箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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危急/69日目

 

 

「……えーと、そんなに細かいところまで分かるんですか? 状態とか意思は私も分かりますけど、過去の事は教えて貰った事が無いんですが……」

 

「あら、そうなの? 聞けば案外教えてくれるものよ?」

 

 

 自称エルフの女性は俺の問いに対し、嬉しそうに様々な情報を語ってくれた。

 花の健康状態、どんな感情を抱いているか、今何をしたいかなど、俺でも知ることが出来ていた情報。

 

 だがしかし、その後に続けて語られた『この子』の過去に関する情報などは、俺でも知り得ないものだった。

 エルフであることを確認するつもりが、想定以上のモノをお出しされてしまった。エルフとしての格が違う、とかが有るのだろうか? 

 

 動植物の事が何となく分かると判明した始めの頃に比べれば、読み取れる情報量は格段に増えているんだけどな……。

 

 

「…………あたしと完全に同じ感覚を持っているという訳じゃ無い、か。違う個体なんだから、それも当然と言えば当然ね」

 

「あの、何か言いましたか? 上手く聞こえなくて……」

 

「──何でも無いわ。それより、同じエルフということは信じてくれたかしら?」

 

「……はい、どうやらそうみたいですね」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……ねえ、どうして開けて出て来てくれないの?」

 

 

 先程までより少し声のトーンが落ちている。

 『共感』が使えなくても、悲しみが込められていることが感じ取れた。

 

 出ない理由……ね。

 彼女がエルフであると分かったら分かったで、会わない方が良い理由がこちらにはあるのだ。

 

 本当は誰かに教えるのは止めた方が良いと言われているのだけれど、試すようなことまでしておいてそれを話さないのは不誠実だ。ここは正直に理由を伝えるとしよう。

 

 

「……エルフには源石に対する耐性が全く無いことはご存じですよね?」

 

「ええ、もちろんよ。あたしも普段から細心の注意を払っているわ」

 

「最近、とある場所で検査をして分かったんですけれど、私の身体には源石成分らしきものがあるとのことで……」

 

「────っ!? そ、それって……」

 

 

 彼女の声は震えていた。

 扉越しでも、激しく動揺していることが分かる。

 

 それを落ち着かせるように、俺は言葉を続けた。

 

 

「ただ、私も専門用語は詳しく無いのですが、『源石融合率』も『血液中源石密度』も全くのゼロと言われました。検査をしてくれた方曰く『前例の無い状態』だそうです」

 

「…………感染は、していないのね?」

 

「そうらしいですが、貴女に移らないという保証がありません。だから、面と向かってお会いするのは避けた方が無難かと……」

 

 

 そこまで言って言葉を切ると、扉の向こうからはいくつかの言葉が聞こえてきた。

 先程聞き逃したものよりも更にか細いそれらは、断片的な部分しか聞き取れない。

 

 おそらく声に出して考えをまとめているのだろう。『耐性』『適応』『希望』という単語くらいは分かったが、それだけでは意味が分からなかった。

 

 少しの時間が経った後、扉の向こうからハッキリとした声がこちらに届く。

 

 

「まずは、そうね。あたしのことを心配してくれてありがとう」

 

「言葉での説明は難しいから結論だけ話すけれど、ここに居るあたしは本体じゃ無いの」

 

「だから一先ず、感染とかは考慮しなくても良いわ」

 

「…………あなたの姿を見せて」

 

 

 正直、凄く迷った。

 

 最終的に扉を開ける判断を下したのは、彼女の事を慮ったからではない。

 仮にここで扉を開けなかったとして、引き下がるような人では無いと思ったからだ。

 

 ……それに運良く今日のところは帰ってくれたとして、あと数日はシエスタに滞在する予定がある。

 そうなると明日以降も、『偶然』バッタリ出会う可能性が出て来てしまうだろう。

 いろいろと話をするなら、今してしまう方がきっと良い。

 

 チェーンを外し、ドアノブを下ろして扉を開ける。

 

 ──ドアスコープ越しに見るよりもずっと綺麗な人が、そこに立っていた。

 

 お互いに一瞬息を呑み、彼女はその手を俺へと差し出した。

 

 

「初めまして、あたしはミュルジス」

 

「……こちらこそ初めまして」

 

 

 そうしてしっかりと握手を交わし────俺の身体は彼女の方へと引っ張られる。

 

 見た時に分かったことだが、彼女の方が少し背が高い。

 抱きすくめられるような形で、俺は彼女の腕の中に収まった。

 

 

「────ありがとう」

 

 

 それが果たして何に対する感謝だったのかは分からない。

 それよりも、俺には気にすべき点があった。

 

 俺の後ろで、扉の締まる音と電子音が響く。

 ……カードキーは部屋の中だ。

 

 

「オーナー、もしかして……」

 

「……フロントに行かないと」

 

「ごめんなさい、嬉しくてつい……。一緒に行きましょう?」

 

 

 『共感』は未だに発動しない。

 本体じゃない、と言っていたし、それが関係している可能性が有る。

 

 謝るミュルジスの表情は、申し訳無さそう──では無かった。

 嬉しそうに、楽しそうに、満面の笑みがそこにある。

 

 

 …………扉を開けたのは、ちょっと早計だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

 オーナー達が滞在しているホテルの外にて、その二人は出会った。

 

 テレジアと別れてから真っ直ぐにホテルへと戻って来たアスベストスの前に、シエスタに似つかわしくない着物を身に纏った女性──サガが立つ。

 

 知らない人物に訝しむアスベストスに、サガは勢い良くその頭を下げた。

 

 

 

「拙僧の名はサガ! オーナーがここに居るとモスティマ殿に聞いて参った!」

 

「そちらはアスベストス殿とお見受けする! どうか話を聞いて頂きたい!」

 

 

 





≪Tips≫

『詳細』
ネームド: ミュルジス 149%
      サガ 140%
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