刺客のバリエーションも来るところまで来てしまったか。
俺は目隠しをしたまま茶をすする高度な変態プレイに興じる男を前にある種の戦慄を覚えていた。
「すみません、お待たせしました五条さん」
シャワーを浴びスッキリした俺は彼、五条悟を家にあげて急ぎ十数分してやっと相対したというわけなのだが、彼は驚くほど自然体だ。変態プレイが自然体というのもどうかとは思うがそれはそれだ。
「いやいや、こっちこそ。寝起きだったんだ?」
「はい昨日少々……その、疲れてそのまま寝てしまって」
なんで刺客とおぼしき人物とこんな会話をしているのかと言うと彼が少なからず話が通じるからである。というのも彼より以前のもの達はそのほとんどが話が通じないような──狂人、であったのだ。残念なことにひと握りの話が通じるものたちも会話は出来なかったのである。
「そりゃそうだよねぇ何日も追われ続ければ誰でも疲れる。僕だってそうだ」
「──なんで知ってる」
「そう警戒しないでよ。僕は話をしに来たんだ、下調べもするさ」
一度剣の柄を手にしてしまうと離すことができなかった。それはどうにも目の前の男から発せられる気持ち悪さが気になったからだ。ずっと探られてるような、目隠しをしているはずなのに不躾な視線を向けられているような不快感が拭えない。
「……直感が驚くほど鋭いのかな」
そう言った男は目隠しを取った。目隠しを取るのに閉じられた目、それが開かれた。瞬間、ゾワリと全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
「気持ち悪い目だ」
「ぷっハハ! そう言われたのは初めてだ」
「こっちの全てを覗き見るような……あんたみたいな変態が一番持っちゃいけないものだ!」
「えっ変態?」
「ああそうさ! 常時目隠しをした一人Mプレイをする黒ずくめの男が真っ当なわけないだろ!」
「真っ当では無いけど! それはそれとして僕変態なんかじゃないんですけど!!」
「嘘をつくな! 人の全てを見透かすみたいな目で他人に見せたくないものまでズケズケと覗き見たんだろう! この変態が!!」
「そこまで見えないけど!? せいぜい術式と呪力の流れくらいですけど!!?」
「じゃあその気持ち悪いもんしまえよ変態!」
「まってそれ別の意味に聞こえるから!!」
──少しして……。
「……落ち着いたかい、ほらしまった、ね?」
「はい……すみません」
「うん、僕今君が怖いよ……」
二人して冷や汗を浮かべて言い合い男がまた目隠し男にもどったことで事態は一旦の落ち着きを得た。
そうなると今度は彼の正体とその目的が気になり始めた。そもそも俺はなんでこうも簡単に不審者を家に上げているのだろうか? 我ながら異常事態に浸かりすぎているのではないだろうかと思う。
「それで、貴方なんでここに来たんですか。勘違いじゃなきゃ俺に会いにわざわざ」
「上の命令でね、君を逮捕するために来た」
なんでもないように言い放ったその言葉にそれほどの驚きはなかったがそれよりもどこかに俺自身の情報が出回っているような言い方の方が心配だった。
「あー、その……もしかして俺ってどこかの界隈で有名なんでしょうか……ずっと俺を追ってくる奴らがいるんですよね」
「へぇ、じゃあその中に僕みたいな黒い服をした人たちはいたかな」
「黒い服……いたようないなかったような、そのくらいの特徴は現代じゃありふれてるでしょうに」
「……それもそっか、うん結論から言うと君はかなり有名だよ」
「えぇ……」
「ああ安心していいよ、個人情報は無事だ。問題はやった事の方だよ」
一体何が安心できるというのかこの男は、名前と住所なんぞ明かされなくても足跡がわかっているなら辿り着くやつは必ずいるのだから、現に目の前にいるし。
「2年くらい前からかな、時折ここ周辺で爆撃みたいなクレーターと一緒に濃い残穢が出るようになった。それを追ってみたら、つい昨日君にたどり着いたってわけさ、今どき君みたいな派手な呪詛師は全く居ないんだから」
「……まあ何となく経緯は分かりましたけど、正当防衛とか成立しませんか。殺されかけてるんですよ一応」
「無理だねーそういう次元の話じゃないし、その言い分は警察に言ってほしいかな」
「あんた警察じゃないのかよ」
「逆に聞くけど警察だと思えるとこあった?」
「無い」
ニヤニヤニヤニヤ薄ら笑い。この男のことはこの数時間もない付き合いだがすでにこの先も好きになれそうにない。
「お偉いさんがね、心配症なのよ。不穏分子はとことん消したいらしい……そこで! 君には道が2つ残されてる」
「いや、おかしいでしょ勝手に決めないでくれよ」
俺の文句には一切取り合わず男はさらに話を進めていく。
「ひとつは拘束、一生ね。縛られ続けるの、ヤでしょ?」
「クソくらえって感じ」
「ふたつめは僕に殺されること、まあこれがあっちにとって最もリスクがなくてわかりやすい。危険がなくなってハッピーハッピーって感じさ」
二本の指を立てて不敵に笑うその男はニヤケがありありとそのムカつくツラに浮かんでいる。こちらの返答などお見通しだと言わんばかりにだ。
「ある意味究極の二択ですね。仮に選ぶとしたらだけど」
その答えに男はクツクツと笑っている。
「まあそうだよね。じゃあ行ってみようか──三択目」
三本目の指を腕を振り上げながら大袈裟に立てると彼は俺をもう片方の手で指さした。
大袈裟に盛り上げようと張り切る彼に温度差を感じながらも何を言い出すのか、びっくり箱てきな興味を惹かれている。
「君、呪術師にならない?」
これほど突飛な話を平然と繰り出す彼に俺のテンションは地の底に沈んだ。そんなの──
「──お金出るよ」
──やるに決まっている。