俺はどこかもわからない山の中で月明かりのみを頼りに追ってくる者たちから逃げ回っていた。追手の足音から数は二桁を超えているということのみが分かっている。
一体俺が何をしたというのか、ここ数日はもうずっと考えている。学生服から着替えることも許されず追われ続けるこの苦痛を彼らは理解しているんだろうか、そんなわけもないか。最初の、出会いがそうだったのだから。
思い起こせばついさっきの出来事のようにも感じるしはるか遠くの記憶にも感じる。昨日から寝てないせいだ、絶対にそうだ。
それは数日前の放課後のことだった。マントで体を覆い隠し顔すらも隠した、いかにも怪しい奴だった。
『
そういって襲い掛かってくるものだから人生初の首トンを決めた。できるもんだね首トン。だが、それは事の始まりに過ぎなかった。最初のそいつが倒れたとたんに死角からわらわら虫のように飛び出してきては襲い掛かってくる、だから逃げ出したのだ。さすがに全員首トン決めるには手が足りないと思ったからだ。
気絶させても逃げてる間に起きてきてはまた襲いに来るという繰り返しだから数も減らない。そんな堂々巡りの状況に陥っている。とはいえ、そんな状況をいつまでも続けるのも嫌なので今日で終わらせる予定だった。
木々に覆われた山の中で十円禿のように開かれた場所で立ち止まれば、足音も森から出ないまま俺を囲うように広がって止まる。その中から一人だけが進み出てくる。おそらく最初の奴だ。
「子供一人をよってたかって追い立てて恥ずかしくないのか」
「盗人に子供かどうかなど関係ない、すべて等しく悪だ」
「だから、いったい俺が何を盗んだっていうんだよ」
「聖剣だ。持っているのだろうあの剣を! かの騎士王の剣を!!」
「……剣は持ってる」
鞘から引き抜くように何もなかった空間から眩い光とともにその剣が引き抜かれる。その威容はまさしく聖なる剣。王の剣と呼ぶにふさわしい力を秘めていることが一目で見て取れた。
「やはり……っ!」
「まさしく! おお! それこそまさに!!」
また別の一人が狂ったように抜け出して襲い掛かってくる。本当に理性の欠片もないような奴らだ。
俺の意思に呼応するように聖剣の光が増し、光の柱が俺の周りを囲むように集う。
「まて──!」
「──
《承認ーー「要らん!」》
いつもの女の声、それに否を突きつけると同時に光の柱も霧散した。それでも剣の纏う光はたかだか二桁ほどの人数には十分な威力を有している。
掲げられた聖剣、放たれる圧力はすでに数秒前とは比べ物にならないものになっていた。
「『
山肌に突きつけられた剣を中心に地面が塵のように崩れ去り半径50メートルにもなるクレーターが作り出された。
そこに倒れ伏すのは意識を失ったらしい追手のものたち。顔をのぞきこんでみれば外国人らしいほりの深いもの達が多いことに気づく。握りこんだ剣を見つめて深いため息を一つ吐き出した。
「……貧乏クジを引かされた気分だ」
剣を狙った襲撃というのは、実は今回が初めてって訳じゃ無い。数年前あたりから難癖付けて迫ってくるのもの達は数多くいた。それは時に個人であり団体であり……人ではなかった。
運命なんかではない意図的な何かを感じながら今回も、大人しく帰路につくしかなかった。
「せめて仲間がいるか、もしくは金になれば話は変わるんだけど……」
何とか家にたどり着くと風呂に入る間も布団にたどり着く気力さえ無いままに床で泥のように眠ってしまった。
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──あの男、騙したな!
光量を増し続ける王の剣を前にその者は内心であの少年の情報源に対して吐き捨てた。
『貴方たちの王の剣を盗んだものが日本にいる。「浅野勝利」という少年だ』
仏教徒の坊主が来ているような服装をして額に縫い目のある男はその団体の拠点へと単身で赴いてはそう言った。団体側からして怪しいという考えは当然あったのだが、もしも男の情報が本当ならば、それは許されざる大悪である。そうして彼らは確認のために日本へと派遣されたのだった。
──いったい誰が何を盗んだというのか!!
しかして、彼女の目に映るは剣の放つ眩い光、のみではない。それは、王。どこにでもいる少年であり日常に生きる只人でしかなかったはずの彼は今、どうだ。
正しく王の威容。それは決して剣の威を借る悪党では無い。聖剣をその両の手で支配せしめた純正の王威である。
──嗚呼、王よ。なぜ、こんなところに……。
迫る光は意識を刈り取る脅威を持ちながら決して人を滅する鋭さを持たなかった。不思議な暖かみに包まれて彼らは意識を落とした。
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「『推定特級呪詛師』浅野勝利、君を拘束させてもらう」
次の日の朝、玄関先にて俺は──変態に出会った。
細々続けていきたいなと思っております。