箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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ノア/15日目

 

 

『ノア』の上部、居住区から少し離れた広場のようなところで、サガの薙刀とフロストリーフのハルバードが火花を散らしていた。

 

 時折行われるネームド──戦闘能力が高い者同士による訓練だ。

 

 金属同士がぶつかる音が、何度も周囲に鳴り響く。

 それは周りにとって騒音と言って差し支えないものだが、住人達から不満が出ることは無い。

 

『ノア』を防衛してきた住民達から見れば、その訓練は学びの宝庫だからだ。

 

 十分に離れた場所で見学し、自身では不可能なこと、可能なことへと動きを振り分ける。そしてそれを仲間と共有し、練習を経て実戦に生かしていくのだろう。その目は誰もが真剣だった。

 

 

「くっ……!」

 

「──ふぅ、拙僧の勝ちでござる」

 

 

 得物の質量差を覆し、ハルバードを弾いたサガの薙刀が、フロストリーフの喉元へと突き付けられる。

 フロストリーフが武器を下ろし降参を示せば、良いものを見せてもらったと言わんばかりに、周りの人々は彼女達に拍手を送った。

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

「戦闘には自信があったんだけどな……」

 

 

 少し経ち、周りの人々が仕事へと戻っていった後、フロストリーフはそう呟いた。

 

 元々所属していた軍隊での経験、その後の傭兵生活での経験。

 周りから見てもトップクラスの戦闘技術を持つ彼女だが、サガには敵わなかった。

 

 その呟きを耳にしたのか、美味しそうに運動後のご飯を食べていたサガが、その手を止める。

 

 

「戦場で戦うならば、拙僧は負けていたやもしれません」

 

 

 重厚なハルバードの攻撃を刃先でいなし、連撃の隙間を縫って牽制を加えることで、フロストリーフの体力を奪っていく。

 それが先の訓練の結果に繋がったのだが、時間にして数分間、戦場ではそんな猶予は無いだろう。

 

 

「それでも、負けは負けだ」

 

「……フロストリーフ殿、迷いが見えるでござるな」

 

 

 彼女の顔を覗き込んだサガが、そう言い放つ。

 フロストリーフは驚いたが、思い当たるところがあったのか、ただただ目を伏せた。

 

 戦って、戦って、戦って。

 その度に仲間は少しずつ減り、最後は自分一人になった。

 

 唯一残っていた戦場という居場所を追われ、度重なる戦闘で源石に蝕まれたこの身体は、次の居場所を作らせてくれない。

 

 傭兵として各地を転々とする日々。

 その果てに辿り着いたのが、この『ノア』だ。

 

 フロストリーフはここに来てまだ一月程度しか経っていないが、その価値観を変貌させるには十分過ぎる時間だった。

 

 戦わずとも食事が提供され、戦い以外の仕事も与えられる。

 いつまでも消えなかった血の匂いが、いつの間にか消え去っている。

 

 鉱石病を疎む人だっていない。

 感染者も非感染者も、この『ノア』の上では平等だ。

 

 知らなかったこと。それは同時に知るべきではなかったこと。

 

 忘れかけていた『失う恐怖』を、思い出してしまった。

 武器を振るうことも、振るわれることも、今は怖い。

 

 

「ふむ、フロストリーフ殿は拙僧と違って、艱難辛苦の道を歩んできたのだろう。拙僧も修行を積んできた身ではあるが、比べるべくもない」

 

「……あんただってそれなりの道を歩いてそうだけど」

 

「はっはっはっ! 目的はあれど行く先は分からず、ただ道に迷っているばかりでござる!」

 

 

「悩み、立ち止まるのも一興!」と言葉を残して、サガは去っていく。

 

 サガなりの励ましだったのだろう。

 その背中に、フロストリーフは遅れて感謝の言葉を投げかけた。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 空を見上げ、ゆっくりと息を吐く。

 

 最近は肌寒く、吐く息も白い。

 少し震える手は、寒さによるものなのか、あるいは恐怖によるものなのか。

 

 

「──見捨てられたくない」

 

 

 今の彼女には、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしこの大地は、あるいはテラは、一個人の事情など気にしない。

 

『ノア』に設置された『監視塔』。その上部に設置された設備が、けたたましい警報を鳴らす。

 

 

 

『 ナントウ! セッキン! ケイカイ! 』

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

『生息演算』を始めて……確か2週間くらいだと思う。

 つい先日、俺は重要なことに気付き、あることを実行していた。

 

 そのあることとは──。

 

 

「『120日目』か。あとどれくらいここに居ようかな?」

 

 

 そう、ゲーム内時間で20日ほど、『ノア』の移動をしていないのである。

 

 理由は単純で、移動を続けていると他の奴らに見付けてもらえない、あるいは追い付いてもらえないんじゃないかと考えたからだ。

 実際お土産を渡したモスティマもあれっきりだし、試してみる価値はあると思っている。

 

 ただ、昨日までは仕事が忙しくてゲームにもあまり触れなかったから、設備の更新やフレーバーテキストを読むだけで良かったけど、今日は仕事も早く上がれたし、移動して新しいことを探してみたい気持ちがある。

 ……でもせっかく20日も待ったんだから、という気持ちもあるので、悩みどころだ。

 

 

「──よし、ケオベに聞こう」

 

 

 何時からなのか分からないが、ネームドキャラをクリックすると、一部フレーバーテキストが解放されるようになっていた。ちなみに条件は本当に分からない。普通に考えれば好感度とかだろうか?

 

 その中でケオベには『人並外れた精神力と直感』という文面があったので、その『直感』を信じてみようという訳だ。

 

 いつものように『ノア』の祠近くで眠っているケオベをクリックして起こす。

 出て来た選択肢は『何かしたいか?』と『何でもない』の2択だったので、前者を選んだ。

 

 

『んー、寝たい!』

 

 

 そう言ってもう一度寝始めるケオベ。

 

 

「……待機ってことだな!」

 

 

 そんなやり取りを日を跨ぐ度に続けること数回。

 

 迎えた『125日目』、画面に待ち望んだポップアップが現われた。

 

 

 

『ロドスが接近しています。対処して下さい』

 

 

 

 よし来た! 

 ケオベ、君にはご馳走をあげよう!

 

 





≪Tips≫

『住民詳細』
評価  : 感謝 崇拝
好感度 : 大人→心服
      子供→信仰
      老人→信仰
ネームド: ケオベ 70%
      モスティマ 40%
      サガ 45%
      フロストリーフ 60%
      シャイニング 35%

『ロドスと接触します。貴方の選択を尊重します』
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