箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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疑念/71日目

 

 

 テレジアに事情を伝えて、ロドスに居るサガに連絡を取ってもらったのが早朝のこと。

 

 それから一時間後の今。

 ホテルの自室で寛いでいた俺は、サガがホテルの前に到着した事を知った。

 

 想定よりもずっと早い! と思いながらも、俺は何処で話すべきかを考える。

 当然のことながらホテルの自室は、宿泊者では無い者を招き入れることになるから駄目だろう。

 

 かと言って外で会うのは、アスベストスさんとかテレジアに反対されそうな気もするし……。

 

 

「体調が問題無いのなら、私は良いと思うわ。でも、あんまり遠くまで行っては駄目よ?」

 

 

 ──と、思っていたのだが、何とテレジアは快諾してくれた。

 何かと世話を焼いてくれて、こちらを心配し案じてくれるテレジアにしては、珍しい反応だった。

 

 思わず隣に居たアスベストスさんにも目を向けたのだが、彼女も少々驚いているようだった。

 そんな彼女も「積もる話もあんだろ。好きにしな」と言って、俺の外出を許してくれた。

 

 シエスタ数日目にして、初の一人外出である。正確にはサガが居るので、一人では無いが。

 

 

(……緊張してきた)

 

 

 一人で外出することに、では無い。

 そもそも一人行動は、イェラグに居た頃はそれなりに多かったのだ。そしてそんなことに緊張を覚える年齢でも無い。

 

 この緊張は、『オーナーとしてサガに会う』という緊張だ。

 ゲームで接していた頃は、悪感情を向けられるようなことはしていなかったと思うのだが、そこに『一年間ほどほったらかしにしていた』という情報が加われば話は別である。

 

 ……『ノア』の行動方針は俺が決定していたし、生活基盤がゲームシステムありきだとすれば、かなり苦労を強いられた筈だ。

 二ヶ月くらいなら残っている資材や資源で大丈夫だったかもしれないけど、一年だと全く足りない量であったことくらいは覚えている。

 

 

(とりあえずいろいろと確認する前に謝罪をするべきか……)

 

 

 様々な事を考えながら、俺はホテルのフロントへと向かう。

 

 そんな中で、俺の脳裏には一つの考えがちらついていた。

 そうあって欲しいと思う一方で、そうあって欲しくないとも思う矛盾した考え。

 

 それは無責任で、だけども少し気が楽になる。

 

 ……一年もの間、俺が不在でも何とかなっていたというのであれば。

 

 

『ノア』さえ有れば、俺は別に要らないんじゃないだろうか? 

 

 

 

 

 

 ────────

 ────────

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 ホテルの外、入口の前。

 俺と向かい合っているサガは、先程から難しそうな表情をするばかりで声を発してくれない。

 困り眉を受かべる彼女に、俺も何も言えずにいた。

 

 近付く時点で既にお互いの存在に気付いていたが、サガは俺を見付けた瞬間、ぐっと堪える様に身を留めていた。

 俺も歓喜の感情を感じ取ったから身構えたのだが、彼女が向かって来ることは無かったので、結局歩いて彼女の前へと辿り着くこととなった。

 

 その間、俺とサガの目は合ったままだった。

 そのせいで変な間が生まれ、今のようにお互いが言い出せない状況が生まれてしまったように思う。

 

 ……不安とかの負の感情の割合が多くなってきている。

 最適な言葉が思い付いた訳でも無いけど、俺から話し掛けるしかないだろう。

 

 

「この姿では初めまして、ですね。お久し振りです、サガさん」

 

「──そ、そうでござるな。拙僧もオーナー殿にお会い出来て、嬉しく思いまする……」

 

 

 ……あれ? 何でだろう? 

 話し始めは喜びの感情だったのに、最後には悲しみの感情に変わってしまっていた。

 一度はピンと立った犬耳も、力無く萎れてしまっている。

 

 こんな短い言葉の中に失言が有ったようには思えないけれど、結果が全てだ。

 えーと、彼女が元気を出してくれそうな話題と言えば……。

 

 

「ところで、朝食はもうお済みですか?」

 

「いや、急いで伺った故、まだにござる」

 

「それは丁度良かった。実は私もまだなんです。良ければ、一緒に朝食に行きませんか?」

 

 

 サガと言えば食べ物。

 ゲームで会話イベントをこなしていた時も、彼女の話題はその類のものが多かった。

 

 そして俺のこの判断は間違っていなかったらしい。

 サガの瞳にはほんの少しだが元気が灯り、萎れていた犬耳もその硬度を取り戻そうとしている。

 

 積もる話もお腹が空いていては片付き辛いだろう。

 腹が減っては戦ができぬとも言うし、まずは近くの飲食店にでも向かおうか。

 

 

「しかし、持ち合わせが……」

 

「私から誘ったんですから、気にしなくても大丈夫ですよ」

 

 

 躊躇うサガに向けて、俺は手を差し出す。

 

 

「行きましょう、サガさん」

 

 

 立ち上がってくれそうだった彼女の犬耳は……また萎れた。

 

 一体何が駄目だったのか全く分からない。

 ……誰か教えてくれ! 

 

 

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