不意に生まれた『イェラグ』での邂逅。
それによって発生した様々な事が片付かずとも、『イェラグ』を取り巻く状況は悠長に待ってはくれない。
シルバーアッシュ家に対して急に申し込まれた訪問に、当主は疑念を持てども断る事は出来なかった。
──果たして、要因は何だったか?
例えそれが分からずとも、結果が変わりはしない。
エンシアの提案によって引き取られた観葉植物は、応接室に置かれていた。
応接室に通された訪問者達──ライン生命から来たその内の一人は、部屋に入った途端にその植物をジッと見詰めた。
そしてその表情はたちまち喜びのそれへと変貌し、他の研究者が恐る恐る声を掛けると、いつもより嬉しそうな声を『彼女』は返した。
そして同時刻。
『イェラグ』の国境付近に停泊していたライン生命の移動艦の一室で、シルバーアッシュ邸の応接室に居るはずの『彼女』と、瓜二つの容姿を持った人物が部屋を飛び出した。
「『シエスタ』に行かないと……!」
待機しているライン生命職員への言いくるめ。
安全かつ最短で向かえる移動ルートの構築。
出会った時のためのシミュレーション。
考えなければいけないことが山ほどあっても、その人物──『ミュルジス』の表情は、喜びと希望に溢れていた。
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「──ふむ、何とも賑やかな都市でござるな」
観光都市『シエスタ』。
時期によっては『オブシディアンフェスティバル』と呼ばれるミュージックフェスが開催されることで有名な都市だが、その時期にはまだ早くとも、訪問する旅行客は後を絶たない。
眼前に広がる人混みを見て、『ロドス』の臨時オペレーターとしてこの都市を訪れた『サガ』は、うんうんと頷いた。
ここならば何かしらの情報が手に入るかもしれない、と。
「……焦っても仕方が無い。まずは腹ごしらえといこう。ええと、モスティマ殿、フィアメッタ殿、レミュアン殿、Ace殿、Scout殿……」
『自分一人で頂くのも申し訳無い。持ち帰れる食べ物も買って行こう』と思い、共にこの地を訪れた仲間達の人数を、サガは指を折って数えていく。
彼女達が訪れた理由は二つ。
一つは、『ロドス製薬』としての『シエスタ』との交渉のため。
一つは、この大地の何処かに居る『オーナー』の情報を探すため。
やがて数え終えたサガは、意気揚々として人混みの中へと歩いて行った。
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光が強ければ影が濃くなるように。
栄えている都市ほど、その二つはより顕著に表れる。
観光都市『シエスタ』の一角、その裏路地。
道に慣れていない旅行者の一人が、近道をしようとして柄の悪い者達に絡まれていた。
だがその旅行者は既に逃げ出し、絡んでいた者達は地面へと転がされている。
その中心で立っているビニール傘を持った少年が、大きな溜息を吐いた。
「うーん……どんな都市でも悪人は居るんだね。……ん?」
遠くから聞こえてくる声に、少年は気が付いた。
旅行者を先頭に、治安警備に当たっている者達が裏路地へと向かって来る。
「さっきの人が呼んでくれたのかな? 別に大丈夫だったのに……」
ここに居ると面倒事になりそうだ、と少年は結論付けた。
転がって呻いている『悪人達』を一瞥し、少年は裏路地の出口へと歩を進める。
その顔には、不満気な表情がしばらくの間残り続けていた。