『ノア』の上部、居住区から少し離れた広場のようなところで、サガの薙刀とフロストリーフのハルバードが火花を散らしていた。
時折行われるネームド──戦闘能力が高い者同士による訓練だ。
金属同士がぶつかる音が、何度も周囲に鳴り響く。
それは周りにとって騒音と言って差し支えないものだが、住人達から不満が出ることは無い。
『ノア』を防衛してきた住民達から見れば、その訓練は学びの宝庫だからだ。
十分に離れた場所で見学し、自身では不可能なこと、可能なことへと動きを振り分ける。そしてそれを仲間と共有し、練習を経て実戦に生かしていくのだろう。その目は誰もが真剣だった。
「くっ……!」
「──ふぅ、拙僧の勝ちでござる」
得物の質量差を覆し、ハルバードを弾いたサガの薙刀が、フロストリーフの喉元へと突き付けられる。
フロストリーフが武器を下ろし降参を示せば、良いものを見せてもらったと言わんばかりに、周りの人々は彼女達に拍手を送った。
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「戦闘には自信があったんだけどな……」
少し経ち、周りの人々が仕事へと戻っていった後、フロストリーフはそう呟いた。
元々所属していた軍隊での経験、その後の傭兵生活での経験。
周りから見てもトップクラスの戦闘技術を持つ彼女だが、サガには敵わなかった。
その呟きを耳にしたのか、美味しそうに運動後のご飯を食べていたサガが、その手を止める。
「戦場で戦うならば、拙僧は負けていたやもしれません」
重厚なハルバードの攻撃を刃先でいなし、連撃の隙間を縫って牽制を加えることで、フロストリーフの体力を奪っていく。
それが先の訓練の結果に繋がったのだが、時間にして数分間、戦場ではそんな猶予は無いだろう。
「それでも、負けは負けだ」
「……フロストリーフ殿、迷いが見えるでござるな」
彼女の顔を覗き込んだサガが、そう言い放つ。
フロストリーフは驚いたが、思い当たるところがあったのか、ただただ目を伏せた。
戦って、戦って、戦って。
その度に仲間は少しずつ減り、最後は自分一人になった。
唯一残っていた戦場という居場所を追われ、度重なる戦闘で源石に蝕まれたこの身体は、次の居場所を作らせてくれない。
傭兵として各地を転々とする日々。
その果てに辿り着いたのが、この『ノア』だ。
フロストリーフはここに来てまだ一月程度しか経っていないが、その価値観を変貌させるには十分過ぎる時間だった。
戦わずとも食事が提供され、戦い以外の仕事も与えられる。
いつまでも消えなかった血の匂いが、いつの間にか消え去っている。
鉱石病を疎む人だっていない。
感染者も非感染者も、この『ノア』の上では平等だ。
知らなかったこと。それは同時に知るべきではなかったこと。
忘れかけていた『失う恐怖』を、思い出してしまった。
武器を振るうことも、振るわれることも、今は怖い。
「ふむ、フロストリーフ殿は拙僧と違って、艱難辛苦の道を歩んできたのだろう。拙僧も修行を積んできた身ではあるが、比べるべくもない」
「……あんただってそれなりの道を歩いてそうだけど」
「はっはっはっ! 目的はあれど行く先は分からず、ただ道に迷っているばかりでござる!」
「悩み、立ち止まるのも一興!」と言葉を残して、サガは去っていく。
サガなりの励ましだったのだろう。
その背中に、フロストリーフは遅れて感謝の言葉を投げかけた。
「はぁ……」
空を見上げ、ゆっくりと息を吐く。
最近は肌寒く、吐く息も白い。
少し震える手は、寒さによるものなのか、あるいは恐怖によるものなのか。
「──見捨てられたくない」
今の彼女には、分からなかった。
しかしこの大地は、あるいはテラは、一個人の事情など気にしない。
『ノア』に設置された『監視塔』。その上部に設置された設備が、けたたましい警報を鳴らす。
『 ナントウ! セッキン! ケイカイ! 』
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『生息演算』を始めて……確か2週間くらいだと思う。
つい先日、俺は重要なことに気付き、あることを実行していた。
そのあることとは──。
「『120日目』か。あとどれくらいここに居ようかな?」
そう、ゲーム内時間で20日ほど、『ノア』の移動をしていないのである。
理由は単純で、移動を続けていると他の奴らに見付けてもらえない、あるいは追い付いてもらえないんじゃないかと考えたからだ。
実際お土産を渡したモスティマもあれっきりだし、試してみる価値はあると思っている。
ただ、昨日までは仕事が忙しくてゲームにもあまり触れなかったから、設備の更新やフレーバーテキストを読むだけで良かったけど、今日は仕事も早く上がれたし、移動して新しいことを探してみたい気持ちがある。
……でもせっかく20日も待ったんだから、という気持ちもあるので、悩みどころだ。
「──よし、ケオベに聞こう」
何時からなのか分からないが、ネームドキャラをクリックすると、一部フレーバーテキストが解放されるようになっていた。ちなみに条件は本当に分からない。普通に考えれば好感度とかだろうか?
その中でケオベには『人並外れた精神力と直感』という文面があったので、その『直感』を信じてみようという訳だ。
いつものように『ノア』の祠近くで眠っているケオベをクリックして起こす。
出て来た選択肢は『何かしたいか?』と『何でもない』の2択だったので、前者を選んだ。
『んー、寝たい!』
そう言ってもう一度寝始めるケオベ。
「……待機ってことだな!」
そんなやり取りを日を跨ぐ度に続けること数回。
迎えた『125日目』、画面に待ち望んだポップアップが現われた。
『ロドスが接近しています。対処して下さい』
よし来た!
ケオベ、君にはご馳走をあげよう!
≪Tips≫
『住民詳細』
評価 : 感謝 崇拝
好感度 : 大人→心服
子供→信仰
老人→信仰
ネームド: ケオベ 70%
モスティマ 40%
サガ 45%
フロストリーフ 60%
シャイニング 35%
『ロドスと接触します。貴方の選択を尊重します』