箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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リス①/20日目

 

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「……『ノア』に、戻るのよね?」

 

 

 真剣な表情でそう問いかけたテレジアに、オーナーは少し迷ってから口を開く

 

 

「出来ることなら……そうしたいです。どうすれば辿り着けるのかも分かりませんが……」

 

「そう……」

 

 

 そこで一度、テレジアは顔を伏せた。

 

 彼女の夢、ロドスの理念。

 そのどちらにも力になってくれるであろうオーナーを手助けすることは、大いに意味がある。

 そこに彼女の個人的な恩返しも含めれば、手伝わない理由が無い。

 

 だが、それでも。

 

 このオーナーをノアに戻すことが、果たして正解なのか? 

 

 テレジアにはそれが、分からなくなっていた。

 

 

(私が想定していたよりもずっと、オーナーは『普通の人』……。他者に躊躇無く手を差し伸べる行動を別れた後も続けていたのなら、どれだけの信奉者が生まれているか……)

 

 

 このまま戻ればきっと、オーナーに『自由』は無い。

 そしてその事に、彼はまだ気付いていない。

 

 

「……あの、テレジアさん? どうかしましたか?」

 

「──いえ、大丈夫よ。何ともないわ」

 

 

 オーナーの心配そうな声に、テレジアはようやく顔を上げる。

 限りなく現実に近い予想を話すことを、テレジアは躊躇った。

 

 

(……どちらにせよ、解決すべき問題があるわね。それを済ませてから、改めて聞くことにしましょう)

 

 

 思考を切り換えて、テレジアはオーナーへと語り掛ける。

 

 

「戻る方法はいくつか思い付くわ。でも、そのためには準備が必要よ」

 

「……それは何でしょうか?」

 

「まず第一に資金。移動手段は複数あるけれど、そのどれもにそれなりの費用が掛かる。素早ければ尚更にね? 二つ目はノアの位置だけど……オーナー? 覚えている限りでの最後の位置はどの辺りなの?」

 

「えっと、ラテラーノです」

 

「…………資金を貯めるのにも移動をするのにも時間が掛かるわ。それを先読みして、ノアの移動先へ向かう必要がある。……後は、ノアの状況も分かると助かるわね」

 

「状況、ですか?」

 

「あなたが不在になったことでどうなっているか分からない以上、必要よ。もしも緊張状態にでもなっていたら、戻って名乗った瞬間に拘束される可能性があるもの」

 

「……つまりは、お金と情報ですね。まずはそれを何とかする必要があると」

 

 

 オーナーの言葉に、テレジアは頷いた。

 そしてそのためにはどうするべきかを考え始めたオーナーに、続けて声を掛ける。

 

 

「幸いなことに働き口はこのイェラグにはたくさんあるみたいだけど、問題は情報ね……。他国の情報となると、貴族達ならともかく一般市民にまで降りてくるかどうか……」

 

 

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 建物の外に設置されていたベンチに腰掛け、一息をつく。

 

 本や雑誌が置いてそうな店を回り、『ノア』や『ロドス』の事を何か知らないか店員に尋ね回った午前。

 お昼にちょっと休憩をしてから、イェラグの人じゃ無さそうな見た目の人達に聞き込みをした午後。

 

 驚くことに、それなりの人達がその名称に心当たりがあるようだった。

 

 

 『鉱石病を治すことが出来る場所という御伽噺』『各地を渡り歩く謎に包まれた拠点』『各国における要人の興味の対象』

 

 『鉱石病を研究している製薬会社』『最近は各国に拠点を設置し始めている』『謎の存在ノアとも関わりがあるという噂』

 

 

 前者が『ノア』に関することで、後者が『ロドス』──正式名称は『ロドス・アイランド製薬』というらしい──に関すること。

 

 思った以上の成果ではあったが、俺が本当に欲しかった情報──『ノア』の現在地や状況を知る人は、皆無だった。

 

 

「列車の時間まで一時間くらいか」

 

 

 確認したが、イェラグの鉄道は本数が多い訳ではない。遅れたら面倒なことになるだろう。

 

 いくつか手に入れた新聞と雑誌もある。

 それらに情報が記されていることを祈るしかない。

 

 

「……残りの時間はどうしよう?」

 

「──ねぇ、そこの貴方?」

 

 

 預けられたお金は俺だけのものでは無く、テレジアが稼いだ分も含まれている。

 出発前にテレジアから、遠慮しないで使って良いと言われたが、それで使えるほど俺の神経は図太く無い。

 

 

「……ちょっと、聞いてる?」

 

 

 でもせっかくの遠出だし、お土産くらいは買った方が良いんじゃないだろうか? 

 無駄遣いにならない範囲で、生活に役立ちそうなものなら許される気がする。

 

 そうなると消えものになるけど、テレジアとアスベストスさんはコーヒー派かそれとも紅茶派か……。

 

 うーん……。

 

 

「アンタに話しかけてるんだけどっ!」

 

「──あっ、え? す、すみませんっ。私ですか?」

 

 

 ぼんやりと地面を見ながら考えてたのがよくなかった。

 怒気が含まれた声に驚いて顔を上げると、目の前には一人の女性が立っていた。

 

 赤茶のような髪と、よく手入れされたふさふさの尻尾。

 そしてこのイェラグでは自殺行為とも思える程に曝け出された足。

 

 

「ウース、落ち着いて」

 

「無視するこいつが悪いのよっ!」

 

 

 そんな女性を宥める、良く似た髪色の男性。

 

 知らない人が二名、座る俺を見下ろすように立っていた。

 

 

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