ここ最近、ふとした時に考えてしまうことがある。
それは『俺の存在がこの世界に悪影響を及ぼしていないか?』という懸念だ。
遡るならそれこそ『生息演算』のゲームをしていた頃まで戻ることになるのだが、そもそもこの世界がゲームの世界ならば、元々のストーリーが存在して然るべきだろう。
『ノア』を動かしてゲームをしている間は、ゲームの仕様には沿っているわけだから、多少の差異はあれど、ストーリーの方はマルチエンディング形式みたいに問題は無かったかもしれない。
でも今は、何が起きたのか俺自身がこの世界に入ってしまっている。
一ヶ月ほど過ごし、俺はこの世界で生きている人達のことを知ってしまった。
ゲームとしてやる分には気にしなかったであろう人々の生活を知ってしまった以上、その営みを壊してしまう可能性があるということに恐怖を感じた。
俺がこの世界で何もしなければ、幸せが待っている人もいるのではないだろうか?
俺がこの世界で何かすることで、不幸な未来へ進む人がいるのではないだろうか?
考えても結局答えは出ないのに、気分だけは落ち込んでいく。
だからこそ、ひっそりと心に決めていたことがある。
『ノア』に行く、という目的がある以上、ある程度他者と関わることは避けられない。
でもせめて、重大な事態に発展しそうなものには関わらないようにしよう、という決意だ。
ゲームで言うところの『メインクエスト』みたいなものに巻き込まれると、その過程や結果で自分以外の人に迷惑がかかる可能性が高まってしまう。
それで実際に迷惑がかかって誰かが不幸になってしまったら、そしてそれを俺が知ってしまったら、本気で落ち込んでこれからも引き摺っていくという確信が有る。
……だから、個人的に気を付けてはいたのに。
一昨日、雪山での訓練を終えてアスベストスさんと宿泊施設に戻った俺は、テレジアから思いもしていない現状を聞くことになった。
昨日、事前に聞いた内容と伝えられた作戦を信じ、俺は単身でこの『イェラグ』の三大貴族当主達の前に姿を見せることになった。
そして今日、俺とテレジアとアスベストスさんは、ペイルロッシュ家の人達に囲まれながら、朝から『カランド山』に登っている。
問題:国を統治する三大貴族に目を付けられました。穏便に済ませるためには、どこに与するべきでしょうか?
俺が今住んでいる領地を管理しており、仕事でもお世話になっているシルバーアッシュ家?
全くの偶然とはいえ、この勢力の中で最初に接触したということになるブラウンテイル家?
今現在、この三勢力の中で最も広い領地と最も多い人口を有している、ペイルロッシュ家?
答え:『イェラグ』においては宗教がトップです。『曼珠院』あるいは『巫女様』に与しましょう。
この『イェラグ』において、特殊であるシルバーアッシュ家は別として、外国の物や価値観などといったモノは、中々受け入れられ辛い傾向があるらしい。
だが元々この『イェラグ』にも存在しているモノ──例えば『鉱石病』に関する事ならばどうだろうか?
近年、カランド貿易によって齎された製品や商品により、『イェラグ』の人々の生活は大きく向上した。
食べられるものは増え、暖を取ることが容易になり、効率化によって日々の仕事だけに追われることが減っていった。
そうなると、今まで後回しにしていたことの数々に、目を向けなければいけなくなる。
その中でも人々の命に関わるものが、『鉱石病』だ。
──『鉱石病』の理解の浅さ、対応方法が未確立な点を憂慮した『巫女様』は侍従長へと相談した。
──その侍従長は『巫女様』に応えるべく奔走し、ようやく有識者である人物を見付けるに至った。
──侍従長はその有識者達に問題が無いかなどを確認するために何度か会い、その為人を確認した。
──そしてその報告を聞いた『巫女様』は、有識者達と会うことを決めた。
……何というか、そんなカバーストーリーになったらしい。
つまり、『巫女様』の客人なので、分かってるよな? という感じだろうか。
でもこのことを話した時の当主の皆様の反応は、テレジアから聞いた通りのものだったし、実際にその場は穏便に事が進んでくれた。その間に俺が感じ取った感情も悪いものは無かったように思う。
ペイルロッシュ家の当主は納得したように頷いていた。
ブラウンテイル家の当主は残念そうに肩を竦めていた。
シルバーアッシュ家の当主は……表情は変わっていなかったけど、多分『安堵』していたと思う。
……理想はこういったことに巻き込まれないことだったんだけど、知らぬ間に逃げられない状態に陥ってしまっていたのだから、背に腹は代えられない。
それに当主達と会った時と違って、今回の『巫女様』との謁見はテレジアも居るから、大分気が楽だ。
いやー、それにしても……。
「おいオーナー、生きてるか?」
「……生きて、ます」
こんな高い山、登山素人に登らせたら駄目に決まってるでしょ。
かなり前から米俵みたいに担いでくれている、ペイルロッシュ家のグロ将軍とやらには感謝しかない。本当にありがとうございます。