明らかに乗り気じゃない声音ではあったけれども、答えが返ってきてくれた。

 

 後半の方は少し、そうほんの少しだけではあるけれども、雰囲気が和らいだ気がする。

 めげずに何度も話しかけてみて良かった。きっと根は悪い人では無いのだろう。

 

 

「よし、一通り終わったな。飯にすんぞ」

 

「あれ、作ってくれるんですか?」

 

「燃料がもったいない。お前が何作るか分からない。これ以上理由が要るか?」

 

「……お願いします」

 

 

 ……悪い人では無いよね? 多分、きっと。

 

 わざとそういった攻撃的な言葉を選んでるような気がするけれど、理由を聞くような間柄でもない。

 気にはなるけれども、ここは何も言わずに従うのが吉だ。沈黙は金、とも言うし。

 

 

「アスベストスさん、部品とか道具は隅に寄せてもいいですか?」

 

「……落とすなよ」

 

 

 一応は肯定の意味と受け取ろう。

 いや、そんなに筋力が無いと思われているのだろうか? 

 

 …………この立てかけられたドア。

 位置をずらそうと思ったけど、ビクともしない。こっちに倒れてきたら大変なことになりそうだから、このままにしておこう。

 

 視線を感じて振り向けば、アスベストスさんは「ほら見ろ」と言わんばかりの表情を俺に向けていた。

 

 うん、何も言い返せないな。悔しいけど他の物を……。

 

 

「──眩しっ!」

 

 

 小さい部品。用途が分からない道具。高そうな機器。

 丁寧に移動をしている最中、それは起きた。

 

 動かそうとして手に持ったランタンの電源が、急に点いてしまったのだ。

 

 

「あの、これどうやって消したら……アスベストスさん?」

 

「──貸せ」

 

 

 半ば強引に、俺の手からランタンが奪われた。

 だがアスベストスさんの持つランタンは、その灯りを失っている。

 

 そして今度は押し付けられ、ランタンは再び俺の手へと戻る。

 眩い光がランタンから発せられた。

 

 ……あれ? 

 

 

「……こいつは源石電池で動く代物だ」

 

「さっきの整備の時に電池は抜いてる」

 

「お前、何した?」

 

 

 アスベストスさんは、訝しげな表情を浮かべている。

 

 ……俺にもさっぱり分かりません。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。