箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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イェラグ③ 表/21ー29日目

 

 

「……アスベストスさん、暇です」

 

「だから最初に言っただろうが」

 

 

 シルバーアッシュ領で、一般向けに解放されている登山用の雪山。

 その中腹に設置された少し大きめのテントの中に、俺とアスベストスさんは居た。

 

 かれこれ三日目にもなる本日の天気は、生憎の吹雪。

 バサバサと風に揺れるテントの中は、しばらく前から無言の時間が続いていた。

 

 

『これから先、荒野で野宿することも有り得るわ』

 

『雪山で過ごせんなら、大抵の場所は平気だろ』

 

 

 二人の提案もあって行われたキャンプだが、昨日までは思いの外楽しかった記憶がある。

 その道に詳しい人に任せるということでテレジアは参加しなかったので、アスベストスさんと上手くやれるか不安だったが、その思いとは裏腹に、彼女はいろんなことを丁寧に教えてくれた。

 

 曰く、コーヒーと紅茶のお礼だとのこと。借りは作らない主義らしい。

 

 

(テントの設置とか道具の使い方とか、火起こしとか調理とかは楽しかったんだけどな……)

 

 

 一日目の基礎的な部分、二日目の食料・燃料調達など、何だかんだ時間のかかる作業は良かった。

 今日みたいにテントの外にも出られないとなると、日本での生活が抜け切っていない俺には辛い。ネットやゲームが欲しくなる。

 

 そわそわと落ち着かない俺を他所に、アスベストスさんはと言うと、体育座りのように膝を抱えてその瞳を閉じていた。

 俺の言葉に反応してくれている以上寝ている訳では無いのだろうが、彼女も暇では無いのだろうか? 

 

 

「こういう時、アスベストスさんはどうやって過ごすんですか?」

 

 

 彼女は気怠そうに片目を開いた後、小さくため息を吐いた。

 

 

「投稿用の見聞録をまとめたりもするけど、何も無いならジッと黙る。体力の無駄だからな」

 

「……えーと、何かお話ししません?」

 

「…………好きにしろよ。面白けりゃ相槌くらいは打ってやる」

 

 

 そう言って再び、彼女はその瞼を伏せた。

 

 ……アスベストスさんの興味を引くことって何だろう? 

 

 『最近あったこと』くらいの話題で会話しようと思っていたから、完全に当てが外れた。

 「住んでる部屋に飾っている植木鉢の植物、気付きました? この前職場で頂いたんですよ」とか言うつもりだったのに。

 

 紆余曲折があっていつもと違う工場で働くことになった日に、偶然視察に来ていた工場の責任者──ノーシス、と名乗っていた──から、工場の一室に呼ばれて面談をした際に頂いた観葉植物だ。

 何となくその植物から話しかけられているような気がして、部屋に置かれていたそれにちらちらと視線をやってしまっていたのだが、それに気付かれて提案され、断り辛かったために受け取ってしまった物でもある。ちなみにテレジアは喜んでいた。食べる事も可能で、甘味があって美味しいらしい。

 

 ……それにしてもあの責任者と一緒に居た背の高い女性──デーゲンブレヒャーさん、大きな角も相まって凄い存在感があった。恐らくだけど、滅茶苦茶強い人だと思う。

 ノーシスさんから「彼女のことは気にしなくていい」と言われたが、面談の最中は気になって仕方が無かった。

 

 ──待った。思考がアスベストスさんから逃げてる。

 彼女の興味を引きそうな話題を考えるつもりだったのに、横道に逸れてしまっていた。

 

 彼女の興味……『探検』とか『スリル』とか『秘境』? 

 

 そこまで考えて、不意に脳内に浮かんできた事柄があった。

 何でこんなことが思い浮かんだのか分からなかったけど、話題としては丁度良さそうだ。

 

 

「えーと、これは聞き伝の話なんですけど……」

 

 

 

 ────────

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「へぇ……この大地にゃまだまだ知られてねえとこがあんだな」

 

「まあ私も聞いた話なので、本当かどうかは分かりませんが……」

 

「その割にはリアリティがあった。面白い話だった」

 

 

 著名な探検家や冒険家の見聞録のいくつかを話し終えた頃には、ちゃんと両目を開けて俺の話を聞いてくれるアスベストスさんが居た。

 

 この世界の人達の話では無いので、ぼやかしたり表現を変えたりすることもした。

 でもそもそも、俺はその人達の本を読んだ訳でも無い。テレビか何かで見た可能性もあるが、こんなにハッキリと覚えているはずが無い。

 

 それなのに、まるでインターネットで調べたかのように、スラスラと俺の口からは言葉が出て来た。

 

 この違和感に気付かないほど俺は馬鹿じゃない。現時点では見当も付かないけど、後で詳しく調べないと……。

 

 

「あたしもどうせならユングフラウとかに挑みたかったんだが……」

 

「ユングフラウ?」

 

「ペイルロッシュ家が管理してる山だ。昔死者が出たこともあるんだと」

 

「……そんなに険しい山なんですか?」

 

「遠目から見た感じは緩やかなんだけどな。確かめるには登るのが一番だろ?」

 

 

 そして少し残念そうに「まあ許可は貰えなかったけどよ」と彼女は締め括る。

 それなりの期間を過ごし、何度か言葉を交わして分かったことだけど、アスベストスさんは所謂『スリル』を求める節がある。

 

 山を登った後の頂点からの景色とか、彼女にとっては副産物のようなものなのかもしれない。

 

 

「他には無ぇのか?」

 

「そうですね、これは砂漠の話なんですけど……」

 

 

 退屈な時間が嘘だったかのように、暖かい雰囲気の中で話は弾む。

 

 そんな時間が、吹雪が止むまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

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 ────────

 

 

 

 

 

「──突然の訪問でごめんなさいね?」

 

「いえ、私も貴女とはお話をしてみたいと思っていたから、丁度良かったわ」

 

「ふふっ、お互い同じことを考えていた、と。……あら? この紅茶、とても美味しい」

 

「それはオーナーがお土産に買ってきてくれたものなの」

 

「そうなのね。後でお礼を言わなくちゃ……」

 

「…………それで、今日の用事は? きっとオーナーに関する事なのでしょうけど」

 

「ええ、その通りよ」

 

 

 

「明日辺りかしら? 三家の当主が、オーナーに会いに来るわ」

 

 

 





≪Tips≫

ネームド: テレジア 177%
      アスベストス 50%
      ヤエル 99%
      ノーシス 25%
      スキウース 15%
      ユカタン 15%
      デーゲンブレヒャー 10%
      アークトス 5%
      ラタトス 5%
      エンシオディス 10%
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