術式:聖剣エクスカリバー 改め   作:錯乱坊

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3話

 肌がピリつくような冷えきった空気感。座席が4つに2人だけの生徒、そのどちらもどこか厳しい目つきをしている。

 

「新しく呪術師になる浅野勝利君でーす! はい拍手ー!!」

 

 パチパチパチと虚しい音が1つだけ鳴っている。これはいったい何なのか、外から一人寂しげに転校してきた同級生をなんだと思っているのか。

 俺は今地方から転校という扱いで東京に来ていた。呪術高専とかいう見たことも聞いたこともない割にバカでかい敷地の特殊な高校だ。呪術などという概要も怪しければその内情も怪しい。俺は目隠し変態男こと五条悟の口車にまんまと乗せられてきたわけだけれど、よくよく考えれば『呪術師』なんて職は聞いたこともない。しかし学生に給料が出るということはそれなりに『現場』があって人手不足だと考えられる。もしくは将来的にとても期待されている立場ということなのだと考えられる。ということは期待に裏打ちされた厳しい訓練が当たり前で、とても過酷な日々をここの生徒たちは過ごしているのだろう

 そう思えば心做しか目の前の2人の学生もどこか荒んだ目をしているような気がしてくる。そういうことならばこの針のむしろのような空気も甘んじて受け入れよう。

 

「ちょっとちょっと恵も野薔薇もテンション上げてよ、転校生だよ転校生!」

 

 空気を読まない変態の盛り上げは逆効果のようでなんだかより厳しい空気になった気がする。うっすら浮いてたこめかみの血管がより浮き彫りになったようなそんな感じだ。

 黒くてツンツンの、ウニのような男の子が我慢の限界というように立ち上がった。

 

「……もういいですか五条先生、このあと真希さん達と訓練の予定なんです」

「私もー」

 

 女の子の方も背もたれにぐったりとつまんなそうに虚空を眺めながら同意した。空気は地獄だ。誰がつらいって、俺が辛い。

 心に深い傷をおっている俺の肩に暖かな手が乗っけられた。

 

「あちゃー! 人気ないね、ドンマイ勝利!」

「うるせえな変態教師」

 

 手を叩いて払った、ついでに肩も手で払った。しかし、この状況はよろしくない。このままではお金は手に入っても仲間ができない。それは死活問題だ。なにせ、この変態の口車に乗せられてここに来たはいいものの『呪術師』が何なのかとか、何をするのかすら聞いていないのだから、そしてそれをこの隣の変態から教えてもらおうなどということは期待できない。

 つまり、仲間が必要。2人が立ち去る前に黒板にチョークを走らせでかでかと名前を書く。大丈夫、変態、いや五条先生から『ある武器』も得ている。

 

「聞いてくれ! 俺の名前は浅野勝利(あさのかつとし)趣味は料理で特技はバク転! 2人は!?」

「……伏黒」

「釘崎野薔薇よ」

 

 思ったよりも彼らは良い人かもしれない。なんだか不安が晴れていくような気持ちだ。

 

「よかった。ほんとうによかった。これからよろしく……あっそうだ。両面宿儺っていう悪党も最近死んだんだろ? 俺も運がいい、2人もそう思わな──っ」

 

 釘と槍が飛んできた。槍はわかるけど……釘? え、いやそもそも学生が槍ってのも……ていうか黒板に刺さって、あっ俺の名前割れてる……。

 

「次は当てるぞ」

「考えて口開けよボンクラ」

「こらこら2人とも! 『事情も知らない』転校生に手上げちゃダメでしょ!」

「おい、この情報(これ)を教──ムグッ」

 

 両面宿儺とかいう化け物が死んだという情報(じらい)をくれやがったのはこのクソ教師だ。「武器になるよ」とかほざいていたが実際に使ってみたら武器が飛んできた。今も俺の口を塞いで堂々証拠隠滅していやがる。

 

「──ちょうどいいし3人で訓練しなよ」

「はぁ!? なんで私達がこいつと!」

「なんか企んでんならはっきりいってくださいよ」

「え、言ってイイの?」

「まだろっこしい茶番やるよかいいでしょ」

「じゃあ言わせてもらうけど ──今のままじゃ万年たっても宿儺の指3本にも勝てないよ」

 

 ナチュラルだ。ここに来てナチュラルに言いやがったこの教師。事情は知らないけどこれはムカつくなぁ。

 

「ッ……! そんなこと分からないだろ」

「分かるよ。だって恵はピンチになったら『アレ』使うでしょ、それで勝ったとして恵の勝ちじゃないよ、そのくせ恵は死んでおしまい。だからさ、もっと死ぬ気でやりなよ」

「……」

「ちょっとアレってなによ? 奥の手があんならいいじゃない何黙ってんのよ」

「野薔薇もさ、基礎もうちょい固めた方がいいよ。術式決めるにも大変でしょ条件さえ揃えば僕の無限も越えられそうなのに、まぁ? その条件が無理なんだけどね」

「クソッここぞとばかりに正論キメてんじゃねえぞ!!」

 

 なんか知らないけど変態が生徒を煽り散らしている。今、どういう状況なんだろうか? 俺の口は塞がり怒り狂っていた2人の学生はそれぞれが思い悩んだ顔をしていたりまた別種の怒りに狂っていたりする。なにはともあれ、なんだかんだこの変態のおかげで俺の失言も有耶無耶になったような気がするし少しばかりの感謝を捧げよう。

 

「ってことで、ここにいる宿儺の指数本くらいなら余裕で勝てそうな勝利くんと訓練してみない?」

 

 2人の熱い眼差しがこちらに向いた。俺の学校生活が終わった。

 

「本気で、殺す気でやりなよどうせ無理だから」

 

 あと変態クソ教師は後でたたっ斬る。

 

 

 というわけで校庭だ。変態監視のもと訓練という名目で俺vs伏黒くん&釘崎さんペアという形で戦うことになった。なんでナチュラルに2対1なんだろう? ていうかほんとうに戦うの……?

 こっちは前の学校指定のジャージ、向こうは戦う呪術師に配られるという制服兼戦闘服らしい、この時点で見栄えが段違いで、スライムが装備ガチガチの勇者たちの前に1体で出ていくのと何ら変わらない絵面だ。

 だがしかしスライムにも1体で出てきたなりの意地があるのだ。

 

「さ、よーいドン」

「えっそんな軽く?」

 

 パチン。と手を軽く叩いた変態に反応したのは彼らだった。俺は酷い遅れをとることになったが……思ったよりも問題がなかった。というのも合図と共に間髪入れず獲物を手に走り出した釘崎さんも何やら手遊びをしている伏黒くんも見えていたからだ。だから問題ない。そう感じただけの話だ。

 

 

 ▼

 

 

 それは転校初日のその男と戦う直前のこと、釘崎も伏黒も自分が冷静では無いことはとっくに気づいていた。故に努めて冷静に相手を見据えていた。

 

 彼らは少年院での任務で虎杖悠仁の死を受けて再起の時と己を奮い立たせた。

 それから数日、空気を読めと言いたくなるようなタイミングで登場した転校生には興味の欠片も向けていなかった。しかし転校生は意図せず彼らの地雷をもっとも最悪な形で踏んでしまった。当然怒る、それを抑えろというのは彼らには酷な話であった。

 思えば浅野に情報を仕込んだ五条の手のひらの上だったのだろう。

 彼らは今、この先幾度となく現れるであろう成長の岐路に立たされている。それは大小あれど若かりし頃の五条にも訪れたものだ。

 己の力の根幹を完膚なきまでにへし折られる。しかし、二度と同じ轍を踏まないために力を磨く。そういう時だ。そういう時ゆえに大事なのは材料であると五条はふんだ。とはいえ身近な死という非日常を体感したからこそ学校生活、先輩との交流などといった日常に戻ることでの療養もいいかもしれないとも考えている。

 それでは五条の望むような爆発的な成長には繋がらないということは分かりきっている。だが貴重な学校生活を奪ってまで生徒を強くしようとは考えていなかった五条の元にひとつの材料が転がってきた。

 2年ほど前から各地でクレーターを作り時には同じ場所、同時刻に連続で同規模の呪力反応を感知したことで『推定特級呪詛師』の位がつけられた。当時14歳の少年、特級のしかも呪詛師という立場。最初はただの任務であったが五条は次第にその価値を見出した。

 そのために呪詛師を呪術師に転向させ、さらに学生として迎えるという暴挙を果たし『材料』として、同時に生徒として伏黒や釘崎の元へと連れてきた。ほんの僅かに『自分に並ぶ逸材』としての期待も込めて。

 

 そうして今。同級の格上を安全に体感させるという貴重な体験をさせるに至る。

 

「さ、よーいドン」

 

 五条に煽られながらも冷静さを取り戻していた釘崎らは戸惑う浅野を置いて試合を決めに行く。五条との付き合いに関しては釘崎らの方が長くそして浅野は日が浅いゆえに彼の軽薄さの見積もりが甘かった故の差だ。

 かなり素早いスタートダッシュに伏黒の脱兎による目眩しのサポート、そして、冷静さとそれに隠された怒りによる深い没頭。叩き飛ばされる釘が一瞬火花を散らす。

 

 あわや黒き閃光が輝くかと思ったその時、脱兎が掻き消えた先には何も無かった。

 いないことを確認した釘崎はすぐに周囲を探るためにまず背後を振り返った。

 

「兎、可愛いね1匹貰ってもいいかな、ダメ?」

 

 伏黒の近くでしゃがみこみ暴れる脱兎をものともせず撫で回しているソイツがいた。思わず飛び退いた先で伏黒はすぐに掌印を組むと同時に影の中から呪具の槍を取り出す。

 

「っ! 『玉犬・渾』! 釘崎挟むぞ」

「ぇ、えぇ!!」

「可愛い兎に強そうな犬……びっくり箱みたいな能力だ」

 

 うさぎを手離して棒立ちの浅野に襲いかかる金槌と爪と槍。

 

 ──違和感。

 

 伏黒と釘崎に走る気持ち悪い感触。相手はこちらを一瞥もしていないのに、完全に同時攻撃が決まるという今の状況に、まだ確かな確信を持てない気持ち悪さ。

 

 違和感。

 

「壊すな」

 

 次の瞬間、響いたのは五条の声。伏黒と釘崎が目にしたのは浅野が玉犬の背に乗り立ち首筋に剣を突き立てようとしている姿だった。ご丁寧に玉犬が逃げないよう足の健を切られているようだったのも相まって浅野が持つ剣はギロチンのように見えてしまう。

 そんな状況から五条の制止がなければ玉犬は今頃取り返しのつかないダメージを負っていたと容易に想像出来てしまえた。その延長線の自分たちも……。

 

「……参った」

「そうね……完敗だわ」

 

 2人は拭えない悔しさを飲み込むように空を仰いだ。

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