箱庭ゲーム『生息演算』   作:キノント

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シエスタ③/72日目

 

 

「────オーナー、こっちこっち」

 

 

 シエスタの飲食店街。

 少し騒がしさが残るその通りを地図を確認しながら歩いていた俺は、目当ての人物からの声に気付き、その方向へと顔を向けた。

 視界にはスイーツショップのテラス席が映り、その一角でこちらに手を振る女性──モスティマと目が合った。

 

 

「モスティマさん、お待たせしました」

 

「私もついさっき来たところだよ。先にこれとこれ、君の分も頼んじゃったけど良かったかな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 小走りで近付いて声を掛けると、彼女は微笑みながらメニュー表を指差した。

 どうやら俺の分の飲み物とスイーツを頼んでおいてくれたらしい。

 

 ……朝食代わりにスイーツを食べるのは、彼女のようなラテラーノ人にとっては普通の事なのだろうか? 

 リターニアの時もレミュアンがスイーツを沢山食べていたし、甘い物が大好きだという国民性は伊達じゃ無いのかもしれない。

 

 モスティマに促されて席に座ると、俺の前には彼女の右手が差し出されていた。

 こちらも右手を差し出して握手を交わすと、彼女の視線が俺の顔を確認するかのように動いたのが分かった。

 

 

「改めて……初めましてオーナー。思っていたよりも随分と若いんだね」

 

「こちらこそ初めまして、モスティマさん。……どんな容姿だと思っていたんですか?」

 

「容姿というか雰囲気の話になるけど、もっとこう……疲れた大人を想像していたんだ。……ちょっと失礼だったかな?」

 

「あはは、気にしなくて大丈夫ですよ。ノアの頃みたいに気軽に接してくれると助かります」

 

 

 正解、という言葉は口に出さないでおいた。

 何だか騙しているようで申し訳ないが、実年齢を示せる証拠が何一つ無いので、他者から見たものにお任せするしか無いのである。

 

 

「ところで、レミュアンさんとフィアメッタさんはどちらに?」

 

「彼女達なら、ほら」

 

 

 モスティマが目線で俺の後方を指す。

 振り向くと、離れた道路向かいの別のスイーツショップに二人の姿が見えた。

 

 俺の視線に気付いたフィアメッタは、飲み物を口にしながら軽く頭を下げて会釈し、隣のレミュアンは、フォークでスイーツを口にしながらひらひらと手を振ってくれた。

 見間違いだろうか? 彼女達のテーブル、特にレミュアン側に、凡そ一人で食べる量には見えないスイーツがあったような気がする。

 

 こちらも頭を下げて挨拶をしてから、俺は再びモスティマへと向き直った。

 

 

「本当は同席のはずだったんだけど……昨日、サガからオーナーのアーツに関することを聞いて、私一人にしたんだ」

 

「……えーと、じゃあ、その……知ってる、ということで良いんですよね?」

 

「……サンクタの『共感』に近いもの、とは聞いてるよ。聞く限りだと細部は違うみたいだけど」

 

「モスティマさん達が知っているなら話が早いです。いろいろとこちらも確認したいことがあるんですが、何より聞きたいことが一つあります」

 

「何かな?」

 

「このアーツ、サンクタの人達に知られたらまずかったりしますか?」

 

 

 俺の質問に、モスティマは顎に手を当てて沈黙した。

 先程までの緩い表情が消え、その瞳には真剣なものが灯っている。

 

 辺りの騒がしさをBGMにしながら待つこと十数秒。

 考えが纏まったのか、彼女はようやく口を開いた。

 

 

「結論から先に言うと、サンクタ相手に限らず、余計に吹聴するのは止めるべきだね」

 

「……理由をお願いします」

 

「サンクタの特徴として、見た目とかだと『光輪』と『光翼』と『守護銃』、後はご存じ『共感』があるんだけど……」

 

 

 一つ例を挙げる度に、彼女はその手の指を立てていく。

 四つ立てたところで、彼女は俺の方をジッと見た。

 

 

「この中で、全容が判明しているものってどれだと思う?」

 

「その中だと……やっぱり『共感』でしょうか。私が他のものに詳しくないというのもありますが、役割がはっきりしているものなので」

 

「うん、外れ。正解は……どれもよく分かってないんだ」

 

「……本当ですか?」

 

「私は特殊な事情があるから例として省くことになるけど、多くのサンクタ人はサンクタとしての能力を、漠然とした感覚と長年の経験だけで使用していると思うよ。きっと誰に聞いても違う答えが返ってくるんじゃないかな」

 

「今も研究とかはされたりしていないんですか?」

 

「そうだね。もしかしたら私が知らないだけで研究は今もされてるかもしれないけど、それこそオーナーのソレは格好の研究対象になると思わないかい?」

 

「あっ……」

 

「一応言っておくけど、研究をしているのはラテラーノだけとは限らないからね?」

 

 

 追い討ちをかけるかのようなモスティマの言葉に、俺は黙ってしまった。

 

 そうか。

 『これは私のアーツです』と言い張れば問題無いと軽く考えていたのだが、サンクタの『共感』に近いものと分かれば、そちらの研究の糸口のためにこちらへと矛先が向く可能性を失念していた。

 

 俺でもヤバさが分かるエネルギー関係のアーツはともかく、デメリットもあるけど便利だと思っていた『共感』にも落とし穴があったとは。

 ……俺の身体、何というか手に負えないものが多過ぎやしないだろうか? 外部要因と内部要因の問題が、積載過多を起こしている。

 

 

「オーナーにはいろいろと恩もあるから、ラテラーノへの報告は何とか誤魔化しておくよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「レミュアンとフィアメッタも同意してくれてる。……後で時間を作ろうか?」

 

「すみません。お二人にもちゃんとお礼を言いたいので、よろしくお願いします」

 

 

 モスティマの気遣いと配慮に感謝の言葉を述べていると、注文した品を持った店員がテーブルへとやって来た。

 

 並べられていく美味しそうなスイーツを見ても、今の俺はちょっと食欲が湧かない。

 そんな俺を見て、モスティマはどうやら心配をしたようだった。

 

 

「ほら、そんなに気を落としてないで、ここは私達の奢りだから食べてみてよ」

 

「……頂きます」

 

 

 彼女に促されるまま、スイーツを口へと運ぶ。甘くて美味い。

 俺に続いてモスティマもスイーツを口にすれば、喜びの感情が伝わってきた。

 

 ……せっかく美味しいものを食べているんだから、考えるだけで怖くなる話題はここまでにしよう。

 

 他の話題、他の話題……。

 ──そういえば、気になることが最近一つ出来たことをふと思い出した。

 

 モスティマは博識だし、トランスポーターとして各地を飛び回っているらしいから、もしかしたら何か知っているんじゃないだろうか? 

 

 

「モスティマさん、お聞きしたいことがあるんですけど────」

 

 

 

「────『シーボーン』って、聞いたことはありますか?」

 

 

 

 俺の問い掛けに、彼女はピタリと動きを止めた。

 次いで彼女からの様々な感情が、俺へと突き刺さる。

 

 そしてもう一つ、俺の後方。

 レミュアンとフィアメッタが居た方向からも、僅かではあるがモスティマと似た感情が俺へと届いている。

 

 昨日ミヅキさんから初めて聞いた単語なのだけど……既に嫌な予感しかしない。

 

 

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