世間では夏休み真っ只中の八月も呪術高専では日々任務や訓練等に時間を割いていた。というか割かないと冗談抜きで人が死ぬ。こちらに来て半月も経っていないけれどそれは嫌という程にわかってしまった。休憩中の今もどこかで呪いが人を殺していると思うとソワソワと焦りが浮いてくるような気分だ。
そんな中でも多少の良いことはあった。転校初日に一悶着あった伏黒、釘崎らとそれなりに打ち解けてきたという実感を感じるのだ。しかし何となくまだ一線引かれている感が否めない。ということをそれとなくあんなんでも先生な五条先生に相談してみれば「虎杖悠仁」なる存在を知った。
この人は七月に命を落としてしまったそうだ。それも伏黒の目の前でだと言っていた。
……。
「……両面宿儺ってその虎杖悠仁だったりするのか」
ふとそんな考えに至ってしまった。あまりにぶっ飛んだ理論だが長年連れ添った直感がそう言っている。いつもは助けてくれる直感が嫌な方向に働いてしまった結果だ。もし仮に、これが正解だとした場合の転校初日の俺の言動は彼らにとってどう映ったかと考えると……この上ないほどに最低なのでは無いだろうか? 彼らの行動に説明もつく。
「うわぁ……」
そう思うと打ち解けた気がしたのも全て気の所為な気がしてきてしまった。彼らはずいぶんと無理をして俺と付き合っているのかもしれないと深読みしてしまう。
「そんな所でなにやってんの」
「五条先生……トイレだったんですけど、ちょっと取り返しのつかないことをしたなと思って」
「えっ漏らした?」
「違いますけど」
「そう? まあなんでもいいけど、それよりちょっと話したいことあるんだ。一緒に来てもらうよ」
「わかりました」
校庭にいる気まずい同期たちと先輩たちに一言いって先生の後ろを付いていく。人気の無い方へと迷いなく進んでいく。
仮にも先生だ。呼び出されると生徒の身としては多少緊張する。何を話すのか分からないということも一因になって一歩進む事に不安が増していくようだ。
「じゃ目を瞑って」
「え? いいですけど変なイタズラだったら怒りますよ」
「まあいいからいいから」
多少疑いの念はあるが一応教師である彼が特段変なことをする訳では無いだろうと思い目を閉じる。腰に五条先生の手が触れたときにふと、そういえば目隠しして常時縛りプレイ気味の変態だったなと思い至り少しだけ恐怖が顔を出しそうだったものの小脇に抱えられた感覚があり、ただ場所を移動するだけなのだと気づいた。
間もあかず一度離れた地に足が着いたことでそれも終わったようだとわかった。なんか材質違う気がする。
「はい、もう開けていいよ」
そう言われてゆっくりと目を開ける。そうして飛び込んできたのは何やらテレビを見ている男の後ろ姿だった。
「悠仁、お客さん」
「先生!」
「は……?」
振り返った彼はどこにでも居そうな同い年くらいの男の子であった。無理だわ、どこにでもこの同い年の筋肉がいたら怖いわ。何あれ。ていうか同年代に男の子とかキモイか……。いやいや今それどころじゃないぞ。
「悠仁って、虎杖悠仁か!?」
「うおっ近いな! ってお前誰だ?」
「いや俺の事よりお前っ! え、なんで死んでない!?」
「ちょっ先生!? この人死ぬほど失礼なんだけど!!?」
「頼む答えてくれ! 俺の今後がかかってるんだよ!!」
「そんなになの、俺お前と初対面だよね!? 先生見てないで早く止めて!!?」
「え……」
「面倒くさそうにしない!」
「頼むよぉ!!」
あまりに唐突でタイムリーな生存報告に我を失ってしまったが虎杖悠仁(仮)のおかげでなんとか収めることに成功した。その後、虎杖悠仁(仮)が五条先生を恨めしく見ていたがその辺はよく分からなかった。
気を取り直すように五条先生がわざとらしく咳払いした。ウォッホンとかすごくおじさん臭い感じだ。
「えーまぁ今日2人に会ってもらったのは仲間が増えるよってことを伝えたかったからですっ!」
「こいつも呪術師なの!? こんなで?」
「おいおい虎杖くん、傷つくよ」
「あ、ごめん」
「いいよ」
あら素直。誰だよ虎杖くんのこと史上最悪の呪いの王とか言ったやつ、そんな訳ないだろ。だってこれだぞ。
「一つ聞きたいんだけど、一応、一応ね? 両面宿儺って虎杖くんのことだったりする?」
「いや違うけど!?」
「だよね!? よかったぁ!」
そりゃそうだ。話を聞く限りは千年前の死に損ないの化け物ってことだから生きてるわけない。直感が外れることだってある、そう思うことにしよう。
「クソガキ、貴様今俺と小僧を同列に扱ったか」
「うわ出た!」
虎杖くんの頬にでてきた口と一つ目、手で叩かれるも終わることなく手の甲に同じ形で出て来た。シンプルに不気味だ。
「びっくり人間コンテスト優勝」
「は?」
「そんなことをすればこいつは即処刑されるがな」
「ごめん、つい」
「ついで俺処刑されそうになったの!?」
呪いの王というが思ったよりもノリが良いようだ。考えていたような極悪非道よりも余裕を感じる。
「そんなことはどうでも良い。貴様の言動は実に不愉快だった。時が来れば必ず殺す。覚えておけよ」
「え、口だけなのに?」
「「ブフォッ」」
一つ目の口に殺害宣言された。口はへの字に曲がり心底気分の悪そうな顔(?)になったが何も言うことなく消えた。今のところ害はないがこんな奴が虎杖くんと同一だと認められていいわけはない。本当に悪いことしたなと思う。
「虎杖くんマジごめん」
「何が……?」
さっきまで笑いをこらえるように肩を震わせていた虎杖くんは不思議そうな顔でそう言った。いいんだ。自己満足のためだから許さないでおくれ。
さて、五条先生の言うことを信じるとすれば用件はこれで終わりだ。未だに大笑いしている先生は放っておいて道程を隠してまで訪れたこの場所を見て回る。
「石造りの地下で入口はあれだけ、換気扇があるし食料さえあれば特に生活に困るわけではなさそうな……」
頭によぎるは最悪の想定。生徒と教師、死亡偽装、監禁、仲間が増える……。
「まずい! 逃げよう虎杖くん!!」
「ちょいちょぉい!! 待ってよ勝利、また変な方向に振り切れてない?」
「クソッ変態教師め」
「やっぱり!」
「待てよ、えっと……」
「あ、俺は浅野勝利」
「おうよろしくな浅野ってそうじゃなくてな? 先生は変な人だけど変態じゃないと思うんだ」
「それもそれでどうかと思うよ。悠仁?」
「そうは言ってもな虎杖くん。変な人だから変態な訳では無いけど変態はだいたい変な人なのさ、つまり先生は」
「そ、そうなのか……!」
「まって? 2人とも僕を見る目が変だよ。ていうか悠仁は当事者だよね。事情しってるよね? 説明してないっけ、僕が悪いのかな」
「説明してないならあんたじゃないか」
「先生、縛りってなんなの」
「何縛りって」
「俺も分かんない。だけど今聞かなきゃいけない気がした」
「へー」
あーだこーだ言ったけれど、流石にそれほど地に落ちた存在だとは思っていない。それでも虎杖くんがその可能性を信じてしまったあたりそれほど信頼は無いのかもしれない。
「そろそろ話してくださいよ。どういう目的で俺たちを引き合わせたのか」
「あーやっぱり何かあんの?」
「そりゃあるだろ。ないなら虎杖くんみたいな秘密の塊みたいな存在に合わせるわけないと思うし」
「秘密の塊……」
虎杖悠仁、もしくは両面宿儺に引き合わせた本当の目的。一体何があるのだろうか。
「いや普通に転校生が来たよって」
「……それだけ?」
「え……うん。それだけって仲間外れは嫌でしょ?」
目隠ししててもわかる。本気だ。本気でそう言っているんだこの人は。
「いや、えぇ……」
「なんだと思ってたの?」
「最初は、なにか事情があるみたいだったから、手頃な俺を訓練相手にするつもりかと考えた。だけど虎杖くんの中に両面宿儺がいるのは確認したしそれが危険なものだっていうのは何となくわかる。だから推測だけど、虎杖くんの体で両面宿儺が表に出てきた場合にはストッパーが必要だ。それが俺になるのかと思った」
伏黒や釘崎は、まだ少し力が足りないってこともあるけれどそれ以前に多分虎杖くんを殺せない。その点俺は多分躊躇い無く殺せる。変わった瞬間も分かるから首をすぐに落とせる。先生とは二回ほど手合わせしたからおそらくそれを理解しているだろう。
けれど先生は頭をガリガリとかいて深くため息をはいた。
「そう考えなかった訳じゃないよ。けどね、僕も先生だ。生徒に任せるくらいなら自分でやる意地はあるんだよ」
そう言った先生は笑っていた。傲慢に余裕に自信たっぷりの良い笑顔で。
「それに悠仁も宿儺に好き勝手させる気なんてサラサラないでしょ」
「ッ……押忍!!」
背負ってるものは重いだろうに。気づいてないのか気づいていてもなのか……すごく眩しいものを見ている気がした。
「あ、勝利は今後悠仁の任務に同行してもらうよ。恵や野薔薇と合わせて2対2でバランスいいでしょ」
やっぱりこいつはあまり深く考えていないだけかもしれない。