箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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シエスタ①/67日目

 

 

 シエスタへの到着から一夜明け、ホテルに居るだけでは暇であることに気付いた俺は、アスベストスさんと一緒に街を散策することにした。

 

 ちなみにテレジアはホテルで待機ということになっている。

 本人曰く、観光都市であるシエスタでは人の往来も多く、イェラグよりも身元がバレる可能性が高いからとのこと。

 

 一人だと何と言うか、その、寂しくないですか? と聞いてみたが、微笑みと共に「移動の間に沢山お話が出来たから大丈夫よ」と返されてしまい、何も言えなくなってしまった。

 代わりにお土産くらいは買って来るとしよう。

 

 そして、シエスタの街並みを見て感じたことが一つ。

 

 

「ぶ、文明がある……!?」

 

「そりゃあるだろ」

 

 

 驚く俺を呆れたかのような表情でアスベストスさんが見てくるが、それが気にならないほどに衝撃が大きい。

 

 そう言えば『生息演算』でリターニアを訪れた時も同じような感想を抱いたと記憶しているが、今回のコレはそれよりも数段上だ。

 

 立ち並ぶビル。整備された道路。スーツを着て歩く人。

 喫茶店のスペースでは、スマートフォンらしきものを使用している人すらいる。

 いや、実は薄々感じてはいたんだ。ホテルの部屋に、テレビらしきものがあったから。

 

 ──現代日本と殆ど変わらないじゃないか! 

 文明格差というか、技術格差というか、とにかく凄まじい! 

 

 

「あ、アスベストスさん。あっちに居る人が使っているアレ、何か分かりますか?」

 

「……何って、通信端末だろ。多分」

 

「でもほら、無線機とかとは形が全然違うじゃないですかっ」

 

「あー……どっかで聞いたことはあんな。ここ二、三年で、発展してる都市で使われるようになった奴かもな。国ごとだか都市ごとに、持ってる奴なら独自に形成した情報網に繋げられる、とか言ってたっけ」

 

「ネットワーク……!」

 

「ああ、確かそんな用語も付いてたな。ってか何だよ、オーナーも知ってるんじゃねぇか」

 

 

 この世界の文明とか技術の基準が分からなくなってきた……! 

 

 ゲーム画面でしか見ていないけれど、バベルの人達は持ってなかったと思う。

 そしてもちろんレユニオンでも、影も形も無かった。

 

 リターニアは……ヴィセハイムは主要都市では無いからまだ浸透していない、という可能性があるので保留。

 

 最後にイェラグ。通信端末どころかそもそも機械製品が少なかった。

 あんなに立派な鉄道があるのに! 

 

 

(ゲームの世界だから、現代に合わせた世界観になっているのか……? でも、そうだとしたら地域毎の格差が酷いことになるけど……)

 

 

 あの通信端末がどこまで機能を持っているのか不明だが、内容によっては凄く欲しい。

 そんな俺の気持ちがどこか表れていたのか、アスベストスさんは道の奥の方を指差した。

 

 

「あっちの店の看板がそれっぽいし、行ってみるか?」

 

 

 もし手に入れることが出来て、もし想定しているような機能を持ち合わせているのならば、暇潰しも情報収集もかなり楽になる。

 

 わざわざ外に出なくても良くなるし、そうなってくれれば、道行く人々の感情をいちいち気にする必要も無くなる。

 

 ……ホテルを出てからずっと、伝わってくる感情が強くて困っているのだ。

 悪い感情──恐らくアスベストスさんの鉱石病に関するもの──がキツイのはそうだけど、他の感情──喜びや期待や疑念──もキツイとは思ってもいなかった。

 イェラグの人達が心穏やかな部類だったということも、初めて分かった。

 

 

「ぜひ行きましょう!」

 

 

 期待を胸に、俺はアスベストスさんと共に店へと向かう。

 

 

 そして俺が知っているモノの数倍の値札が付いているのを見て、俺は天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「……我慢我慢」

 

 

 砂浜近くの休憩スペース、そのベンチで俺は、自分に言い聞かせるようにその言葉を吐いた。

 店員に確認したところ機能は想定の半分以下。それでも用途はかなりありそうだったので一つは欲しいところだったのだが、値段を見て止めてしまった。

 

 こちらの資金で買えなくは無いけど、ノアまでの道のりが確定していない以上、先に無駄遣いをする訳にはいかないという理由と、俺一人で多くの金銭を消費するのはアスベストスさんとテレジアに悪い、という理由からだ。

 

 ただまあ完全に諦めた訳ではない。

 道のりや必要資金が判明して、尚且つそれでも資金に余裕が有った時は、もう一度検討すると決めている。

 

 ……テレジアとアスベストスさんにはどう頼もうかな。

『代わりに俺が二人のお願いを叶えるので買わせて下さい!』とかでいけないかな? 無理か。二人とも大人だし、乗ってくれそうにない。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 ベンチに深く背を預ける。

 シーズンじゃ無い、と聞いていた通り、広がる視界で動く人影は随分とまばらだ。

 

 おかげさまで伝わってくる感情も、薄くて助かっている。大通りを歩いていた時とは大きな違いだ。呼吸も上手く出来る。

 

 

「アスベストスさんには気を遣わせちゃったな……」

 

 

 俺の顔色が良くないことに気付いたアスベストスさんは「飲み物買って来るから待ってろ」と言って、何処かに行ってしまった。

 

 ぶっきらぼうな態度を取るけど、アスベストスさんは基本的に優しいのだ。

 ……あんな嫌な思いをした後だというのに。

 

 

『お試しは構いませんが……ええ、問題ありません。どうぞ』

 

 

 通信端末を売っていた店で言われた言葉。

 俺の後ろに居たアスベストスさんに向けられた視線。

 触るのが俺だと分かるや否や、安堵と笑顔を浮かべた店員。

 

 店を出た後アスベストスさんの様子は何も変わっていなくて、彼女は何も言わなかったけれど、確かに悲しみを感じていたことを、俺は知っている。

 

 ……思い出して、また気分が落ち込んできた。良くないループだ。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

 項垂れた俺の視界に、飲料缶が現れる。

 

 何時の間にかアスベストスさんが戻ってきたらしい。

 感謝の言葉と共にそれを受取ろうとして、ふと疑問が沸き上がった。

 

 

 ……今の声、アスベストスさんじゃ無いよな? 

 

 

 顔を上げて──俺は思わず仰け反った。

 目の前に居た人物は、俺の反応を見て笑っている。

 

 

「初めまして、僕はミヅキ」

 

 

 海を思わせるような水色の髪。

 その背後には髪以外のナニカが蠢いているようにも感じる。

 

 そして何より、このミヅキという人物の顔。

 多少の差異はある。だが、それを加味しても──。

 

 

 ──今の俺と瓜二つな顔が、そこにはあった。

 

 

 

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