箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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懸念/71日目

 

 

 ホテル近くの喫茶店でモーニングセットを頼み、時折他愛のない会話を挟みながら、俺とサガは共に時間を過ごした。

 

 ゲームでの印象に比べると大分元気が無かったサガも、食事を進める内に幾分かそれらを取り戻したようで、会話の声音も明るいものへと変わっていた。

 食後のデザートを食べ終えたところで、俺は彼女へと確認したかったことを切り出す。

 

 

「────ところで、聞きたいことがあるのですが……。ノアに居る皆さんの様子は、今どんな感じでしょうか?」

 

 

 俺が意識を失っている間に他の人達の間で共有された情報の内、『ノアの状況』については、俺も後から知らされている。

 だが『ノアに居る住民の詳細』については、情報の優先度としては低かったのか共有がされず、分からないままとなっていた。

 

 これに関しては、今居る人物の中だとサガが一番詳しいはずだ。

 そう思っての問い掛けだったのだが、彼女の表情には迷いが見て取れた。

 

 俺の視線に気付いたのか、サガはサッと目を伏せる。

 

 

「その、オーナー殿には何処まで話すべきか……」

 

 

 感じ取ったのは、不安の感情。

 

 恐らくだが、それを聞くことで俺がノアに行くことを躊躇するとでも思ったのだろう。

 ……躊躇してしまうような内容が出てくる可能性が有る、というのは少し恐ろしいけれど、聞かないで行く方がもっと怖い。

 

 

「テレジアさんから聞いたかもしれませんが、私はノアに行きます。この決定は揺るがないので、話せる範囲で詳しく教えて頂けると嬉しいです」

 

 

 サガを安心させるために、ほんの少し嘘を吐く。

 もしも恨まれたりしていたら、大いに揺らぐ自信があった。

 

 俺の言葉を聞いて、サガは意を決したのかその口を開いていく。

 

 

「まず大多数の住民についてでござるが、ロドスの協力も有って元気に暮らしておりまする」

 

「ごく少数の住民や拙僧、シャイニング殿、フロストリーフ殿、ケオベ殿に関しては、ロドスで臨時オペレーターとして働いている次第」

 

「働く理由は様々だが……殆どは協力の対価でござる」

 

 

 彼女の口から、俺の知っている名前が出る。

 ごく少数と言った住民についても詳しく聞いてみれば、挙げられた名前は、比較的能力値の高かった住民達であることも分かった。

 

 ……つまり出稼ぎのようなものだろうか? 

 何時頃からそうしているのか、そしてそうなった経緯を問い掛けると、サガが少し言葉に詰まった。

 

 

「…………臨時オペレーターとして働き始めたのは、ノアが機能のいくつかを停止し始めた頃……半年ほど前だったか」

 

「その頃には既に炎国の龍門という移動都市、そして付近で遭遇したロドスと貿易を行っていたのだが……」

 

「如何せんノアの技術力に頼り過ぎていた。住民の生活を維持するには、ロドスの協力が必要不可欠になったのでござる」

 

 

 感情の部分から考えても、サガが嘘を吐いていないことが分かる。

 

 そこまで聞いて、俺は事実を再確認した。

 どうやら本当にゲームをしていた頃の最後の記憶──ラテラーノに到着直前の時から、かなりの時間が経過しているらしい。

 

 イェラグで目覚めてテレジア達に出会うまでの間、俺は一体どうなっていたのかは気になるところだが、考えたところで答えが出る訳も無い。一旦このことは置いておくしかないだろう。

 

 そんな俺の意識を引き戻すかのように、サガは言葉を続けた。

 

 

「……正直に申せば、拙僧もオーナー殿に聞きたいことが山ほど有る」

 

「だがこうやってオーナー殿を無事見付け、本人の口から帰って来る意志も聞くことが出来た」

 

「容易に語れぬ複雑な事情もあると見た。故に拙僧から深くは聞かぬことと致しましょう」

 

 

 彼女は、そこで一度言葉を切る。

 一瞬の迷いを感じた後、不安と期待が混じった状態で、彼女は再び口を開く。

 

 

「オーナー殿さえ良ければ、ノアに居た頃のように接して頂けるとありがたい。よそよそしくされるのは……少々寂しいでござる」

 

「えーと、例えばどうすれば良いでしょうか? 敬語は癖のようなものなので……」

 

「拙僧のことは……呼び捨てだったではないか」

 

 

 こちらを少し責めるようなサガの口調。

 ただ俺の感覚としては、『まあそれくらいで良いのなら』というものが近い。

 

 呼び捨てくらい減るものでも無いし、相手側から望むのなら断る理由も無かった。

 

 

「……これからよろしくお願いします、サガ」

 

「──ああ、任されよっ!」

 

 

 胸を張ってそう答えるサガは、出会ってから一番の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、ノアの住民の状況が詳しく語られる。

 

 

「シャイニング殿はノアに居る時は毎朝、オーナー殿に向けて無線機に語り掛けていると聞いているでござる」

 

「フロストリーフ殿は戦闘関連の仕事を多く請け負っているが、ちゃんと休むよう伝えても中々聞いてくれぬ」

 

「ケオベ殿は一見すれば変わって無いように見えるが……、独りの時はどこか上の空でいることが多くなった」

 

「……住民達も、諍いが無い訳ではござらん。元々住んでいた者と新しく来た者とで、争うことも珍しくない」

 

 

 ……うん。ちょっと揺らいだかもしれない。

 

 

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