箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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観光/68日目

 

 

「さて、オーナーの希望でここまで来た訳だけど……大丈夫? アスベストスさん、オーナーっていつもこんな感じなの?」

 

「そうだな、こいつの体力はガキより無いと思っとけ」

 

「歩いて行くなんて言わなきゃ良かった……!」

 

 

 『シエスタ』に建ち並ぶビルの群れから離れた外、都市を象徴するシンボルの一つにもなっている火山の麓近くに、その三名の影はあった。

 生い茂る緑を前にオーナーは息も絶え絶えで、心配そうにその顔を覗き込むミヅキと、慣れたことのように支え代わりに自身の尾を貸し出すアスベストスは、他の観光客の一部からも若干の注目を浴びている。

 

 心配の視線と奇異の視線に何となく居心地を悪くしたアスベストスは周りを睨む。

 その攻撃的な視線に、遠巻きに様子を見ていた観光客達が離れていった。

 

 

「ありがとうございます、アスベストスさん」

 

「……喋る暇があんなら休んどけ」

 

 

 近くに丁度良い大きさの岩を見つけ、半ば強引にオーナーはその岩へと座らされた。

 ミヅキが差し出した飲み物を口にするオーナーを見て、アスベストスが口を開く。

 

 

「大人しく乗り物を使うべきだったな」

 

「……二人とも遠くないって言うから」

 

「まあ、三時間くらいだしね。間違ってはいないでしょ?」

 

 

 『せっかくだから火山の方にも行ってみたい』と発言したオーナー。

 この地の文字に慣れていないオーナーの代わりに地図を見た、アスベストスとミヅキ。

 『そんなに遠くない』という言葉を真に受けたオーナーは、三時間ほどを歩き通すこととなった。

 

 普段真っ当な交通機関を利用しないミヅキとアスベストスだからこそ起きたすれ違いである。

 

 

「途中でいろいろ提案したのに……。オーナーって、変なところで意固地だよね」

 

 

 口ではそう言うミヅキだが、その表情はどこか嬉しげだった。

 何も言わないアスベストスも、その心の奥では似たようなものを浮かべている。

 

 

 

 

 

『……感染者もか?』

 

 

 歩き始めて数十分が経った頃、ビルのせいで見えないとはいえ明らかに火山までが遠いことに気付いたオーナーが、麓行きの乗り物を利用しようとした時に運転手から言われた言葉。

 運転手の視線はオーナーの後方、アスベストスの左目の眼帯から僅かにはみ出していた源石へと注がれていた。

 

 オーナーは『やっぱりいいです』と言って歩くのを再開し、それを見ていた二人は何も言わなかったが、特にミヅキは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 

『やっぱりオーナーは……善い人だね』

 

『深く考えてねぇだけだろ』

 

『ふーん……』

 

『その顔やめろ。面倒くせぇのは一人で十分だ』

 

 

 その会話は、憤って歩を速めたオーナーの耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

「──それで、どうすんだ? あたしとしては登ってみてぇけど、禁止されてるからそうもいかねぇし……」

 

「僕は特に要望は無いかな。……道中でいろいろとお話出来たしね」

 

 

『シエスタ』の火山は活火山であり、観測ステーションが置かれ監視も行われている。

 内部の人間や関係者はともかく、部外者の三人に立ち入る術はない。

 

 そんな二人の言葉を受けて、オーナーはとある方向──観光客向けに設置された露店の方を指差した。

 

 

「あそこでちょっと買いたいものがありまして……」

 

「……お前まさか」

 

 

 夏に開催される『オブシディアンフェスティバル』の名前にあるように、この『シエスタ』ではオブシディアン──黒曜石が産出している。

 

 そして嘘か実か、その黒曜石には『鉱石病に効く』という根拠不明の逸話もある。

 

 住人が言い出したのか、それを生業とする者が言い出したのか、はたまた外部の誰かが言い出したのか。

 それすらも不明ではあるが、『シエスタ』がその噂にあやかって、黒曜石を材料とした宝飾品販売を盛んに行っていることは事実だ。

 

 都市部で売られている物は一流の職人の技によって加工が施されており高価で手が出せない価格だが、オーナーが見つめる先の露店に有る物は小さく形も歪で、値札に書かれている金額もそれほどでもない。

 

 

「……アスベストスさんとテレジアさんに贈りたいなー、と思ったので」

 

「……そうか。ありがとよ」

 

 

 アスベストス自身はその噂を眉唾物の類だと思っているが、オーナーの厚意を無下にするような発言はしない。

 更に言えばわざわざ火山の麓で販売をしているのも、噂に箔をつけるためのものでしか無いのだが、三人の誰もが、そんな無粋なことは喋らなかった。

 

 やがて息を整え終えたオーナーは立ち上がり、二人と共に露店の方へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

「ねぇオーナー、せっかくだから僕のも選んでよ」

 

「それは構いませんが……」

 

「お金は気にしなくていいよ。選んでくれたら自分で買うから。そうだ、選んでくれるお礼にオーナーのも買ってあげよっか?」

 

「……ありがたい話ですけど、お金は自分で出します。ミヅキさんも私のを選んでくれますか?」

 

「うん、任せて!」

 

 





「あたしが用事を済ませるまで、職員の皆は休暇に入ってちょうだい」

(……シエスタは草木が少ないわね。どうやって探すのが良いかしら?)

(とりあえず明日は、植物が多い火山の方へ行ってみましょう)

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