陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
第一話 元一般高校生は同郷の狂人と出会う
『異世界転生』という単語を、昨今のサブカルチャーに造詣がある人なら知っているだろう。
かく言う俺も知っている内の一人だ。
何故このような事を言っているのか、答えは簡単だ。
今、自分が絶賛体験中だからだ。
前世の死因は、トラックの事故に巻き込まれた事による圧死だった。
どんな感じに死んだのか詳しく言うと。
死んでしまったその日は高校生最後の夏。その時は大学の受験の勉強やら何やらで気分が滅入っていた。
だから夜に気分転換の為、山の中を自転車で走っていた。
満点の星空、少し都会から離れると街の光で見えなかった星たちが見える様になる。
それなりの速度で走っていたから、少し強い風を全身で浴びるのは気持ちよかった。
暫く走っていたら、対向車線からトラックがやって来た。
そのまますれ違うと思っていた時、突然トラックの前に人が飛び出してきたのだ。
山の中から何かを掴もうとして飛び出てきた様に見えた。
あと何か奇声も発していた。トラックのブレーキ音で何を言ってたのか分からなかったけど。
突然横の森の中から人が出てきても、反応は出来ないだろう。
辺りにけたたましいブレーキ音が鳴り響く。
トラックの咄嗟のブレーキも間に合わず、飛び出して来た人は見事に轢かれていた。
そしてトラックの運転手はハンドル操作を誤ったのか、対向車線に居たこっちに突っ込んできたのだ。
「――えっ?」
この時最後に覚えている光景は、迫りくるトラックと滅茶苦茶焦った顔をしていたトラックの運ちゃんの顔だった。
そして俺はそのままガードレールとトラックに挟まれて、自分の中の物が出ていく感覚をこれでもかと味わいながら、高校生という若さで命を落としたのだ。
正直トラックの運転手は可哀想だと思う。
急に飛び出してきたバカのせいで二人も轢き殺してしまったのだから。……あんまり重罪にならないといいけど。
でも飛び出してきたバカは絶対に許さないけどな。
俺は別に前世では悪い事とかしていなかったから、転生する事が出来たのだろうと思っている。
別に神様的な存在に会った訳じゃ無いけど。
だから飛び出してきたバカは転生なんてしてるわけないと思っている。だから今後も何かの間違いで再会するなんて事は無いだろうな。
転生した世界は『中世ヨーロッパ風ファンタジー』といった世界だった。
憧れの異世界だ。それも赤ん坊の頃から始まる第二の人生。
まさに夢にまで見た『強くてニューゲーム』と言うやつだ。最高だね。
しかも生まれた家も立派だった。王都から少し離れた辺境の地だったけど、何と貴族でしかも爵位付き。
更に爵位は伯爵と来た。因みに伯爵は爵位の順番的には真ん中あたりだ。
そんなヤーク伯爵家の長男として生まれ変わったのだ。
そして俺の今世のフルネームはシュウ・ヤークと言う。
……前世での感覚があると何とも言えない名前だなって思うけど、この世界では割とマシで普通の名前だったりする。
詳しくは覚えていないけど、昔両親に連れていかれた社交界ではもっと変な名前がいっぱいあった記憶がある。
両親によく可愛がられていた俺は、転生した直後から調子に乗っていた。
当たり前だ。前世では高校生だったから、この世界の言語以外の事なら直ぐに出来た。
だから何をしても直ぐに褒められた。これで調子に乗らない方が難しい。
言葉は少しだけ習得が遅れたが、それでも世間一般では早い方だったらしい。
そしてこの世界にはファンタジー世界の定番である魔力がある。
使い方は簡単。身体を強化する事、物に流して操作や強化をする事以上ッ!。
……それだけ? って正直思った。
もっとこう魔法とかそう言うのは無いのかと思って、覚えた文字を活用して、家の書斎の本を読み漁ったけど、魔法は無いらしい。身体から出ると急激に霧散してしまうとの事だった。
俺は膝から崩れ落ちた。魔力の存在意義無いじゃんって思った。
五歳ぐらいまでは前世での経験を元に、優秀な子供を演じ好き勝手に生きていたのだが……まあ改めて思うけど、この時は本当に調子に乗っていたと思う。
前世では当たり前に出来ていた事を何をしても褒められる状況。調子に乗るなと言う方が難しいと思う。
でもそんな状況も長くは続かなかった。
ある日、父上が戦いの稽古をつけると言って来たのだ。
母上がまだ早いのではと言っていたが、父上は今始めないと手遅れになると言っていた。
……今思えば父上は、俺が完全に調子に乗っていたのを見抜いていたんだなって思う。
俺はその父上からの稽古を何も考えずにやると言ってしまったのだ。
今まで殆どの事が上手く進んでいたから、自分には戦闘の才能もあると本気で思っていたから、何も考えずに返事をしたのだ。
自分はこの世界の主人公なんだと、この時は恥ずかしい事に本気でそう思っていた。
その後直ぐに父上に、脳天に一撃を入れられて叩きつけられる形で地面に沈められて、地面と熱い接吻をするまでは。
まさか今世のファーストキスが地面だとは思わなかったなぁ。
そして今に至るという訳。
「立て、シュウ。この世の中そんな実力では生きていけないぞ」
そう言ってくる父上。
正直数年前までただの高校生だったから、いきなり戦えと言われても出来る訳が無かったなと、立ちながらそう思った。
「……はい、父上」
そう言いながら俺は再び父上と向き合う。
今世の父親である、父上は緑がかった黒髪だが歳の影響か髪には白髪が混じっている。そして目の色は赤色だ。
因みに凄く悪人っぽい顔をしている。目線だけで人を殺せそうだなって思った事がある。
俺も父上に似たのか子供にしては既に結構目付きが鋭い。
元々王都の方で色々な異名で有名な魔剣士だったらしい。何でもブシン祭で優勝した事があるとかないとか。
因みに『魔剣士』とは魔力で身体を強化して戦う騎士の事らしい。俺もゆくゆくはその内の一人になるのだろう。
その後父上に愚直にも突っ込んでは地面とキスをし続けて分かった事がある。
この人かなり強い、けど戦い方が何か卑怯だ。何となく俺はそう思った。
父上の武器は両手でも片手でも持っていいぐらいの長さの直剣で、素人の俺が見ても非常に扱いやすい長さだと思う。
それを片手で使い、敢えて反対の手を空けているのだ。
何のためか。相手を掴んだり何かを投げてきたり薄い籠手で攻撃を弾いたりと。
そもそもよく見る剣で打ち合うという状況を絶対に取らない様にしているみたいだった。
その時は理由はよく分からなかった。
後で知ったけど、父上も余り魔力の制御が上手くないから、まともに打ち合うと武器が先に壊れてしまうらしい。だから打ち合わずに攻撃を受け流して隙を作り反撃する事にしたとの事。
そして足りない身体能力の差は小技で埋めるという方法を取ったらしい。
何処までも勝ちに貪欲で、何を言われ続けても勝ちに行け、とそう父上は後でそう語っていた。
だが今はそんな事を知らなかった時の話だ。
ボコボコにやられて何度も地面に倒れ伏し、その度に立ち上がるように言われて、結局その日は全身打撲による痛みで悶絶しながら寝る事になった。
次の日。俺は簡単にはボコボコにやられない為に、武器庫にあった訓練用の槍を持ってきた。
これなら距離が取れるから、昨日の様にボコボコにされる事は無いだろうと思っていた。
結果、槍は中腹の棒の部分を叩かれ、俺は戦いの途中で槍を落としてしまった。
その後は拾い上げる前に距離を詰められてボコボコにされて、昨日と同じ様に地面に倒れ伏す事になった。
その次の日は別の武器を、また次の日は別の武器をと言った具合に負ける度に別の武器に変えていった。
ひと月ほど経って、丁度武器庫にあった訓練用の武器を一通り使った頃、父上が漸く武器の扱いを教え始めてくれた。
曰く、戦える意思があるか確かめる必要があった事と、調子に乗っていたその自信を徹底的に折る為にわざとボコボコにしてきたらしい。……めっちゃスパルタ方式じゃん。
今更だけどよくよく考えたら一回も武器の扱いについて教えられていなかったと気づいた。
元一般高校生が戦えと言われて戦える訳が無いという事で。
そこからは今まで使っていた武器を全て使いこなせるまで徹底的に鍛えられた。
全て使いこなせるようになるまで実に四年近くもかかってしまった。
でも一番得意な武器が出来た。それは槍だ。
長槍と短槍の二槍流というやつだ。……別に少しぐらいカッコつけてもいいじゃないかと思ってる。
こんな言葉を聞いた事は無いだろうか。『突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌』という物を。
まあ、これは十文字槍だけに言える事なんだけど。俺の使う槍は割と普通の槍だ。
でも間合いヨシ! 多彩な攻撃方法ヨシ! といった感じで個人的には非常に気に入っている。
俺の感性は普通だからまだ戦いが怖いとかそう言う感情が残ってる。だから少しでも距離を取ろうとして槍を特に練習したってのもある。
長槍で距離を確保しながら相手を攻撃して、懐に入り込んで来たら短槍で迎撃するという戦闘スタイルだ。
一応槍の腕は父上が雇った戦闘指南役の人達、複数人に囲まれても何とかなるレベルにまで達した。
まぁ、一番得意というだけで普段は父上のスタイルと同じく、片手に剣で片側は空けておくというものだけど。
因みに俺はもう九歳になっていた。この頃にはもう転生後の生活にも慣れて、自然と普通のこの世界の住人として暮らしていた。
そう言えば自分の素質を調べた時に分かったけど、俺はどうやら魔力量自体は途轍もなく多いらしい。
制御がまるで出来ていないのでまさに豚に真珠、猫に小判、箪笥の肥やし、といった具合で完全に宝の持ち腐れという状態だった。
たまに魔力が暴走でもしているのか、内側から身体が爆発四散しそうな勢いの衝撃と言うか何と言うか分からないがそういう現象が起きる。その時は全身に激痛が奔るから結構精神も削られる。
今の所必死に抑え込むと何とかなるが、この現象は歳を重ねる毎に強くなってる気がする。
……早く魔力制御のコツを覚えないと将来とんでもない事になってしまうかもしれない。
そんな将来に対する漠然とした不安を考えていた時だ、不安を打ち消す為に夜に出歩き、魔物を狩り始めたのだ。
単純に今の自分の実力が何処まで通じるのかというのも気になったのだ。
流石にこんな事をしていると周囲にバレると不都合だと思ったので、家の倉庫に転がっていた仮面を着けて魔物を狩っていた。
因みに魔物を相手にする時は流石に危ないので一番得意な槍を使っていた。
まあ、たかが考えなしの獣相手にイキっていても、悲しいだけだ。
そんなある日、やけに騒がしいなと思い少し明るくなっている場所に近づくと、商人たちがならず者達に襲われて無残にも殺されている最中だった。
俺は普通に怖くてその場で咄嗟に助けに出る事が出来ず、近くの草むらでジッとその光景を見る事しか出来なかった。
すると襲われていた馬車の下から俺と同じくらいの歳の女の子が這い出てきているのが見えた。
ここで俺が音を立てたりすると出てきている女の子が見つかる可能性がグッと低くなるはずだ。
そう思って音を立てようとしたのだが、結局は怖くなって出来なかった。
どうやら俺はどんなに鍛えられても、対人戦を経験しても心は元の一般高校生の時と変わらず、臆病なままだったらしい。
ならず者達と殺し合いをする勇気を出せなかった。
そんな事を思っていると、女の子が見つかってしまった。
偶然か、それとも俺に対する神からの挑戦状か、女の子はこちらに向かって走って逃げてきていた。
ここで草むらから助ける為に出ると確実にならず者達と戦う事になる。
そうなると殺されるかもしれない、トラックに轢かれて死んだときの様に、段々と自分が冷たくなっていく感覚をもう一度味わう事になるかもしれない。そう思ってまた動く事が出来なかった。
うじうじと情けなく何も出来ないでいた時。
「――あ」
俺か女の子かそれとも両方か、掠れるような声が出る。
逃げてきている女の子と目が合った。やけに世界の動きが遅く感じる。
女の子の首に追ってきていたならず者の剣が迫っているのが見える。
俺は何もできずにその光景を眺めていただけだった、そのままならず者の剣が女の子の首が斬り飛ばす光景を。
目の前に転がってくる頭。その見開かれた目は何かを訴えかけている。そう見えた。
俺は取り返しのつかない事態になって漸く理解した。いつまでも前世の感覚でいると何もできないのだと。
人を殺すのは悪い事、先に手を出した方が負けだとかそんな前世で教えられてきた道徳観は、この世界では何の役にも立たないと理解した。
そこからは早かった。
茂みから出てならず者達の前に姿を晒す。
「何だこのガキ? 生き残りか?」
「別にいいだろ、殺せばよぉ」
俺は背負っていた長槍をその手に持つ。
そしてそのまま急接近して無言のまま槍を一番近くに居たならず者の首に突きさす。
「うごッ!」
そして直ぐに引き抜きそのまま薙ぎ払い二人纏めてぶった切る。
「うおあぁ」
「なあぁ⁉」
残っていた最後の一人を串刺しにする。
「ぎゅっ!」
あんなに悩んでいたのにいざ行動を起こすと直ぐに、それもあっけなくならず者達は死んだ。
今までやって来ていた事を実践しただけで簡単に殺せた。
俺は殺されてしまった商人の一家を丁寧に埋葬した。
その日はそれ以上何もせずに家に帰った。
その次の日の晩俺はしっかりと装備を整えて、ならず者狩りを本格的に始めた。
罪滅ぼしとか色々理由はあったけど、この世界に何より自分自身にムカついたから始めた。
二度とこの辺りで犯罪行為を行う気が起きない様にする為に、殺したならず者はそいつの武器で頭を串刺しにして晒しておいた。
次はお前の番だとそう言うメッセージを込めて、敢えて残虐な殺し方をしていた。
そして知らない間に俺の名前は広まっていたようで、ならず者に会うと『串刺し仮面』とか呼ばれるようになっていた。どうでもいい。
もうこの頃には魔力の暴走が日常茶飯事になっており、意識が朦朧としている事の方が多かった。
だからか、この時自分が相当ヤバい事をやっていた事を全く自覚出来ていなかった。
そんなある日。俺はいつものように淡々と作業をするようにならず者を殺していた。もう慣れ親しんだ血に濡れた日常。代り映えの無い日々。
武器を回収してその上に斬り落とした頭を刺していく。
「……転生する世界……間違えたかな」
自分で選んで来たわけでは無いが、そう思った。
何の因果か、どの様な理由でこの世界に転生したのか分からない。だからさっきの様な独り言を呟いてしまうのも仕方がない事なのだ。
しかしそんな日は突然終わりを迎える。俺は運命の出会いを果たしたからだ。
「君が噂の『串刺し仮面』?」
突然声をかけられた。声のした方向を見ると満月を背景に倒れた丸太の上に脚を組み、表情に笑みを浮かべて座っている少年が居た。
その少年は黒いフード付きのコート羽織り、赤い目が煌々と輝いていた。はっきり言って厨二病感満載な少年だった。
「自分ではそう名乗った事は無いけど、そう呼ばれた事はある」
「へぇ、じゃあ一回戦ってみない? 最近は盗賊とか相手をしても面白みが無いからね」
何か知らんけど急に戦いを申し込まれた。
「別に戦う理由なんて無いだろ。悪いけど進んで人と戦う気は無い」
「え? そうなの? こんな残酷な殺し方をしておいて?
「そんなの恐れ多いわ、失礼だろ国を守るためにやった人と同じにするのは。俺はただ色々な事にムカついていたからやってるだけだ。大義も正義も何もない」
普通に考えたらこの時に気づいていたと思うのだが、異世界の住人がブラド公を知っているのはおかしいのだ。
でも俺は全く気づかなかった。後で聞いたら相手はこの時に既に確信していたらしいけど。
「――へぇ。やっぱり戦ってみたいなぁ」
「だから戦わないって言ってるだッ――どういうつもりだ?」
こちらが話している途中で目の前のコイツは普通に攻撃してきた。頭おかしいんじゃないか?
「どうもこうも一回戦った方がいいよ、それもそこそこ全力でね」
相手はどうやら戦う気しか無いようだった。
俺も一番得意な槍を持ち出す。今回は初めから二本とも持つ。何故なら油断できない雰囲気を感じ取ったからだ。
相手はよく分からない何かで出来た剣一本だった。
お互いに動かない。だが月が雲に隠れた瞬間、俺から動き始めた。
「ハッ!」
まずは牽制も兼ねた長槍で突きを繰り出す。
だが目の前の奴は何でもない様に流すように弾く。
「いいね、槍使いとはあんまり戦った事無かったから新鮮だよ」
「何が新鮮だ!」
そのまま突きの態勢から左の短槍でこれ以上近づかれない様に間合いを確保する。
だが相手は短い隙でこちらに攻撃をしてくる。今の一瞬で頬が斬られたのが分かる。
「おお、中々な使い手だね」
「煽ってるようにしか聞こえないなッ!」
そして相手の上段斬りに合わせて俺は槍を二本を組んでそれを受け止めるが。
「――グッ!」
予想を遥かに上回る膂力を前に声を漏らしてしまう。
魔力による身体強化でここまで変わるとは思っていなかった。
俺は地面にめり込んでしまっていた脚を引き抜くついでに前進しながらの突きを放つ。
「すごいすごい。全然魔力を使っていないのにここまで戦える人物は初めて見たよ」
「訳あって使うのが怖いんでなッ!」
俺は足払いをし相手が避けた所に突きと薙ぎの連撃を畳みかける。
それでも目の前の相手はそれを難なく避け、更に攻撃まで仕掛けてくる。
俺は徐々に傷が増えていくのに対して相手は以前無傷のまま。
俺は焦りから思わず魔力を少し開放してしまう。その時に全身に激痛が奔る。
こうでもしないと勝てないと踏んだから次の一撃に賭けて、戦いを終わらせようとしたのだ。
「うぐッ! ッ――これでどうだッ!」
身体に奔り続ける痛みを堪えながら今までとは比べ物にならない速度の突きを放つ。
「おお! ってん? 君その状態は――」
相手が何かを言う前に俺は短槍で突きを繰り出しながら、長槍で相手の避ける方向を無くす。
(勝った)
そう思ったのだが相手は急に間合いを詰めてきて短槍を難なく弾き、長槍は中腹から叩き落とし、そのままの勢いで左手で俺の顔面を殴ってきた。
「ぷげっ」
俺は変な声を上げながらそのまま軽く吹っ飛ばされて、久しぶりに地面とキスをした。
ああ、そう言えば前にもこんな事があったなぁと、俺は久しぶりに土の味を感じながら気絶した。
次に俺が目を覚ました時には既に月が沈みそうになっている時だった。
つまりもう夜明けが近いという事だ。
「あ、やっと起きたんだ。どう調子は?」
何でもない様に先ほどまで戦っていた少年は聞いてきた。
「調子? 調子は……アレ?」
ここ数年ずっと苦しかった何かがすっかり無くなっていた。ついでに怪我も治っていた。
いつも暴走気味の体内の魔力が嵐の時の波の様に荒れ狂っていたのに、波一つ無い湖の様な穏やかさになっていた。
「は? え? もしかしてお前がやったのか?」
「うん、そうだよ。僕が君の魔力を操作して治めたんだ。でもビックリしたね自分より魔力量の多い人を見つけたというのもそうだけど、あんな力技で今まで魔力暴走を抑えていた事に」
「魔力暴走?」
「あれ? 知らないの?」
この後説明を受けた感想だけど、よく今まで生きてたな俺って思った。
「取り合えずありがとう。でも何で治してくれたんだよ」
「色々理由はあるけどまず一つは君が僕と同じ転生者だったからかな?」
「……お前も転生者なのか」
「そう、流石に同郷かも知れない人を見捨てるのはどうかなって」
成る程、俺は偶然この少年に救われたという訳なんだ。
「それで二つ目なんだけど、魔力制御の練習をしてみたくなった」
「台無しだよお前」
人がせっかく助けてもらったから感謝してたのに一気にその感謝の気持ちが吹き飛んだわ。
「それで三つ目なんだけど手伝って欲しい事があってね」
「……まぁ、助けてもらったし。聞くだけなら……」
「僕の相棒になってみる気はない?」
「相棒? 何のだよ」
いきなり相棒とだけ言われてもよく分からない。
「そうだ、その前に聞きたい事があるんだけど」
「何だよ」
「君は主人公とかヒーローとかに憧れたことは無い?」
んん? 突然何を言い出すんだコイツは? 主人公とかヒーローとかに憧れたこと? それが相棒になって欲しいとどう繋がるのか俺にはさっぱり分からなかった。
「男なら小さい頃とか一回はあるだろそりゃ」
「うんうん、そうだよね! 所でこの辺で盗賊を狩っていたのはどういう理由?」
……さっきから話の流れが分からない。
「少し前に多分商人の一家がならず者、いやお前に合わせるなら盗賊か。そいつらに襲われてる所に遭遇したんだよ」
「それで?」
「俺が着いた時には生き残りは、当時俺と同じぐらいの歳の女の子だけだった。でも俺は怖くて助けに行けなかった」
「君、それなりに実力はあると思うけどそれでも怖かったんだ」
「ああ、殺されるのも殺すのも怖かった」
「へー、僕には分からない感覚だね」
……マジかコイツ。そう言うのに躊躇いが無いのか。普通にドン引きなんだけど。
「話を続けるけど、そのままビビってたら女の子が殺されたんだよ」
「あらら、残念だね」
「……。で、その後怒りとか諸々の感情で突っ込んだらあっさり盗賊たちは殺せた」
「ふむ」
「それ以降は根絶やしにしてやろうと思って殺し回っていた感じだな」
「うーん、まあ合格かな?」
「何のことだよ」
さっきから色んな事聞いてきていたけど、結局何だったんだ?
「少し大げさに言うと君は世界の平和を望んでいる訳だ」
「大げさすぎるわ。それにそこまで大きな考えは持ってない。さっきも言ったけど大義とかそう言うのは俺には無いって」
「そこで僕は合格点だと思った訳だ」
「おい、人の話を聞けよ」
「そして『陰の実力者』の相棒に相応しいと」
「『陰の実力者』? なんだそれ?」
「陰の実力者と言うのは主人公でもないラスボスでもない、物語に所々で介入し実力を示す謎の存在さ」
へぇ。随分と変な夢を持っている様だな。
「だけどそれには介入するべき主人公が必要なんだ」
「魔力を抑えてくれてありがとう。俺はそろそろ帰るわ」
嫌な予感がした俺は、さっさと立ち上がりこの場を去ろうとした。
しかし少年は直ぐに俺の事を掴んで逃がさない。え? 何このパワー全く動けないんだけど? さっきも思ったけどコイツ凄まじいパワーゴリラじゃん。
「待って待って、君にはまだまだ成長の余地がある。僕が色々と教えるからさ相棒として主人公をやってよ」
「普通に嫌だわ」
「そんな事言わないでさ。君は僕が助けなかったらあと数日で死んでいたよ?」
「え? マジで?」
「うん。マジで」
何てこった。俺はこのイカれ狂人に命を救われるというクソデカい借りが出来ているらしい。
「それに僕がやったのはあくまでも一時的に抑えるというだけ。
「つまり?」
「君は自分で魔力制御がちゃんと一人で出来るまで僕にお世話になり続けないといけないという事」
オイオイオイ冗談キツイわ。
「つまり俺に実は拒否権は無いと?」
「そうなるね」
俺は再び地面に倒れた。今回はうつ伏せでは無く仰向けだけど。
「――この世界ってクソだな」
「そう? 僕は結構楽しいけどね」
こんなクソったれな世界でもコイツは笑っている。
……そう言えば俺が今までこの世界で会ってきた人達って、こんな心の底から笑ってる人って居たっけな?
そう思うとコイツの隣に居る事が一番この第二の人生を楽しむことが出来るんじゃないかと思えてきた。いや、どの道離れたら死にかけるから離れられないんだけどさ。
でもせっかくなら第二の人生を楽しみたいという気持ちはある。
「聞きたいんだけどさ」
「何?」
「お前は何でそんなに楽しそうなんだ?」
「僕が楽しそうな理由? それはね、今から夢が叶っていきそうな、そんな気がするからかな」
その言葉を聞いて、何処までも楽しそうなコイツを見て、俺は少なくともコイツの夢に協力しようと思った。
目の前で誰かをまた助けられず悔しい思いするとか、もしくはそういう事を防げるほどの実力が身に付くかもしれないし。
少なくともコイツと一緒にバカをやってる間は、このクソったれな世界での第二の人生も楽しいものになるかもしれない。
この時は本気でそう思っていた。
……そういえば名前聞いていなかったな。
「……俺の名前はシュウ。シュウ・ヤークだ。未来の陰の実力者」
「フッ、僕はシド。シド・カゲノー。よろしく頼むよ未来の主人公」
「いや、だから主人公にはならないって」
「えー、なってよ主人公に。そういう路線も絶対に合うって」
「普通の相棒で我慢してくれよ。あーその代わりこの世界に居るだろうまだ見ぬ主人公ポジションのやつを頑張って見つけるからさ」
「本当⁉ いやぁ楽しみだなぁ。十五歳までには頑張って用意してよね。シュウ」
「……後六年ちょっとしかないじゃねえか! 短すぎるだろ!」
「無理だったらシュウが主人公の役割をやってよ」
「いや、だから期間が短いって」
無理難題をそんな納期で出来るわけないだろ。
――コイツの相棒になったのもしかしたら間違いだったか?
俺はそんな予感が早くもしていた。
この様に俺は未来の陰の実力者であるシド・カゲノーと出会った。
この出会いが始まりで後でまさかとんでもない世界規模の面倒事にまで発展するとは、この時はまだ微塵も思っていなかった。
アニメの二期を視聴して陰実にハマったので、これを機に読み専から脱却しようと書き始めました。
途中おかしい所があるかもしれませんが、これから頑張って覚えたり学んだりしていくので暖かい目で見守って下さるとありがたいです。